現実になりつつある「最悪のシナリオ」。相互関税で習近平に恩を売るためトランプの“取引材料”にされた台湾

 

台湾メディアにすら「泣きっ面に蜂」と皮肉られる頼政権

台湾のメディアの多くは、この状況を「頼政権の『泣きっ面に蜂』」と皮肉ったが、「泣きっ面」とは7月26日に投開票された大リコールで大惨敗した内政での挫折を指す。

大リコールは頼政権と民進党が実質的に仕掛けたとされる議員の大罷免キャンペーンだ。ターゲットは国民党所属の立法委員24名と民衆党所属の地方首長1名だ。狙いは議会での多数獲得だった。

だが当初10名ほどが罷免されると予測されたリコールは、ふたを開けてみれば25対0で国民党・民衆党側(藍白連合)側の圧勝だった。

戦いを分析したいくつかの論考が指摘するように、藍白連合を勝利に押し上げたのは民進党と対立する国民党や民衆党支持層だけではなかったことも政権へのダメージとなった。

背後には、選挙で選ばれたばかりの議員に「親中派」のレッテルを貼って罷免しようとした民進党の民主選挙を否定するような手法への反発、また対立と憎悪ばかりを煽る政治手法に辟易した有権者の投票行動があったとされた。いわゆる民進党へのアンチ票である。

これは内政の問題だけにとどまらない。

頼政権が「台湾独立」へと無暗にアクセルを踏めば、問題は台湾域内に収まりきらなくなり、地域の平和と安定が損なわれるからだ。

今回、タイトルで、「台湾は被害者なのか?」と疑問を投げかけたのは、頼が地域の安全を顧みず、自らの政治レガシーのために中国を煽り続けいることへの疑問があったからだ。就任演説では中国の反発必至の「新両国論」に敢えて踏み込み、今年は「頼17条」を打ち出し、中国を「境外敵対勢力」と呼んだ。いずれもレッドラインに挑むようなきわどい挑発で、中国はそのたびに大規模軍事演習で応じている。

この応酬から見えてくるのはアメリカや日本を台湾海峡危機に引きずり込んでも自分の政治目標に固執する頼の危うさだ。

この台湾のやり方はアメリカの視点には、自分の意思と関係なく始まる戦争に「巻き込まれる」と映るはずだ。

そんな巻き込まれを「アメリカ・ファースト」を掲げるトランプ大統領が許容するだろうか。いや、民主党政権であっても受け入れ難かったはずだ。

そうした警戒は実は早い段階からアメリカ国内でも指摘されている。近いところでは今年5月1日、米『フォーリン・ポリシー』誌に掲載された「トランプは台湾を抑制すべき」と題する論文がある。

頼の首に手綱を着けることがアメリカとしての課題であり、それが同時に中国に恩を売る材料であれば、トランプ政権にとって安い買い物だったはずだ。

トランプ政権から発せられたシグナルを機に、頼清徳は地域の安定を再考し、もう少し大人になるべきだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年8月3日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上お楽しみ下さい。初月無料です)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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