ニクソン・ショックにより崩れてしまった「前提条件」
通貨というのは、古来から貴金属などの価値と結び付けられるのが通例でした。通貨がつくられた当初は、貴金属そのものが、通貨として使用されていました。
また、紙幣が登場してからも、その紙幣は「貴金属との引換券」だったのです。貴金属と引き換える権利を持っているから、その紙幣は通貨としての価値を保持していたのです。
貴金属などとのまったく結び付けられていない紙幣というのは、これまで歴史上、登場したことがほとんどありませんでした。一時的に、貴金属との兌換を停止した紙幣はありますが、「貴金属や資産との兌換をしない」ということを前提にした紙幣が、これほど広範囲で使用されることはなかったのです。
なぜ紙幣が常に貴金属などと結び付けられていたのか、というと、そうしないと誰も信用しなかったからです。
紙幣というのは、その物質自体は、ただの紙切れであり金銭的な価値はほとんどありません。それを誰も価値のあるものとして認めないし、価値が認められなければ流通しないのです。
だからこそ、これまで紙幣は、「貴金属と交換できる」という価値の裏付けがされてきたのです。この通貨のしくみは人類が経験知として作り上げてきたものであり、ニクソン・ショックまでは、それが世界の常識だったのです。
ニクソン・ショック以前にも、通貨と貴金属との兌換を中断した国は多々あります。イギリスなどのヨーロッパ諸国や日本なども、第二次世界大戦前には、金不足に陥り、軒並み、金との兌換を停止しました。
しかし、それは一時的な方便に過ぎなかったのです。いずれは、金との兌換を再開するという期待があったので、通貨の価値は維持できたのです。
第二次世界大戦後、ほとんどの国では、通貨と金との兌換は再開できませんでした。しかし、ドルと自国通貨をリンクさせることで、自国通貨の価値を維持してきたのです。
ドルは、金との兌換に応じてくれる、そのドルとレートを定めてリンクしておけば、間接的に金の価値を結びつけることができるのです。
第二次世界大戦後の世界の金融は、そういうシステムによって各国の通貨の価値を維持してきたのです。
しかし、1971年のニクソン・ショックによって、その前提条件が崩れてしまいました。ドルが、金の兌換に応じないということになったので、各国の通貨は、間接的な貴金属との結びつきを失ってしまったのです。貴金属と結び付けられていない、ただの「紙切れ」の通貨が、各国で使われることになったのです。
が、不思議なことに、各国の通貨はそれほど支障をきたさずに普通に使われ続けました。多少の混乱はありましたが、通貨がまったく流通しなくなり物々交換が始まるというような事態は起きませんでした。
これまでドルはあまりにも広範囲で使われてきたために、貴金属との結びつきがなくなっても、そのまま使われることになったのです。
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