第1期政権時にも大規模軍事パレードを計画していたトランプ
ちなみに、前回、34年前の1991年6月に行なわれた軍事パレードは、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が、湾岸戦争におけるアメリカ主導の勝利を祝うためと、退役軍人を讃えるために開催されたそうです。つまり、その後の34年間は、戦地で命を落とした数多くの兵士も、数えきれないほどの退役軍人も、誰1人として軍事パレードでは讃えられていないのです。そして、一度も従軍経験のないドナルド・トランプの誕生日に、盛大な軍事パレードが開催されたのです。そりゃあ全米で抗議デモが起こるわけです。
やりたい放題のトランプに対する大規模な抗議デモは、就任直後の今年2月から全米各地で繰り返されて来ました。先週もトランプがロサンゼルスの移民排斥のために州兵を配置したり、海兵隊の派遣を決めたことで、2万人規模の抗議デモが過熱し、一部の暴徒化した市民と兵士とがぶつかり、すでに1,000人近くが逮捕されました。
今回の軍事パレードに対する抗議デモは、多くの地域で平和的に行なわれましたが、全米の2,100カ所以上で計500万人以上が参加し、トランプの就任以来、最大規模となりました。多くの参加者が「NO KINGS!(アメリカに王様はいらない)」というプラカードを掲げ、軍隊まで私物化するトランプを厳しく批判しました。
そう言えば、トランプは今年2月19日、ニューヨーク市中心部に乗り入れる乗用車を対象にした「渋滞税」の認可を取り消した時、王冠を頭に乗せた自身のイラストと「渋滞税は死んだ。マンハッタンとニューヨーク全土が救われた。国王万歳!」というコメントを添えて自身のSNSに投稿しました。また、4月に88歳で死去したフランシスコ教皇の後任を決める選挙「コンクラーベ」が行なわれた時には、トランプは自分がローマ教皇に扮したAI画像を自身のSNSに投稿して、多くのカトリック関係者から批判されました。
こうした例からも分かるように、ドナルド・トランプという人物は「恥」という感覚が欠落しているのではなく、本人が「恥」そのものなのです。そして、これらの「マトモな人ならとても恥ずかしくてできないこと」が、トランプの現実的な野望なのです。アメリカ大統領に返り咲いたトランプの次なる野望は、アメリカを「トランプ国」にして、自分が「国王」になることなのです。
そして、こういう感覚の人物だからこそ、今回の軍事パレードにしても、トランプの目は国内にしか向いていませんでした。最初に書いたように、ロシアのプーチンや北朝鮮の金正恩が行なう軍事パレードは、敵対国に向けてハッタリをかます対外的なものです。これは、他の国も同様です。しかし、今回の軍事パレードは、トランプが自分の権力を国内に示すためのものでした。
その証拠に、トランプは第1期の政権でも大規模な軍事パレードを計画していたのです。自分の権力を国内に示すためには軍事パレードが最適だと考えたトランプは、戦争に勝ったわけでもなく、何の理由もないのに、大規模な軍事パレードを計画したのです。しかし、巨額の費用が掛かる上に「独裁国家を想起させる」などの理由で、周囲から説得されて断念したのです。
しかし今回は、たまたま陸軍創設250周年だったため、これが軍事パレードに巨額の予算を投じるための大義となりました。その上、第2期の現在は周囲をイエスマンで固めているので、トランプに苦言を呈する側近など1人もいないのです。そう、つまりトランプは、すでに「裸の王様」になっていたのです。
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