前政権時を遥かに上回ると言って差し支えないほど、常識では考えられない言動を繰り返すトランプ大統領。6月14日の自身の誕生日に34年ぶりとなる軍事パレードを敢行したことも、大きな物議を醸しています。今回の『きっこのメルマガ』では人気ブロガーのきっこさんが、そんなトランプ氏本人自体が「恥そのもの」と厳しく批判。さらに彼の次なる野望を推測しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:裸の王様と焦げたアンパンマン
自分の誕生日に軍事パレード。チンピラ同然の「裸の王様」トランプ
アメリカの首都ワシントンで現地時間6月14日、陸軍創設250周年を記念する大規模な軍事パレードが行なわれました。しかし、この日はドナルド・トランプ大統領の79歳の誕生日でもあったため「軍を私物化するな!」「軍を政治利用するな!」と、全米各地で抗議デモが巻き起こりました。
ロシアのプーチンや北朝鮮の金正恩などが大好きな軍事パレードですが、対外的にはチンピラがドスやチャカをちらつかせるのと同じハッタリ系の威嚇です。しかし、サスガのプーチンでも、自分の誕生日に軍事パレードを行なうような恥知らずなことはしていません。金正恩も同様で、父の金正日や祖父の金日成の誕生日には国家イベントとして軍事パレードを行ないますが、自分の誕生日に行なったことは一度もありません。それは「自画自賛」という恥ずべき行為だと、プーチンや金正恩ですら理解しているからです。
それなのに、嗚呼それなのに、それなのに…というわけで、アメリカのドナルド・トランプは、恥も外聞もなく自分の誕生日に軍事パレードを行なったのです。トランプは批判の声に対して「陸軍創設250周年の日がたまたま自分の誕生日と重なっただけ」などと苦しい言い訳をしました。しかし陸軍によると、軍事パレードについては軍内部からも反対の声が多かったため、当初は250年間の陸軍の歴史についてのパネル展示などを行なうだけの小さなイベントを計画していたそうです。
しかし、この日が誕生日であるドナルド・トランプの鶴の一声で、大規模な軍事パレードが決定したのです。そして、湾岸戦争後の1991年以来34年ぶりに、総費用4,500万ドル(約65億円)を投じた軍事パレードが大々的に行なわれたのです。
今回の軍事パレードは、首都ワシントンにあるリンカーン記念堂の近くからホワイトハウスの南側までの大通り約1.4キロを、約7,000人の兵士と数十台の戦車や軍用車両が、マーチングバンドとともに行進し、空には多くの軍用機が飛び、最後には花火が揚がりました。トランプは立ち上がって敬礼し、まるで自分の私設軍であるかのように振る舞いました。そして、次のように演説したのです。
今、この国は世界一ホットな国だ!そして、もうすぐ世界一偉大で強い国となる!世界一強力な我が軍の兵士たちは、相手が誰であろうと決して降伏せず、決して諦めない!彼らは、戦って、戦って、戦い抜く!そして彼らは、勝利し、勝利し、勝利する!
こないだの「石油を掘って掘って掘りまくる!」から1ミリも進歩してないみたいですが、トランプを支持するような人たちには、こうした「単純なワンフレーズの連呼」が効果的なのでしょう。
この記事の著者・きっこさんのメルマガ
第1期政権時にも大規模軍事パレードを計画していたトランプ
ちなみに、前回、34年前の1991年6月に行なわれた軍事パレードは、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領が、湾岸戦争におけるアメリカ主導の勝利を祝うためと、退役軍人を讃えるために開催されたそうです。つまり、その後の34年間は、戦地で命を落とした数多くの兵士も、数えきれないほどの退役軍人も、誰1人として軍事パレードでは讃えられていないのです。そして、一度も従軍経験のないドナルド・トランプの誕生日に、盛大な軍事パレードが開催されたのです。そりゃあ全米で抗議デモが起こるわけです。
やりたい放題のトランプに対する大規模な抗議デモは、就任直後の今年2月から全米各地で繰り返されて来ました。先週もトランプがロサンゼルスの移民排斥のために州兵を配置したり、海兵隊の派遣を決めたことで、2万人規模の抗議デモが過熱し、一部の暴徒化した市民と兵士とがぶつかり、すでに1,000人近くが逮捕されました。
今回の軍事パレードに対する抗議デモは、多くの地域で平和的に行なわれましたが、全米の2,100カ所以上で計500万人以上が参加し、トランプの就任以来、最大規模となりました。多くの参加者が「NO KINGS!(アメリカに王様はいらない)」というプラカードを掲げ、軍隊まで私物化するトランプを厳しく批判しました。
そう言えば、トランプは今年2月19日、ニューヨーク市中心部に乗り入れる乗用車を対象にした「渋滞税」の認可を取り消した時、王冠を頭に乗せた自身のイラストと「渋滞税は死んだ。マンハッタンとニューヨーク全土が救われた。国王万歳!」というコメントを添えて自身のSNSに投稿しました。また、4月に88歳で死去したフランシスコ教皇の後任を決める選挙「コンクラーベ」が行なわれた時には、トランプは自分がローマ教皇に扮したAI画像を自身のSNSに投稿して、多くのカトリック関係者から批判されました。
こうした例からも分かるように、ドナルド・トランプという人物は「恥」という感覚が欠落しているのではなく、本人が「恥」そのものなのです。そして、これらの「マトモな人ならとても恥ずかしくてできないこと」が、トランプの現実的な野望なのです。アメリカ大統領に返り咲いたトランプの次なる野望は、アメリカを「トランプ国」にして、自分が「国王」になることなのです。
そして、こういう感覚の人物だからこそ、今回の軍事パレードにしても、トランプの目は国内にしか向いていませんでした。最初に書いたように、ロシアのプーチンや北朝鮮の金正恩が行なう軍事パレードは、敵対国に向けてハッタリをかます対外的なものです。これは、他の国も同様です。しかし、今回の軍事パレードは、トランプが自分の権力を国内に示すためのものでした。
その証拠に、トランプは第1期の政権でも大規模な軍事パレードを計画していたのです。自分の権力を国内に示すためには軍事パレードが最適だと考えたトランプは、戦争に勝ったわけでもなく、何の理由もないのに、大規模な軍事パレードを計画したのです。しかし、巨額の費用が掛かる上に「独裁国家を想起させる」などの理由で、周囲から説得されて断念したのです。
しかし今回は、たまたま陸軍創設250周年だったため、これが軍事パレードに巨額の予算を投じるための大義となりました。その上、第2期の現在は周囲をイエスマンで固めているので、トランプに苦言を呈する側近など1人もいないのです。そう、つまりトランプは、すでに「裸の王様」になっていたのです。
この記事の著者・きっこさんのメルマガ
「裸の王様」のトランプに石破首相が交渉すべき課題
そして、憎むべきロサンゼルスの移民を排斥するために、カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事の頭上を飛び越えて、トップダウンで州兵を配置したのです。その上、さらに海兵隊まで派遣すると宣言したのです。民主主義を踏みにじるこれらの独裁的な行動は、自分がこの国の王であり、この国の兵士はすべて「自分の家来」だとでも思っていなければ、とてもできません。
今回の軍事パレードに関しても、発表の段階で多くの批判の声が挙がると、トランプは「もしもパレードの現場で抗議行動をするような不届き者がいたら、私は圧倒的な力で対応する」と警告していたのです。これって対外的に軍事力を見せつけてハッタリをかますプーチンや金正恩と同じ方式であり、ドスやチャカをちらつかせて相手を威嚇するチンピラと同じです。
…そんなわけで、「裸の王様」のトランプは、自分にしか見えない王冠を頭に乗せて、現地時間16日に開幕するG7サミットに出席するため、自身が「アメリカの51番目の州」と言ってハバカラないカナダを訪問しました。そして「焦げたアンパンマン」こと日本の石破茂首相も、政府専用機でカナダを訪問しました。そんな、われらが石破首相は、トランプとの2回目の首脳会談に臨むそうで、日本側の最優先課題である自動車関税で米側の妥協を引き出せるかどうかが焦点だ…などと報じられています。
でも、あたしには、もっと先に交渉すべき課題があると思うのです。それは、石破首相自身が昨年9月の自民党総裁選の時に言及していた「日米地位協定の改定」です。石破首相は昨年10月1日の就任会見でも「日米地位協定の改定を目指す」と明言したのです。
この件に関しては、その後、数々の公約とともにシレッとフェードアウトしちゃいましたが、アレもコレも手のひら返しでは、8年間も都知事をやっているのに公約の「12のゼロ」を未だに1つも達成していない小池百合子と同じ「嘘つき」になってしまいます。せめて1つぐらいは、せめて1960年から65年間、一度も改定されていない不平等な「日米地位協定」の見直しぐらいは、日本のリーダーとしてトランプにビシッと突き付けてほしいと思います。
(『きっこのメルマガ』2025年6月18日号より一部抜粋・文中敬称略)
★『きっこのメルマガ』を2025年6月中にお試し購読スタートすると、6月分の全コンテンツを無料(0円)でお読みいただけます。
¥550/月(税込)初月無料 毎月第1~第4水曜日配信
きっこさんの最近の記事
- 戦犯は安倍氏。前政権の丸パクリ「骨太の方針」を参院選の公約に掲げた石破首相の図太い神経
- 小池百合子知事にダマされるな。東京都議選を前に登場した「AIゆりこ」と“水道料金無償化”で都民をペテンにかける「現実ゆりこ」
- あと2年で「家畜のエサ」になる備蓄米を高値で国民に売りつける小泉進次郎ボッタクリ農水相、スーパーのコメ売り場「視察」も僅か8分間
- 「コメは買ったことがない」だけじゃない。安倍氏ともどもコメ不足と価格高騰の原因を作った江藤農水相の思い出深い“やっちまった事案”
- 1千匹超をヘリから射殺。豪州“コアラの安楽死”はプーチンによるウ国民“虐殺”とどう違うというのか?
【関連】イスラエルの「イラン核施設」攻撃に加勢か停戦か?大統領選に貢献「ユダヤ」と親イラン「プーチン」で板挟みになるトランプ米国のジレンマ
【関連】トランプがイスラエルに出した「ゴーサイン」。イラン核協議で優位に立ちたい「裸の王様」が選択した“攻撃容認”というあまりに危険な賭け
【関連】プーチンの協力なしでは「崩壊」確実なトランプ米国。ウクライナ戦争終結を遠ざける大国の“優柔不断”という大問題
初月無料購読ですぐ読める! 6月配信済みバックナンバー
- 第315号 裸の王様と焦げたアンパンマン/ザリガニのシンクロ率/梅雨晴間/サバの身を崩す女(6/18)
- 第314号 骨太の方針という茶番劇/シャケにのった少年/続・香水/二重のショック(6/11)
- 第313号 AIゆりこの逆襲!/双六ブルース/香水/楽しい象形文字(6/4)
<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>
※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込550円)。
- 第312号 古古古米が2000円?/きっこの脳内システム/新茶/子どもの視点(5/28)
- 第311号 コメを買わない農水相/収納力と煙草/卯波/噂のニッポノプテルス(5/21)
- 第310号 殺処分と安楽死の間で/母さんの浴衣/穴子/洗濯機のない選択(5/14)
- 第309号 自民党の水増し政策/尾ひれのついた聖地巡礼/余花/ごましお慕情(5/7)
- 第308号 令和の米騒動、着地点は?/困った顔のクロノス/朝桜・夕桜・夜桜/ガラパゴスBBAの恋愛事情(4/23)
- 第307号 自民とトランプをつなぐ旧統一教会/ナマケモノの燃費/夜桜/ドラゴンボールZの真実(4/16)
- 第306号 ドナルド・トランプの取扱説明書/マニュアル車のススメ/夕桜/きっこの脳内東名阪(4/9)
- 第305号 フジテレビのセクハラ体質/真作と贋作の間で/朝桜/渋谷のガメラ(4/2)
- 第304号 終わらない沖縄戦/夢見る魚たち/残雪 特別編/権力を買収する男(3/26)
- 第303号 杉田水脈の公認は公約違反/江戸の居酒屋/続・残雪/時代錯誤の鎖国政策(3/19)
- 第302号 誰も責任を取らない国/ビール瓶に菜の花を/残雪/消えたクローゼットの犬(3/12)
- 第301号 ホワイトハウスの決闘/俺たちに明日はない/続・栄螺/ブックレビュー(3/5)
image by: Phil Pasquini / Shutterstock.com