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「見せる国家」と「黙する国家」。トランプ関税戦争で浮かび上がる日本の“戦略的沈黙”

現代において、国家は企業のようにふるまうことが求められます。メルマガ『j-fashion journal』の著者でファッションビジネスコンサルタントの坂口昌章さんは、CEO型国家である『アメリカ株式会社』と目立たぬ改革と連携で地道に信頼を積み上げた『日本株式会社』の戦略の違いから世界秩序の変化と日本の進むべき方向を読み解いています。

「日本株式会社」vs「アメリカ株式会社」~トランプ関税から見える企業国家の戦略と国際秩序の行方~

1.はじめに:国家を企業のように捉えるという視座

グローバル経済の時代において、国家をひとつの「企業」として見る視点が広まりつつある。経済政策、外交戦略、技術投資。それらはまるで企業経営のように、意思決定とリスクマネジメント、ブランディングと市場戦略を求められるようになった。

この文脈で注目すべきは、アメリカと日本というふたつの先進国が見せる「企業国家モデル」の違いである。トランプ政権が打ち出した関税政策、いわゆる“トランプ関税”は、まさにアメリカがCEO型国家、すなわち「アメリカ株式会社(America, Inc.)」として振る舞った象徴的事例だった。

それに対し、日本は反発や報復を前面に出すことなく、淡々と規格整備・物流網強化・国際ルール構築といった「下地づくり」に集中してきた。

「日本株式会社(Japan, Inc.)」は、派手さはないが、安定と信頼を土台にした製造業型の企業国家といえる。

この両社、アメリカ株式会社と日本株式会社の対照的な企業運営スタイルを踏まえながら、トランプ関税を巡る姿勢の違いと、そこから見える国際秩序の今後を考察していきたい。

2.「関税」という見せ場:アメリカ株式会社のエンターテイメント戦略

トランプ前大統領は2018年以降、対中国・対EU・対メキシコなど、さまざまな国に一方的な関税を課してきた。鉄鋼、自動車、農産品といった幅広い分野にわたるこの関税攻勢は、まさに“敵を設定して戦う”エンターテイメントのような性格を帯びていた。

その意図は明快だ。国民に「外敵を打ち負かす大統領」という印象を植え付け、国内産業保護の名のもとに有権者の支持を固める。「アメリカは搾取されてきた」というナラティブを繰り返し、「取引で負けるな」「利益を奪い返せ」というスローガンを掲げた。

これはまるで、娯楽企業が視聴率を取るために、わかりやすい善悪構造を構築するマーケティング手法と似ている。アメリカ株式会社は、戦いを“魅せる”ことで、国民の共感と注目を得ることを重視したのである。

ただし、この手法は“瞬間風速”としては効果的だが、長期的には不確実性を招く。関税の対象は突如変わり、同盟国すら敵扱いされることで、国際社会の信頼は低下し、グローバル企業の意思決定も難しくなった。

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3.声を上げずに動く:日本株式会社の沈黙の戦略

一方、日本の動きはきわめて対照的である。トランプ関税に対して日本は直接的な報復関税に出ることはせず、水面下で制度・技術・物流の整備を着々と進めた。
たとえば、アメリカが離脱したTPPにおいて、日本は残りの11カ国によるCPTPPを主導。米国抜きでも自由貿易の枠組みを維持する体制を作った。また、EUとのEPA(経済連携協定)や日英FTAの締結にも成功し、多国間主義の旗を掲げ続けている。

さらに、物流の最適化や国際的な認証制度(ISOなど)、デジタル貿易の標準化、量子暗号や次世代決済技術の推進など、「見えないインフラ」の整備にも注力している。

これは、世界がアメリカの関税不安に揺れる中で、信頼できる取引相手としての立ち位置を強めるための地道な布石だ。

このように、日本株式会社は、「怒らず、騒がず、しかし確実に」影響力を高めている。それはまるで、派手な広告を打つのではなく、製品品質と長期保証で選ばれる老舗企業のような存在である。

4.今後の国際秩序における両国の位置づけ

国際秩序の主導権は、単に経済力や軍事力だけでは決まらない。むしろ、「どの国がルールをつくるか」「誰が信頼されるか」というソフトパワーの重要性が高まっている。

米国は今後も、「即効性のある政策」と「大統領のカリスマ性」に依存した政策運営を続ける可能性が高い。特にトランプ氏の影響力が続く限り、“敵を作る政治”は変わらないだろう。

しかしその隙間を、日本は着実に埋めている。ルール形成において、日本は地道な積み重ねで、国際社会の信頼を得ており、CPTPPや日EU連携に見られるように、着実な包摂型グローバリズムを志向している。

これはまさに、製造業が部品とサプライチェーンの信頼関係で動くように、国際政治もまた“調達・生産・流通”の連携で成り立つという考え方に基づいている。

5.「エンタメ型国家」と「信頼型国家」の行方

アメリカ株式会社は、迫力あるストーリーテリングで国民を魅了するエンターテイメント企業のようだ。だが、エンタメは信頼を土台にしなければ長続きしない。

一方、日本株式会社は、地味だが信頼される製造業のように、国際社会に欠かせない部品メーカーとしての地位を確立しつつある。

今後の世界秩序をリードするのは、どちらのモデルか。覇権とは、単なるパワーゲームではない。信頼と規範、持続可能性と安定供給。これらを地道に積み上げる国にこそ、未来は開かれる。

 「声を荒らげず、黙ってルールをつくる国」。それが、今の日本が国際社会において目指すべき、そして徐々に実現しつつある国家像なのかもしれない。

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■編集後記「締めの都々逸」

「怒鳴り散らして 恫喝しても 静かなルールに 逆らえぬ」

戦後一貫して、日本の産業は米国に叩かれてきた。今回のトランプ関税で、トランプが悪役を引き受けてくれたおかげで、世界は公然と米国から離れるようになった。日本にとっては、経済的自立の千載一遇のチャンスです。

大声を出さずに、静かにルールを整備し、ドイツやカナダ、シンガポールと連携し、米国を外しています。

久々の日本株式会社の活躍。お願いだから、政治家は邪魔しないでくださいね。親中も親米も消えていただき、独立派が力をつけて欲しい。そういう意味では、石破続投もありかな、と思っています。(坂口昌章)

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