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露プーチンと北の金正恩は参加、印モディは不参加。中国「抗日戦争勝利80年」軍事パレードの裏で蠢く“単純ではない”国際政治と習近平が発するメッセージ

9月3日に「抗日戦争勝利80年」を記念し北京で大々的に行われる軍事パレード。プーチン大統領や金正恩総書記も列席するとあって全世界の注目が集まっていますが、中国とロ朝それぞれの思惑は必ずしも一致しているとは言い難いようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、このパレードのそもそもの意味合いと欧米主要国が出席を見送った背景を解説。さらにその裏で蠢く「国際政治と中国のメッセージ」の分析を試みています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:9月3日の中国軍事パレードに戦々恐々とする世界

世界が戦々恐々。9月3日「中国軍事パレード」の裏側

もう40年も前のことだ。

私が初めて目にした中国の軍事パレードは、中華人民共和国の建国35周年を祝う記念行事でのことだった。

日本との関係を積極的に進めようとした胡耀邦時代のことで、日本人の学生は特等席でパレードを眺めることができた。

当時の中国はすでに核保有国でありミサイル技術にも優れていると評されていたが、通常兵器の見劣りは顕著だったことはなんとなく覚えている。

2019年の軍事パレード(建国70周年)のときは、長安街から近いホテルが取れたので喜んでいたが、直前になってホテルを追い出され、少し離れたホテルに強制的に移動させられ、そこで轟音を響かせて天安へと向かう戦闘機の編隊だけをチラリと確認できた。

コロナ禍を経て6年ぶりに行われる軍事パレードは、様々な意味で、かつてない大きな注目を集めていると言えるだろう。

今回の軍事パレードは、「中国人民抗日戦争ならびに世界反ファシズム戦争勝利80周年記念行事」のなかで行われる。いわば第二次世界大戦の戦勝国による戦勝パレードなのだが、同じ連合国のなかでも、アメリカを中心としたヨーロッパの主要国はスロバキアを例外として、どこも出席を見送り、冷淡な対応を示している。

日本政府は、この軍事パレードが「極めて反日的色彩」だとして世界の首脳に出席しないように呼び掛けたと報じられたが、その影響で各国が出席を見送ったというわけではないだろう。

社会主義を掲げる中国への距離感の問題も根底にはあるだろうが、同時に「中国の軍事的な主張を認めているとみなされたくない」(シンガポールCNA)との動機も働いたに違いない。

またロシアのウラジミール・プーチン大統領と北朝鮮の金正恩朝鮮労働党総書記(国務委員長)が出席するとあって、同じ場に並び立ちたくないという判断も働いたはずだ。イランのペゼシュキアン大統領も出席の予定だ。

そもそも上海協力機構(SCO)サミットが8月31日から9月1日まで天津市で開催され、そこに集う首脳たちがそのまま北京へと向かうという流れができているのだとすれば、西側への対抗という色彩が帯びたとしても不思議ではない。

実際、ロイター通信が8月30日付で配信した記事「抗日戦勝パレードはロ朝など『反西側』結束の場に 中国の台頭を示す演出 北京では厳戒」には、その警戒感が指摘された。

ただ厳密に言えば中国の思惑とロ朝の狙いは必ずしも一致していない。

ロ朝は、確かに西側への対抗姿勢を隠そうとしていないが、中国の国益はそうした方向には向いていない。アメリカや西側先進国への不満はあっても対抗は望んでいないという点で明らかに違うのだ。

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訪中前に来日。最も注目されたインドのモディ首相の動き

それが端的に表れたのが、馬朝旭・外交部副部長(外務次官)が8月29日に行った記者会見での発言だ。

馬は「人類運命共同体の構築という重要理念」について説明するなかで「ブロック政治による『小集団』のルールを超越し、力による覇権主義的論理を超越し、少数の西側諸国が自任するいわゆる『普遍的価値観』を超越して、素晴らしい世界を共に築くための最大公約数を形成するものである」と表現した。ここには間違いなくアメリカを中心とした西側先進国による秩序をけん制する狙いが含まれている。

だが、その一方で馬は、アメリカとの関係について「われわれは米国側と向かい合い、両国元首の重要な共通認識をしっかりと実行し、意思疎通を維持し、意見の相違をコントロールし、協力を開拓し、新しい時期の両大国が正しく付き合う道を引き続き模索したい」とも述べている。

参加各国の距離感が一定ではないという意味では、最も注目されたのがインドのナレンドラ・モディ首相だ。

モディはSCOサミット出席のため、7年ぶりとなる中国訪問に踏み出したが、その反面軍事パレードには出席しない。

この判断には、「未だ中国との間に国境問題を抱えているインドの警戒が働いた」(同CNA)との解説が最も一般的だ。しかしインドは軍同士の衝突が起きる前、2015年の同じ式典にも不参加だった。つまり通常運転に戻っただけとの見方も成り立つだろう。

実際、モディは訪中前に訪れた日本で中国について触れ、「インドと中国が協力して世界経済秩序の安定化を図ることも重要だ」と発言している。

モディ訪日を報じた時事通信社の記事は「ただ、メディア(インド)の関心はモディ首相の約7年ぶりの中国訪問に向いているよう」と、インドの関心が日本を通り越して中国ばかりに向いている現状を伝えていて、インドにとっての対中関係の大きさをうかがわせた。

軍事パレードについては、「(中国は)平和的発展路線を歩む揺るぎない決意、国家の主権と領土的一体性を守る強固な意志、世界の平和と安寧を維持する強大な能力をはっきりと示すため」(洪磊)と説明しているが、パレードと同時に最新鋭の戦闘機「殲20」の展示を初めて行うことを予定していたり、最新型の大陸間弾道ミサイル(ICBM)や無人機部隊が披露されることなどを思えば、中国の自国防衛能力高さを強調する機会だともとらえていることがうかがえるのだ。

PKO部隊や女性だけで構成される民兵方隊もパレードに参加する。

男性は183センチから193センチ。女性は173センチから180センチの兵士だけで組織され、軍靴を平均で4足履き潰するほど厳しい訓練を経て行われる軍事パレードは圧巻だろうが、その裏で蠢く国際政治と中国のメッセージは単純ではない。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年8月31日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録の上、8月分のバックナンバーをお求め下さい)

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image by: Michalakis Ppalis / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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