この30年間、日本は経済力・生産力・科学技術力などあらゆる面で国際的地位を低下させてきました。さらに10年後には南海トラフ地震が予測され、復興すらままならない恐れすらあります。メルマガ『池田清彦のやせ我慢日記』の著者で生物学者、CX系「ホンマでっか!?TV」でおなじみの池田清彦教授は今回、日本経済の立て直しのカギになる具体策を提案しています。
日本の国力を回復させる方途について
前回はこの30年で日本の国力が国際水準から見て激しく衰退してきたことを述べた。今回はこの衰退した国力を立て直す方途について述べる。大方の地震学者の言を信じれば、南海トラフ地震まであと10年くらいしかない。昔日の勢いを取り戻すことは無理としても、少しでも国力を取り戻さないと、大震災後の未来は悲惨なことになる。
国力というのは曖昧なコトバだけれども、その時の経済力、生産力、科学技術力、国民の知力と創造力、文化発信力、資源力、軍事力等の総体である。このうち、国民の生活にとって特に重要なのは、経済力、生産力、科学技術力である。これらが上昇すれば、景気が良くなり、国民の生活水準が上昇して、購買力が上がる。
逆に購買力が上がれば、景気が良くなり、生産力や経済力も上がり、科学技術や教育に投資する余裕もできて、イノベーションを起こす若者も出てくるだろう。大震災の後で速やかに復旧するには、潜在生産力や科学技術力の高さがぜひ必要なのだ。
そうなると、まず国民の購買力を上げる方途を考える必要がある。購買力が下がった原因はわかっている。それは消費税の導入である。3%の消費税が導入されたのは1989年4月1日で、日本はバブルの絶頂期であった。既にこのメルマガでも述べたことがあると思うが、この年の世界の株価総額ランキングで、上位50社のうち32社が日本の会社だった。2025年には、それがどうなったかというと、辛うじてトヨタが入っているかどうかギリギリのところである。
そういうわけで、消費税が導入されても、国民の購買力は堅調で、景気は落ち込まなかった。国民の購買力を表す指標は民間最終消費支出(以下、最終消費支出と表記)で、これは家計や民間の非営利団体による、消費財・サービスへの支出の合計額のことである。但し、ここには不動産や金融商品の購買価格は含まれない(家賃は含まれる)。3%の消費税にもかかわらず、最終消費支出は1997年までは伸び続けていた。
この年の4月1日に消費税が5%に引き上げられ、景気は一気に落ち込むことになる。1998年の最終消費支出は前年度比マイナス2.1%で、元に戻るのに3年9ヶ月かかった。その後2008年にリーマンショックがあったが、この時の落ち込みは1年9ヶ月で回復している。景気にとってリーマンショックよりも消費税の増税の方がたちが悪いのである。その後2013年までは最終消費支出は右肩上がりで伸びていき、この年史上最高額を記録する。2014年の4月1日に消費税率が8%に上がり、最終消費支出は4.6%下落した。最終消費支出は落ち込んだまま回復せず、2019年10月1日に税率が10%になるに及び、コロナ禍と重なって、2020年の最終消費支出は2018年比で5.8%マイナスになり、景気は沈滞したままである。消費税を下げれば、このシナリオは反転するわけだから、最終消費支出は右肩上がりに増えていき、景気は回復基調になるに決まっている。
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消費税は法律上、年金、医療、介護、少子化対策という社会保障に充てられることになっているが、一般会計に組み入れられるため、実際に何に使われているかは追跡不能で、法人税の減税に使われているのではないかと疑われている。実際、消費税の増税に反比例して、法人税は下がっている。
法人税は1987年の43.3%から99年の30%まで段階的に引き下げられ、2012年に25.5%、2015年から18年にかけても段階的に引き下げられて、現行の23.2%になっている。法人税を下げて企業の利益が増えても、その大半は内部留保(企業の利益を現金、金融資産、不動産などにして保持しておくこと)になっていて、市場に流れないので、内部留保がいくらあっても景気は良くならない。ちなみに2023年度末の内部留保金は600兆9857億円で過去最高である。
確かにある程度の内部留保金を持たないと、状況が変わって、大赤字になった時に資金のやりくりが付かずに、倒産する危険があるため、内部留保はセキュリティ装置ではあるが、さすがに600兆円超えは、やりすぎだろう。内部留保の相当部分を従業員の給料に回せば、購買力が上がり、景気にとってはプラスになる。個々の企業の経営陣にとっては、従業員の給料を増やすよりも、内部留保を増やす方が、合理的な判断なのだろうが、多くの企業がそうすれば、景気は落ち込み、マクロに見れば日本経済にとってマイナスになる。合成の誤謬である。
消費税は一部の輸出企業には有利な税制である。国内からの部品等の調達には消費税を払い、輸出先からは消費税を取れないので、支払った額が受け取った額よりもはるかに大きくなり、この差額が還付金として戻ってくる。2022年のトヨタの還付金は5276億円で日本一、2位は日産の1897億円、3位は本田の1879億円である。これらの企業に納品する日本の中小企業は多くはダンピングせざるを得ないだろうから、儲けは少ないと思われる。
日本の企業数の99.7%は中小企業で、日本の経済を支える主役であり、雇用全体の7割を担っているが、その6割は赤字だと言われている。中小企業を圧迫しているのは消費税である。消費税は使わないで納期まで積み立てておけばいいというのは正論には違いないが、資金繰りが苦しければ、消費税を使い込んで、結局払えずに倒産というケースが少なくない。消費税を撤廃すれば、税金が払えずに倒産という悪夢からは免れる。
消費税を撤廃する(あるいは減税する)と税収が足りなくなって国が破産するという議論がある。あとで説明するように、税はーーー(『池田清彦のやせ我慢日記』2025年8月8日号より一部抜粋、続きはご登録の上お楽しみください。初月無料です)
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