与党と野党がこぞって「氷河期世代支援」を叫び始めた。なぜ今ごろ?いかにも胡散臭いこの流れには、どんな大ウソが仕込まれているのだろうか?「政治家には氷河期世代を救済するつもりなどまったくない」と指摘するのは米国在住作家の冷泉彰彦氏。団塊世代が投票所に行かなくなる年齢に差し掛かったため、次の「大票田」として氷河期世代の票が狙われているだけだという。このように本末転倒の発想と政策が、氷河期世代を「作った」にもかかわらず、日本は再び「氷河期世代もギリギリ逃げ切れますよ詐欺」を始めようとしている。(メルマガ『冷泉彰彦のプリンストン通信』より)
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:作られた氷河期世代を考える
今さら「氷河期世代支援」を訴える政治家たちの本音は何か?
この春頃から、急に氷河期世代の問題が議論されるようになりました。何を今さらという感じもあるのですが、具体的には、「いわゆる氷河期世代が50代になり、高齢者のゾーンに入っていくまで10年に近づいてきた」という議論の建て方がされています。その中身は相変わらず無責任なものです。つまり、
「氷河期世代には、非正規雇用など少ない年収で生活してきた人口が多い。この人たちは厚生年金保険料を十分に支払ってきていないので、このままだと受け取る年金の金額が非常に少なくなる。だから何とかしたい」
このような問題の建て方がされているのです。
では、石破総理以下の政府は、「まずい、このままだと氷河期世代が引退年齢になってしまう」という時間的事実に焦っているのでしょうか?そして「氷河期世代のために何とかしなくちゃ」と発奮しているのでしょうか?
どちらも違うと思います。彼らの発想法はまったく違うと考えられます。
「そろそろ、巨大な団塊世代が投票所に行かなくなる年齢に差し掛かっているな。だったら、彼らを優先したシルバー民主主義はもう閉幕。ここからは次の大票田である氷河期に目をつけなくちゃ」
これが政治家の行動原理の奥にある考え方だと思います。そして彼らは、こうした発想法そのものが氷河期世代を「作った」ということには気づいていません。
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政策からも経済界からも冷遇されつづけてきた氷河期世代
何が問題かというと、この時点で大きく2つの政策の誤りを抱えているからです。1つは、これまでの現役世代であった長い期間、具体的には1995年前後から今までの30年にわたって、氷河期世代は政策からも民間の経済界からも冷遇されてきたという事実です。
それは、意思決定の中枢においては、政官界でも民間でも、もっと上の世代、つまり最初は昭和一ケタ世代、次に団塊、次に谷間といったグループが好き勝手をしていたことを示します。権限のない氷河期は社会全体からも、個別の官民の組織の中でも冷遇されました。
その結果として、第2次ベビーブーム世代である氷河期は、次の人口のピーク、つまり団塊の第3世代を生み出すことはありませんでした。
この人口の問題については、「いやいや、第3のピークはなかったかもしれない。けれども、団塊2世(イコール氷河期)の女性たちは出産年齢を延長して頑張ったので平準化しているだけ」という反論があります。人口問題を議論する際に、政府側が好んで行う説明です。
これは嘘っぱちです。確かにこの時期に日本の女性たちが出産年齢の延長や、仕事と子育ての両立に頑張ったのは事実です。ですが、それが効果を発揮しているのなら、薄く広く出生数の盛り上がりが生まれるはずです。ところが、出生数の推移グラフを見てみればそんな「薄い盛り上がり」など皆無だということがわかります。女性たちが頑張ったのは事実ですが、それで辛うじてチャラになるぐらい、結婚や出産を諦めるというヒドい判断に追い込まれた世代だと言えます。
少子化、人口減の主因は、この氷河期(イコール団塊2世)への政策と民間の判断ミスの積み重ねにあります。彼らが50歳の坂に差し掛かった今になって「氷河期対策」などと言われても、まったくもって白々しいとしか言いようがありません。(次ページに続く)
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「氷河期世代もギリギリ逃げ切れますよ詐欺」でしかない支援策の大ウソ
もう一つ、「今、この時期に氷河期対策を持ち出す」ことの愚かさとして、「逃げ切りの連鎖」という問題があります。
どういうことかというと、戦後80年にわたって、世代間の富の移転に関しては次のような構造が連鎖していました。
「戦前世代はロクな年金制度がなかったので年金の積立もしていないし、敗戦で旧日本円は紙くずになった。だから、彼らが老後を迎える際には、年金を下の世代が支えた。ちょうど高度成長や安定成長があったので、団塊など下の世代は支えることができたで、戦前世代は下の世代のカネで逃げ切った」
「団塊世代は、上の世代を支えたが、高度成長と安定成長を享受し、また年金は下の世代に支えてもらって逃げ切った」
「谷間の世代も、まだ日本経済には繁栄の遺産があったのでこれを享受し、年金はまだ破綻していないので、下の世代に支えてもらって逃げ切りつつある」
まさに世代間連鎖です。本当は、どこかの時点、例えば日本経済が絶頂期にあった80年代などに年金を「賦課方式」から各世代による「自分の世代の積立方式」に変更すべきでした。厚生年金と国民年金の「上方への」一本化もすべきでした。
ですが、政官界も財界もこの改革をサボってきたのです。そして今になって、再びこの連鎖を進める話をしようとしています。現在の議論としては、
「人手不足やグローバルな人件費の共通化などで、今の若手は初任給がアップしている。支払い能力が出てきたのだから、資金を氷河期に移転して、何とか氷河期もギリギリ逃げ切れるようにできないか?」
というストーリーがあるわけですが、これもまた世代間の搾取の連鎖であり、上の世代を何とか「逃げ切らせる」という発想法に他なりません。
政官界はまったく懲りていないというか、戦後80年同じようにインチキな「世代間のねずみ講」をやった経験で、再び似たような姑息なことを考えているわけです。(次ページに続く)
「氷河期をギリギリ逃げ切らせる」ために行われるインチキ政策
ただし、「氷河期をギリギリ逃げ切らせる」ための具体的な手段はまったくもって謎です。
国税、地方税、社会保険料を合わせた国民負担率は、限りなく50%に近づいています。世界的に見て、富裕層でもなんでもない年収4万ドル前後の国民に対し負担率50%というのは、これはもう完全に限界値です。これ以上取るのであれば、若い世代は国外に逃げるしかなくなります。
もちろん、政官界はそんなことは見通しているでしょう。ですから、最終的に国民負担率が50%を大きく超えるようにはしないと思います。
では、どうやって若者世代から氷河期に富の移転を図るのかというと、次のようなロジックが使われる可能性を感じます。
(1)厚生年金と国民年金を合体させて、全体を平準化させて支払い年金額を抑える
(2)国民全員に確定申告を義務化して、完全に所得を捕捉。その総額から社会保険料を計算して徴収する
(3)今現在、社会保険料を多く取られている「1社の給与収入だけの富裕層」には、さらなる負担は求めない。その代わり、副業している人、自営業の人の負担は拡大する
(4)負担増の一方で、将来もらえる年金が減るという問題はNISAで補ってもらう。仮に運用に失敗しても自己責任
これらの政策をセットにして、何とか現役の若い世代から資金を絞り出して、氷河期世代に対して「逃げ切り」ができる「フリ」をしようということだと思います。
仮にカネが足りなくなったら、「氷河期はNISAを始める年齢が遅かったから残念でした」的な詭弁でごまかすのかもしれません。
あくまで推測ですが、これ以外に当面は「やりようはない」ので、かなり真剣に想定しておいたほうが良いと思います。
そう考えると、野党の言動にも疑惑の目を向ける必要があります。消費税ゼロ化などという「甘い言葉」の裏に何があるのか、これも怪しさ満点です。例えば上記の(1)から(4)のような「負担増」をセットで仕込んでいる可能性は十分にあるでしょう。(次ページに続く)
若年世代減少で“ねずみ講”の破綻は必至。ではどうする?
と、ここまでは最近、急に言われはじめた「氷河期世代が約10年で高齢者に」というスローガンの裏にある怪しさ満点のストーリーについてお話してきました。
では、氷河期の「逃げ切り」を演出して、氷河期から集票しようという与党や政府の意図があるのだとして、こうした考え方は「仕方がない」のでしょうか?それは違うと思います。
どんなに巧妙にやっても、厚生年金と国民年金を合体させて、副業や自営業収入まで累進させて社保を取るのであれば、国民負担率はごまかせてもダメです。結果的に国民の購買力を奪うからです。
「老後は面倒を見ないからNISAで自己責任」というのをどんどん拡大すれば、仮に日本の産業や労働の構造改革ができなければ、資金は海外に逃げるだけです。さらに言えば、この先は年齢1年あたりの労働人口が加速度的に減っているのですから、「より若い世代に搾取の連鎖」をしていくのにも限界があります。それがさらに少子化を加速度的に悪化させれば、本当に国が滅んでしまいます。
では、どうしたらいいのか?ここは、そもそも「どうして氷河期世代が生まれたのか」という原点に回帰するのがいいと思います。
氷河期世代が生まれたのは、バブル崩壊のせいではありません。タイミング的には、バブル崩壊が契機となりましたが、それが真の原因ではありません。具体的には3つの原因があったのです。
1つは、新卒一括採用です。4大卒の新卒が総合職採用され、30代まではハラスメントに耐えながら、各社自己流の過去のノウハウだけを注入されるという制度です。
2つ目は、メンバーシップ型採用です。各社は自己流の過去のノウハウを教えるのが好きですから、最初から専門的な知識を学んだ人材をジョブ型の専門職として取りたがりません。
3つ目は年功序列人事です。同期は横並びで出世させて、その上で管理職以上は競争させて役員候補を絞り込むわけで、そのためにはスタート地点で年齢が上の人材は邪魔です。
正確に言うと、「バブル崩壊」という危機に対して、この3つの馬鹿げた制度を守るために、一時的に一定期間だけ新卒採用を絞った、これが氷河期世代を生んだのでした。(次ページに続く)
これまでの30年とは「真逆の改革」でしか日本は復活しない
具体的には、正社員総合職は「20代30代はハラスメントに耐えるべき」で、その代わりその上の世代になったら今度は「ハラスメントはやりたい放題」という制度がありました。この制度を維持するため、若さを失い、自分の権利を主張するような「年齢の進んだ新人」は徹底的に排除されたのでした。
また、正社員総合職というのは、イザという時には法的にグレーゾーンや、ブラックゾーンに入っても会社を「守る」ことを要求されました。そうすると、非正規労働を通じて社会の常識を知り、また労働者の権利を知った人間は絶対に排除されたのです。
また各社は自己流の業務を維持していましたし、そうした企業風土やノウハウは秘密とされたので、外部の人間が学び直すことはできませんでした。一部の理系の専門人材を別として、ビジネスに関する専門性はむしろ嫌われました。とにかく中途採用というのは「総合職正社員は幹部候補という宗教を信じて耐えてきた」人材に限られ、正規労働の経験がないままに年齢を重ねた人は絶対に排除されたのです。
このようなバカバカしい制度が、氷河期の人材を排除し続けたのです。同時に、本来なら氷河期世代に回るべきカネが、上の世代の人件費を捻出するために使われました。そのために、上の世代が逃げ切れた代わりに、日本経済全体としては非英語圏、非DX、非標準化という絶望的な非効率が維持されたのでした。
少なくとも、氷河期は人口ピラミッド的には巨大な塊であり、団塊や谷間といった上の世代よりは、より国際化やDXに近い世代です。このグループが、30代後半から40代にかけて、各社の各組織の多数派になって権限を持ち、徹底的に業務改革に取り組んだのであれば、日本経済は今のような悲惨な状態にはならなかったと思います。
少なくとも英語とDXで韓国に負けることはなかったとも思います。とにかく、氷河期世代というのは「作られた」ものなのです。
最初は「儲けにならない新入社員のコストを削減しよう」という実にセコい動機で排除されたわけです。ですが、30年をかけて各企業、各組織が「改革を先送り」しつつ「上の世代を逃げ切らせる」ために氷河期世代を踏みつけてきたわけです。(次ページに続く)
氷河期世代はもう騙されるな。今、本当にやるべきことは?
あらためて氷河期世代の皆さんは、心の底から怒るべきです。
その上で提案なのですが、その怒りを前進するエネルギーに変えて、改めて行動してはどうでしょうか。具体的には、自分たちを追い詰めた要因を「徹底的に破壊する」のです。つまり「新卒一括採用」「年功序列」「メンバーシップ雇用」に加えて「DXと国際化の先延ばし」をぶっ飛ばすのです。
自分たちを苦しめ、日本経済を瀕死の状態に追いやった「アンシャン・レジーム(旧体制)」を破壊するのです。その手段は単純です。まだまだ日本の多くの企業や官公庁は、職場によってバラバラの「自己流の仕事の進め方」をしています。これを徹底的に調査して暴露し、標準化して高効率のDXに乗せるという「新産業」を氷河期の皆さんが立ち上げるのです。
例えば全企業、全職場の共通のものとして予算管理や給与計算、生産と在庫の管理、営業事務があります。完全に共通仕様にして標準化し、大規模に展開するのです。つまり、多くの企業などの人事部と経理部、あるいは生産管理、在庫管理や営業事務を「亡き者」にして、その代わりに企業には高効率な生産性を提供して対価を得るのです。
そのようにして、自分たちを追い詰めた原因を壊し、実際に追い詰めた人々から仕事を奪い、その効率化で大いに稼ぐのです。そのためには、氷河期世代が30代以下の若手世代とタッグを組むのもいいでしょう。とにかく、やる以上は徹底的に、攻撃的に、非連続的にやるのです。
これの何がいいのかというと、こうした行動は日本経済の全体に寄与します。衰退にブレーキをかけ、少なくとも大卒50%という高度教育社会に投じられたコストをマネタイズすることができます。事務員集団という「各社自己流の業務」という何の役にもにも立たない、何も産まない、いや反社会性や非合法性すら隠しているようなグループを叩きのめして、経済を成長軌道に戻すことも可能になります。
そのような行動と革命を通じて、日本経済を変革するのです。よく考えれば、長寿が当たり前、そして何歳でも若々しい時代です。50歳なんて壮年も良いところです。
その氷河期世代に対して「あと10年で高齢者」などと不安感を煽り、姑息なマジックで「皆さんにも世代間の助け合いで逃げ切りを」などと甘い言葉をささやく政府はヒドいと思います。
あらためて申し上げます。非正規の経験で身についた「権利主張の精神」「雇用主と労働者は利害相反という常識」「各社の自己流によるムダな事務仕事の発見」というのは、日本経済を救う財産なのです。今こそ、そのノウハウをマネタイズして、ガンガン稼げばいいのです。
いずれにしても、搾取の連鎖で逃げ切りの輪をつなぐ、そんな80年の歴史を断ち切らないと、この国は本当に滅んでしまいます。そして、何よりも氷河期世代自身が最終的に救われない結果になると思います。
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