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「これは私の戦争ではない」。なぜトランプはウクライナ戦争終結の仲介役から身を引く判断を下したか?

5月16日にトルコで開催されたウクライナ戦争の停戦協議と、その後に行われたトランプ・プーチン両氏の電話会談。国内外のメディアは、どちらもがこれと言った成果を得られず戦争終結の道筋は未だ見られないと伝えましたが、はたしてそれは正鵠を射た報道なのでしょうか。今回のメルマガ『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~』では『グーグルで必要なことは、みんなソニーが教えてくれた』等の著作で知られる辻野晃一郎さんが、トランプ氏がSNSで発信したメッセージ等を引きつつ「戦争は間違いなく終結に向かっている」と断言。さらにアメリカがウクライナとNATOを見限った理由を解説しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:気になったニュースから ウクライナ戦争は終結に向かっているのか?

プロフィール辻野晃一郎つじの・こういちろう
福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

「会談は非常にうまくいった」。ウクライナ戦争は終結に向かっているのか?

このメルマガの第106号で、ウクライナ戦争が終結に向けた最終段階にあるということを述べました。

【関連】日本メディアの不正確な情勢判断。トランプが「ウクライナ戦争の仲裁を投げ出す」という大ウソ

前号の第108号でも、先週16日にトルコで開催されるかもしれないとされていたプーチン大統領、ゼレンスキー大統領、トランプ大統領による三者会談への期待を込めて、もしそれが本当に実現すれば、ウクライナ戦争の終結に向けて大きく前進することになるだろうと述べました。

しかし、残念ながら三者会談は実現せず、トルコではロシアとウクライナによる実務者協議の開催にとどまり、プーチン大統領とトランプ大統領は19日に電話会談を行うという流れになりました。ちなみに、その電話会談に先立ち、新ローマ教皇の就任を祝うミサに参列するためにローマを訪れていたJDヴァンス副大統領やルビオ国務長官が、ゼレンスキー大統領と会談しています。

これら一連の動きの結果として、ロシアとウクライナの実務者協議は平行線に終わり、プーチン氏とトランプ氏の電話会談も、戦争の即時終結を促すトランプ氏に対してプーチン氏は同意しなかったと報道されています。したがって、これを額面通りに受け取れば、トランプ氏が仲介したウクライナ戦争終結に向けた協議は不調に終わった、という解釈になります。

ところが、電話会談の直後、トランプ氏はTruth Socialに「会談は非常にうまくいった」として次のように投稿しています。

https://truthsocial.com/@realDonaldTrump/posts/114535693441367601

以下は、上記がホワイトハウスのXのアカウントに再掲されたもので内容は同じです。

https://x.com/WhiteHouse/status/1924523810331529669

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電話会談を傍聴していた人物の興味深いコメント

このメッセージを日本語に翻訳すると以下の通りです。

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領との2時間の電話会談を終えたところです。私は非常にうまくいったと感じています。ロシアとウクライナは、即時に停戦および戦争終結に向けた交渉を開始する予定です。その条件については、両当事者間で交渉されることになります。なぜなら、交渉の詳細を把握しているのは彼らだけであり、他の誰にも分からないからです。

会話のトーンと雰囲気は非常に良好でした。そうでなかったなら、後ではなく今この場でそう言うでしょう。ロシアは、この破滅的な「流血の惨事」が終わった後、アメリカと大規模な貿易を行いたいと考えており、私もそれに賛成しています。

ロシアには、莫大な雇用と富を生み出す途方もない可能性があります。そのポテンシャルは無限大です。同様に、ウクライナも自国の再建過程において、貿易面で大きな恩恵を受けることができるでしょう。

ロシアとウクライナの交渉は直ちに開始されます。このことは、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、フランスのエマニュエル・マクロン大統領、イタリアのジョルジャ・メローニ首相、ドイツのフリードリヒ・メルツ首相、フィンランドのアレクサンダー・スタブ大統領に、プーチン大統領との通話直後に私から伝えました。

バチカン(ローマ教皇)は、交渉の開催地として強い関心を示しています。さあ、このプロセスを始めましょう!

トランプ大統領は電話会談後、記者団から「仲介役を降りるのか」と問われ、「ただちに仲介をやめる考えはない」と明言した上で、「何も進展がなければ、ただ身を引くだけだ。これは私の戦争ではない」とも述べています。

一方、プーチン大統領も電話会談後の記者会見で、「全体的に非常に有益だった」と強調し、「ロシアは、将来的な平和条約に関して、ウクライナと協力して覚書をまとめる用意がある」と述べています。

さらに、英フィナンシャルタイムズ紙によると(「Has Donald Trump abandoned Ukraine?」)、ロシア側で電話会談を傍聴していた外交政策顧問のユーリ・ウシャコフ氏は、「電話会談はとても友好的で、どちらの大統領も自分から先に会話を終わらせようとはしなかった」とコメントしています。

同紙は、英諜報機関MI6と関係が深く、ロシア情報の正確性に定評があることや、今年4月に「プーチン大統領が現在の前線に沿って侵攻を停止することを提案した」という情報をスクープしたことについては第106号で紹介しました。

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国益のためウクライナとNATOを見限ったトランプ

結局のところ、ウクライナ戦争は本当に終結に向かっているのか、それとも依然として目途が立たない状況にあるのか、という情勢判断ですが、私は、今回加筆したその後の一連の動きを踏まえても、やはり間違いなく終結に向かっていると捉えています。

トランプ氏にとって、SNSで発信したメッセージはまさに本音であり、バイデン政権やNATOが始めたこの馬鹿げた戦争を一刻も早く終わらせて、ロシアを敵国扱いしてきた従来の立ち位置を180度転換し、今後は両国の友好関係を強化しながら、経済面での利益を最大化していくつもりなのだと思います。

そのためには、ここで戦争終結に向けた仲介役から身を引き、後は当事者同士に任せると宣言した上で、ウクライナへの軍事支援を停止し、同時にロシアへの経済制裁も解除することが、最も有効な手段だと判断したのではないでしょうか。いわば、米国の中長期的な国益を考えてロシア側に立ち、ウクライナやNATOを見限ったということです。

「見限った」というと言葉がやや強過ぎるかもしれませんが、既に戦争に負けていて欧米の支援なしでは何もできないにもかかわらず、あたかも勝っている側であるかのようなゼレンスキー氏の終始強気な姿勢に辟易しているということもあるだろうと思います。たとえロシア側に有利な形であっても、戦争が終われば、ウクライナの一般国民が受ける戦禍も終わります。

ロシア側からしても、すでに実質的に勝利しているこの戦争を、あえて急いで終わらせる必要はありません。米国の支援を失ったウクライナがいずれ無条件降伏するのを待てば良いわけで、遠からずこの戦争をロシアにとって圧倒的に有利な形で終わらせることが出来ます。

本音では戦争継続を望んでいるゼレンスキー氏や、英国、フランス、ドイツ、ポーランドなどの国々からするとたまったものではありませんが、米国が彼らを見限って介入を止めてしまえば、もはや彼らには打つ手がなくなるのです。

(本記事は『『グーグル日本法人元社長 辻野晃一郎のアタマの中』~時代の本質を知る力を身につけよう~ 』2025年5月23日号の一部抜粋です。このつづきに興味をお持ちの方はぜひご登録ください)

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辻野 晃一郎(つじの・こういちろう):福岡県生まれ新潟県育ち。84年に慶応義塾大学大学院工学研究科を修了しソニーに入社。88年にカリフォルニア工科大学大学院電気工学科を修了。VAIO、デジタルTV、ホームビデオ、パーソナルオーディオ等の事業責任者やカンパニープレジデントを歴任した後、2006年3月にソニーを退社。翌年、グーグルに入社し、グーグル日本法人代表取締役社長を務める。2010年4月にグーグルを退社しアレックス株式会社を創業。現在、同社代表取締役社長。また、2022年6月よりSMBC日興証券社外取締役。

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【著者】 辻野晃一郎 【月額】 ¥880/月(税込) 【発行周期】 毎週 金曜日 発行

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