またも忌まわしい事件が起きてしまいました。神奈川県川崎市で起きた、ストーカー化した元交際相手との「トラブル」によって20歳という若い女性の命が奪われてしまったのです。今回のメルマガ『デキる男は尻がイイ-河合薫の『社会の窓』』では健康社会学者の河合薫さんが、神奈川県警がとった動きの是非や、SNS上にあがった女性への心ない言葉の数々など、同様の事件で繰り返される問題を鋭く指摘。そして、河合さん自身にも起きた「不審なメールや届け物」が送られるという恐ろしい事案についても告白しています。
プロフィール:河合薫(かわい・かおる)
健康社会学者(Ph.D.,保健学)、気象予報士。東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(Ph.D)。ANA国際線CAを経たのち、気象予報士として「ニュースステーション」などに出演。2007年に博士号(Ph.D)取得後は、産業ストレスを専門に調査研究を進めている。主な著書に、同メルマガの連載を元にした『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアムシリーズ)など多数。
恐怖と被害の狭間で。
命を守ることができたのではないかーー。
またもや不幸な事件が起きてしまいました。
報道によると被害者の女性が川崎臨港署に相談したのは、24年6月です。
その後も女性が被害届を出したり、女性の家族が相談したり、とやりとりがあったにも関わらず事件は起きてしまいました。
神奈川県警は「ストーカー被害に関する相談を受けていた認識はなかった」とのこと。ストーカー規制法に基づく警告をするには必要な被害者の申し出を女性が望んでいなかったと説明しています。
ストーカー規制法が制定されるきっかけになった桶川ストーカー事件が起きたのは、1999年10月です。
当時メディアは連日連夜この問題を取り上げ、警察側の情報だけをひたすら流し続けました。コメンテーターやMCは、被害者側にも問題があったかのような発言をし、世間もそれに同調する動きが出ていました。
そして今回も、SNSには当時と同じような論調のコメントが散見されています。
外野から石を投げ、あたかも自分は社会の問題に向き合ってるかのような気分になってる。私にはそう見えます。残念すぎます。
そもそも警察はなぜ、自分たちが対応する事案ではない、と判断した時点で、女性相談支援センターや女性人権ホットラインなどの公的機関に、つながなかったのでしょうか。
「ストーカーを未然に防ぐことを目的とした、警視庁の情報発信ポータルサイト」と題されたHPには、上記も含めた相談支援が紹介されているわけです。
いったい何のためのポータルサイトなのか。
個人的な話になりますが、2年ほど前、不審なメールや届け物が相次いで送られてきたことがありました。メールはかなり恐怖を覚える内容で、私が直接仕事をさせてていただいている関連企業にも送られることもありました。
荷物は自宅に定期的に届き、送り主を発送元に連絡しても、個人情報だから、との理由で協力してもらえませんでした。
本当に怖くて怖くて。外出するとき、自宅に入る時も、背後が気になって。
それで知人と共に警察に相談にいったのです。
しかし、アポを入れていたにもかかわらず「たらい回し」です。
やっと対応してくれた警察の人も「被害届を出さないと対応できない」と。
被害届を出す、ということは、私が出した、ことが犯人にわかるのでそれも怖い。
結局、近所のパトロールをしてくれることになったのですが、実際にはその直後の一回だけしかしてくれませんでした。
かたや警察からの安否確認の電話だけは、1ヶ月おきにかかってくる。
しかし、かかってくるのは私の仕事中(講義や講演会、ラジオなど)なので、こちらはとることもできません。
するとまた一月後にかかってきて、タイミングよく出れると「ちゃんと電話出てくださいね~」と言われるのです。
私の場合は、“犯人”が他の事案で逮捕されたことで、ことなきを得ました。
しかし、警察への相談は、身の危険を感じるから相談しているのに、警察は立件できるような事件が起こらないと何もしてくれません。そのことだけはよくわかりました。
今回の川崎の事件では、メディアは警察の対応に問題がなかったか? という報道をしていますが、録音もしてない、書類も残してない、ただ「警察はこう言っている」という情報にどれだけの価値と意義があるのか。
メディアの報道のあり方についても、メディア自身に考えてもらいたいです。
みなさんのご意見、お聞かせください。
この記事の著者・河合薫さんのメルマガ
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