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イーロン・マスクはどこへ消えた?トランプに成り代わりアメリカ再構築のため手腕を発揮した“切り込み隊長”の行方

トランプ大統領の下で政府効率化省を率い、連邦政府の「ムダ」削減に手腕を振るったイーロン・マスク氏。しかしながらその手法が賛否両論を呼んだこともあってか、来年7月4日までの任期を前に政治の表舞台から姿を消す形となっています。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、そんなマスク氏の最新の話題を紹介。「太陽系への人類の拡散」という自身の野望に着々と近づく同氏の確実な歩みに興味を示しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:イーロン・マスク氏のその後

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

トランプ政権から実質的に離脱。イーロン・マスク氏の気になるその後

トランプ2.0政権において、政府効率化省(Department of Government Efficiency、DOGE)のトップとして、連邦政府のリストラに大ナタを振るったイーロン・マスク氏ですが、発足から100日を迎えた段階で「潮時」と判断したのか、政権の手伝いはトーンダウンし、本業であるテスラ社やスペースX社の経営に軸足を戻しています。

【関連動画】Elon Musk receives applause from Cabinet as he begins planned departure from DOGE role

DOGEはもともと、米国の建国250周年にあたる来年7月4日(独立記念日)までに任務を完了し解散するという期間限定のイレギュラーな組織として発足しました。しかし、マスク氏の過激で急進的な手法に対し、リストラされた連邦政府職員はもちろん、一般国民や国際社会からも反発が強まり、テスラ社の施設への破壊行為や放火などが相次いでいます。トランプ大統領としては、反マスク運動が反トランプ運動に波及するリスクを懸念し、早目に手を打ったというところでしょう。

個人的には、マスク氏にはもうしばらくDOGEを続けてもらって、リストラを進めると共に連邦政府の不透明な資金の流れを徹底解明するところまで踏み込んで欲しかったので、中途半端な形で終わってしまうのは大変残念に思います。

彼のやり方や考え方に対する賛否は分かれるところでしょうが、トランプ氏に成り代わってこのような切り込み隊長としての大胆な役割を担えるのは、後にも先にもマスク氏をおいて他には考えられません。自分の事業や資産を犠牲にしてでもこの役割を引き受けたマスク氏には、米国を再構築する上での強い使命感があったことは疑いのないところです。

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「新たな自治体」となるスペースXのロケット発射基地

そのマスク氏に関する最新の話題の一つは、メキシコとの国境に近く、メキシコ湾(アメリカ湾)に面したテキサス州キャメロン郡にあるスペースX社のロケット発射基地「スターベース(Starbase)」が、このたび新たな自治体となることが決まったことです(図1参照)。以下はそれを喜ぶマスク氏のXへのポストです。

https://x.com/elonmusk/status/1918834940264784009

マスク氏は、4年以上前から、もともと「ボカ・チカ・ビーチ & ビレッジ(Boca Chica beach and village)」と呼ばれていたスペースX本社やロケットの打ち上げ施設がある一帯約1.6平方キロメートルのエリアを新たな「市」として編入するための取り組みを行ってきました。

図1:Starbaseのロケーション(グーグルマップより)

そして5月3日に行われた住民投票では、賛成212票、反対6票という圧倒的多数で新たな市の設立が承認されました。この区域には約500人の住民がいますが、その大半がスペースXの従業員とその家族たちなので当然の帰結ともいえます。キャメロン郡当局も、スペースXとスターベースがこの地域の経済発展の原動力になっていることを高く評価しています。

企業城下町としてスペースX主導の体制が整ったスターベース市

住民たちは、新市の市長および2名のコミッショナーとして、いずれもスペースXの社員である3名を選出しました。市長にはスペースX副社長のボビー・ピーデン(Bobby Peden)氏が選ばれましたが、他の2名のコミッショナーとともに無投票で決まりました。これにより、スターべース市の市政は、事実上の「企業城下町」としてスペースX主導の体制が整った形になります。

今後この企業城下町スターベース市が発展すれば、製造業の国内回帰を目指すトランプ大統領にとっても悪い話ではありません。宇宙開発事業による米国復活を担う希望の地としてアピールされることになるでしょう。

スペースXとしては、都市計画、土地利用の規制、インフラ整備、公共サービスの運営などを新たな市の管轄下に置き、同社がこの地で宇宙開発事業を推進する上での自由度を高めることが目的です。たとえば、これまでキャメロン郡の承認を都度必要としていたロケット打ち上げに伴うビーチの閉鎖などについても、スターベース市の自治権によって市の判断で行うことが出来るようになる可能性があります。

しかしながら、こうした新市への権限移譲にはテキサス州議会の承認が必要とされ、今のところ、スペースXの経済効果を認めている郡の当局者でも、このような郡から市への権限移譲には慎重なようです。理由の一つとしては、一部の地元住民や活動家のグループが、スペースXのロケット関連施設や同社が掲げる「火星へのゲートウェイ」という構想に対し、環境面での懸念を表明して反対しているという背景があります。

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スペースXが公開したスターベース市のプロモーション動画

マスク氏は、太陽系に人類を拡散させるという彼の野望の中核拠点としてスターベースを位置付けてきました。その第一歩が、巨大宇宙船「スターシップ」を往復させて火星に人類の居住エリアを作ることです。スターシップは、これまで、スターベースでのみ開発、製造、打ち上げが行われてきましたが、将来的にはフロリダ州ケープカナベラルからの打ち上げも計画されています。

なお、スターシップは、火星への到達を目指す前に、NASAのアルテミス計画の一環として、今後数年以内に宇宙飛行士を月に送り出す計画です。

スターベースは、ロケット製造工場の「スターファクトリー」や打ち上げインフラだけでなく、従業員や観光客のための道路、住宅、宿泊施設、基本的な生活インフラの整備なども進めていますが、この地が、月や火星をはじめとした宇宙へのゲートウェイとして、今後どのような発展を遂げていくのかについては興味津々です。

最後に、スペースXが公開しているスターベース市のプロモーション動画を紹介します。これをご覧になると、より具体的なイメージが膨らむのではないかと思います。

【関連動画】Life at Starbase by SpaceX

(本記事は『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2025年5月9日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください)

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image by: Hadrian / Shutterstock.com

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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