MAG2 NEWS MENU

安倍政権が蒔いた“社会劣化の種”。川崎ストーカー事件を招いた国家権力の腐敗と怠慢

警察の怠慢としか言いようのない対応で、尊い命が失われた川崎ストーカー死体遺棄事件。なぜ日本の治安維持組織を含む国家権力はここまでに劣化してしまったのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、その原因を深堀り。さらにこのような時流にあって、警察に希望を見いだすことができる「とある実話」を紹介しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:気になったニュースから 川崎市のストーカー事件で思うこと

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

止まらぬ社会の劣化。「川崎ストーカー事件」に思うこと

1999年10月に発生した桶川ストーカー事件では、女子大学生が殺害されるという痛ましい結果となり、これを契機に2000年、「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」が制定されました。

しかし、その後もストーカーによる事件は後を絶たず、対策の不十分さがたびたび指摘されています。先日も、川崎市で発生したストーカー殺人事件において、警察の対応が問題視されました。被害者やその遺族は、事件前に何度も警察に相談していたものの、十分な対応がなされなかったとされています。

ここ最近、社会の劣化が止まらないという実感を強くしています。特に深刻なのは、国家権力の腐敗や怠慢です。政治の世界は言うまでもなく、検察や警察においても、信頼を揺るがすような事例が後を絶ちません。

「鯛は頭から腐る」ということわざが示すように、モラルハザードが社会全体へと広がっていくのではないかという懸念を、私は第二次安倍政権の頃から表明してきましたが、残念ながらその懸念が現実のものとなってきた感を強めています。

検察の堕落を象徴する事例としては、例えば、最近再び注目を集めている森友問題に関連する公文書の改ざんや廃棄に関して、関与した財務省関係者を全員不起訴とした大阪地検の判断が挙げられます。

この判断を下したのは、当時大阪地検トップの検事正だった北川健太郎氏とされていますが、同氏はその後、部下である女性検事に対する性犯罪が発覚して逮捕・起訴されました。検察官が性犯罪で検挙されるとはまさに前代未聞の事態ですが、こうした人物が森友事件の判断に関与していたことには、看過できない問題があると言えるでしょう。

【関連記事】森友文書、「政治家関与部分『欠落』」は財務省の大罪、佐川氏国会再喚問が不可欠

この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ

登録はコチラ

警察組織の腐敗が可視化された「アベ友」の逮捕取り消し

また、60年近くにわたり冤罪に苦しんだ袴田巌氏の無罪が確定した際、畝本直美検事総長がその判決に対して批判的な談話を出し、大きな反発を招きました。

本来であれば、検察の最高責任者として、まず袴田氏のもとに出向いて直接謝罪の意を伝え、冤罪の温床となってきた「人質司法」など、検察の構造的な問題を見直す改革の姿勢を示すべきでした。にもかかわらず、反省の色を見せることなく、検察の正当性を主張するかのような尊大な態度には強い憤りを禁じ得ませんでした。

そして、警察組織の腐敗が可視化された顕著な事例として多くの注目を集めたのが、2015年に発生した伊藤詩織氏に対する元TBS社員 山口敬之氏による性暴力事件です。山口氏は、安倍晋三元首相と親密で、安倍氏を称賛する「よいしょ本」の出版を控えていました。捜査当局による山口氏の逮捕状が発行されていましたが、直前で逮捕が取り消されたのです。

報道によると、山口氏は当時の内閣情報官 北村滋氏に泣きつき、その後、警視庁刑事部長であった中村格氏によって逮捕が取り消されたとされています。

その中村氏は、その後警察庁長官にまで昇進しました。人事は「信賞必罰」が要諦ですが、この人事は、世間的な常識から言えば信賞必罰とは真逆の人事と言えるでしょう。こういうことをやり始めると、組織も社会も徐々に壊れていきます。

さらに、中村氏の後任として警察庁長官に就任した露木康浩氏についてもいろいろと疑問があります。露木氏は、岸田文雄元首相の最側近とされる木原誠二氏の妻が関係しているのではないかとされる過去の死亡事件について、「事件性なし」として早々と再捜査を打ち切りました。

また、昨年発生した鹿児島県警の内部告発事案では、不祥事を通報した警察官を逮捕するという顛末になりましたが、通報者への不当な対応として批判を浴びました。これもまた、組織的な情報隠蔽とモラルの崩壊を象徴する出来事といえるでしょう。

元警視庁捜査一課の叩き上げの刑事であり、『ホンボシ』という著書も出版している佐藤誠氏は、警察組織の不祥事に対して、XやYouTubeなどのメディアを通じて継続的に問題提起を行っています。特に、露木氏をはじめとする警察幹部の判断や姿勢に対しては、遠慮のない厳しい批判を繰り返しており、川崎市で発生したストーカー事件に関しても、多くの的確な指摘を発信しています。

本来、こうした現場経験と倫理観を兼ね備えた人物こそが、警察組織の中枢で要職を担うべきではないかと感じさせられます。

【関連リンク】佐藤誠(元警視庁捜査第一課)

この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ

登録はコチラ

ストーカー被害の相談に迅速かつ丁寧に対応した警察に見る希望

国家権力中枢の腐敗はかくも深刻な状況ですが、こうした話ばかりでは気が滅入ってしまいますので、最後に一つ明るい話を紹介したいと思います。現場には今もなお、真摯で優秀な警察官や刑事たちが確かに存在しており、日々、市民の安全と安心のために誠実に職務を全うしているという話です。

少し前のことになりますが、私の知人の娘さんがストーカー被害に遭ったことがありました。加害者は、彼女のまったく知らない人物で、通勤途中にあるオフィスビルの警備員だったそうです。

ある時期から、その警備員が彼女を見かけると、顔をじっと見つめてきたり、後をつけてきたりすることがあり、彼女は不気味に感じていたそうです。

ある日の夜、彼女が帰宅する途中、その警備員が勤務中であるにもかかわらず持ち場を完全に離れ、執拗に後を追いかけてきたことがあったそうです。

彼女は普段から用心深い性格とのことですが、そのときは機転を利かせて自宅とは別の方向に歩き、咄嗟に近くの駐車場に入り、車の陰に身を潜めたといいます。すると、その警備員はすぐ近くまで迫ってきて、しばらく周囲を行き来しながら、彼女の姿を探している様子だったそうです。

翌日、彼女は両親と共に所轄の警察署に相談に行ったそうです。すると、川崎の事件とは対照的に、非常に迅速かつ丁寧な対応がなされました。

担当の刑事は、まず被害者から事情を丁寧に聴取し、すぐに周辺の防犯カメラの映像を確認、警備員の身元を特定し、ストーカー行為の実態を裏付けたとのことです。

その上で、直ちに警察署に本人を連行して厳重に注意し、ストーカー行為をただちにやめるよう警告を行いました。さらに、その警備員が所属する警備会社にも連絡を取り、配置転換を要請したそうです。

また、被害者の女性には、しばらくの間は通勤経路を変更し、最寄り駅の利用を避けるようにといった防犯上のアドバイスも行いました。

ほどなくして、その警備員の配置転換が実行され、それ以降は彼の姿を見かけることはなくなったそうです。娘さんもご家族も、その知らせを受けてようやく安心できたと話していました。

桶川の事件も川崎の事件も、もし警察がもっとしっかり対応していれば防げた可能性があると考えると本当にやり切れない思いです。

今回紹介した件は、それらの事件に比べればごく軽微なストーカー事例だったかもしれません。それでも、事態をまったく軽視することなく、すぐに毅然とした対応を徹底した警察官の存在には希望を持ちたいと思います。

(本記事は『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2025年5月16日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください)

辻野晃一郎さんの最近の記事

この記事の著者・辻野晃一郎さんのメルマガ

登録はコチラ

image by: akiyoko / Shutterstock.com

辻野晃一郎この著者の記事一覧

辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

有料メルマガ好評配信中

  メルマガを購読してみる  

この記事が気に入ったら登録!しよう 『 『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』

【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

print

シェアランキング

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MAG2 NEWSの最新情報をお届け