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「察する力」がグローバル市場で勝つ鍵だ。日本型ホスピタリティが世界に通用する理由

グローバル競争が激化するなか、日本企業はどのように独自の価値を打ち出せば良いのでしょうか。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、日本社会に根付いている「察する力」に注目し、これをビジネス戦略として活用することで「グローバル市場で差別化を図ることができる」と提案しています。

日本型「察する力」を活用したグローバル競争戦略

1.はじめに

日本社会に根付く「相手の気持ちを察する力」は、ビジネスにおける新たな競争優位性の源泉となり得る。古くからムラ社会での共同作業を通じて培われたこの能力は、現代の「空気を読む」文化や職人技の継承にも繋がっている。

本稿では、この「察する力」を基盤に、欧米企業と差別化したビジネスモデルを考え。グローバル市場での展開可能性を探りたいと思う。

具体的には、パーソナライズド・トレーニング、共感型カスタマーサポート、ムラ社会型チームビルディング、職人技継承プラットフォームの4つの戦略を提案し、日本企業の新たな成長機会の可能性を提示したい。

2.日本型「察する力」の背景

日本の「察する力」は、歴史的・文化的な文脈に深く根ざしている。

江戸時代以前のムラ社会では、田植えや稲刈りといった共同作業が生活の基盤だった。この環境では、言葉を交わさずとも、相手の意図や状況を瞬時に把握し、協調して作業を進める能力が求められた。

例えば、稲刈りの際、隣人の動きを見て自分のペースを調整する、あるいは新人に手本を見せながら、暗黙の指導を行うことが日常だった。

この文化は、現代の「空気を読む」能力にも繋がっている。職場や社会生活において、相手の表情、声のトーン、微妙な仕草から、ニーズや感情を察し、適切に対応するスキルは、日本人のコミュニケーションの特徴である。

職人文化でも同様だ。師匠は弟子の技術習得の進捗やモチベーションを直感的に捉え、個別に指導を調整する。

この「察する力」は、欧米の個人主義や効率性重視のビジネス文化とは一線を画す。日本企業がこの能力を戦略的に活用することで、グローバル市場での独自のポジションを確立できる可能性がある。

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3.パーソナライズド・トレーニングプラットフォーム

個々の学習者に合わせた教育・トレーニングサービスを提供するプラットフォームを構築する。欧米のeラーニングプラットフォーム(例:Coursera、Udemy)が標準化されたコンテンツ提供に注力するのに対し、日本型のプラットフォームは、AIと人間トレーナーの連携により、学習者の理解度や感情をリアルタイムで把握し、カスタマイズされた指導を行う。

このプラットフォームの核は、学習者の微妙な反応を察する「日本型コーチング」にある。

AIが回答の遅さ、表情、質問内容を分析し、トレーナーにリアルタイムでフィードバックを提供。トレーナーはこの情報を基に、学習者の弱点を具体的に指摘し、指導内容を最適化する。

例えば、ビジネススキルの習得では、交渉術やリーダーシップを教える際に、受講者の文化的背景や業務経験に応じた指導を行う。

また、職人技の伝承では、「見て盗む」文化をデジタル化し、ビデオ実演やVRを活用した指導を提供する。

対象市場は、グローバル企業の社員教育、スキルアップを目指す個人、異文化理解を求めるビジネスパーソンである。

自衛隊の訓練メソッドを応用したリスク管理やチームビルディングのワークショップも有効だ。

このプラットフォームは、欧米の標準化された教育モデルに対し、「人間らしい」指導で差別化を図り、顧客満足度を高めることが可能になるだろう。

4.共感型カスタマーサポートサービス

顧客の感情やニーズを瞬時に察するカスタマーサポートサービスを展開する。

日本の「おもてなし」文化を基盤に、AIチャットボットと人間オペレーターが連携し、顧客の不満や混乱を即座に捉えて対応する。

本サービスの強みは、顧客の声のトーンやテキストのニュアンスを分析する感情認識AIと、日本型ホスピタリティの融合にある。

例えば、クレームの裏にある本当の不満を特定し、言葉にしないニーズに応える対応が可能だ。欧米の効率重視のカスタマーサポート(例:Zendesk、Salesforce)は、迅速な問題解決に注力するが、感情への配慮が不足しがちである。本サービスは、顧客の心理に寄り添うことで、長期的な顧客ロイヤルティを構築する。

グローバルEC企業、ホテル・旅行業界、ハイエンドサービス業が主な市場となる。特に、訪日観光客の増加に伴い、多言語でのパーソナライズドな旅程提案サービスは需要が高い。日本型ホスピタリティをグローバルブランドとして確立できれば、競争優位性が期待できる。

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5.ムラ社会型チームビルディングコンサルティング

ムラ社会の協調性と暗黙の了解を活かし、グローバル企業向けにチームビルディングやプロジェクト管理のコンサルティングを提供する。チームメンバーの反応や意図を察し、効率的なコミュニケーションを促進する。

本コンサルティングでは、ファシリテーターが参加者の表情や発言の裏にある意図を読み取り、議論を円滑に進める。日本型のチームワークは、個人主義的な欧米の手法(例:Agile、Scrum)とは異なり、集団の調和を重視する。

例えば、多国籍チームの会議で、発言を控えるメンバーの意図を察し、適切に議論に引き込むことで、チームの結束力を高める。

多国籍企業、スタートアップ、クリエイティブ産業が主な対象となる。特に、異文化融合が求められるグローバルプロジェクトでの需要は高いだろう。

日本のムラ社会の協調性を、グローバルな職場環境に適応させるトレーニングは、新たな価値を提供するはずである。

6.職人技継承プラットフォーム

日本の職人文化をデジタル化し、伝統技術やスキルの継承をグローバルに展開するプラットフォームを構築する。

師匠が、弟子の進捗やモチベーションを察しながら指導するプロセスを、オンラインで再現する。

本プラットフォームは、職人の指導プロセスをデジタル化し、リアルタイムでのフィードバックを可能にする。

例えば、和菓子や陶芸の技術を学びたいグローバルな受講者に対し、職人がビデオやVRを通じて指導を行い、個々の進捗に応じたアドバイスを提供する。

欧米のDIY文化やマニュアル化された技術教育とは異なり、「人間的な師弟関係」を重視する点で差別化を図る。

伝統工芸愛好家、クリエイティブ産業、グローバル教育市場が対象となる。特に、日本の伝統文化への関心が高まる中、オンライン和菓子教室や刀鍛冶の技術指導は、グローバルなニッチ市場で需要が見込まれる。

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7.戦略のポイントと課題

7-1.ブランディングとテクノロジー活用

これらの戦略の成功には、「日本型ホスピタリティ」や「察する力」をグローバルブランドとして確立することが不可欠である。

AIやVRを活用し、人間の察する力をスケーラブルに提供することで、競争力を強化する。

また、日本の職人文化やムラ社会の協調性を、グローバルなビジネスニーズに適応させる工夫が必要となる。

7-2.課題と解決策

・文化的ギャップ: 「空気を読む」文化は、明確な言語化を好む欧米文化と相性が悪い。解決策として、サービス提供時に文化的背景を説明するガイドを用意し、価値を理解しやすくする。

・スケーラビリティ: 察する力は人間依存度が高いため、スケールが難しい。AIやデータ分析を活用し、人の能力を補助・拡張することで対応する。

・競合との差別化: 欧米企業が提供する効率重視のサービスに対抗するため、日本型の「人間中心」の価値を明確に打ち出すことが、必要になる。
 例えば、顧客満足度調査やチーム生産性のデータで、日本型アプローチの効果を可視化する。

8.グローバル市場での展望

日本企業のグローバル競争力は、技術力や品質管理だけでなく、文化的強みを戦略的に活用することでさらに強化される。

「察する力」は、顧客やチームメンバーとの深い関係性を構築し、長期的な信頼を獲得する鍵となる。

特に、AIやデジタル技術の進化により、この能力をグローバルにスケールさせる可能性が広がっている。

日本企業がこの強みを最大限に活かし、欧米企業との差別化を図ることで、新たな市場機会を創出できるだろう。

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■編集後記「締めの都々逸」

「阿吽ツーカー みなまで言うな それで伝わる ムラ社会」

経営コンサルタントやマーケティングコンサルタントが、欧米の企業との差別化を提唱することはないと思う。欧米の最新理論や事例を紹介することが仕事だと思ってるからだ。

しかし、日本企業が欧米企業より劣っているわけではない。むしろ、世界は日本企業を注目している。欧米から学ぶのも大切だが、日本の強みを、欧米との差別化戦略として、意識すべきではないか、と思う次第です。(坂口昌章)

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image by: Shutterstock.com

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