力が支配する秩序なき「新秩序」を食い止めるカギを握るインド
今年、トランプ大統領は習近平国家主席とも首脳会談を行い、金正恩氏とも会うと言っていることに加え、プーチン大統領との首脳会談も再度行う準備をしていますが、中ロ朝がそれぞれにトランプ大統領を手玉に取り、のらりくらりと手を変え品を変え話し合いを長引かせ、表向きにはトランプ大統領の顔を立てるようなそぶりを見せつつ、しっかりと自国の利益の最大化に勤しむような事態になれば、戦争は長期化し、中国は自国の戦力の強化のための時間を稼ぎ、北朝鮮も核開発をさらに進め、そしてロシアはウクライナおよび他の周辺国を手中に収めるべく、勢力の回復と拡大に取り掛かる時間を与えることになります。
そしてもしロシアと中国が巧みにトランプ大統領を自分たちの輪に引きずり込み、これまで続いてきた欧米主導(西側世界主導)の国際秩序を葬り去り、新超大国によるルール作りの枠組みを代わりに作り出すことになるかもしれません。
大変な事態ですし、せっかく進められてきた様々なグローバリゼーションを通じて成し遂げた国際協調体制による問題の解決の仕組みが崩壊し、世界は再び力が支配する秩序なき“新秩序”に支配されることになります。
それを食い止めるカギを握っているのがインドです。
インドのモディ首相は、このところ、アメリカとの関係が険悪なものになっている状況に乗じ、天津でのSCO(上海協力機構)の首脳会議に参加し、笑顔で精力的に中国の習近平国家主席やロシアのプーチン大統領との会談に臨み、それぞれとパートナーシップの強化について合意しました。
アメリカからの相互関税のベースになっている“ロシア産原油の輸入”については、アメリカの意に反し、インドはロシア産原油の輸入継続と拡大に乗り出しましたし、中国とはライバル関係にあるものの、互いに戦いの矛を収め、国際社会の安定のために協力することを確認し合い、グローバルサウスの雄として、世界の安定に寄与する姿勢を見せつつ、ロシア・中国との関係強化によって、欧米社会、特にアメリカに対して強いメッセージを送っています(モディ首相は日本への遠慮・配慮から、北京での戦争記念式典には出席しませんでしたが、目的は天津で果たせたのだと考えられます)。
インドの首相府にいる同僚から「アメリカとロシア、中国の水面下での接近の可能性については常にwatchしている。アメリカについてはトランプ政権下ではインドとの仲直りは難しい可能性が高いが、その間に中国とロシアとの関係を強化し、インドがもつ独特でユニークな立ち位置の確立に勤しむべく動いている。インドは大国による世界支配の構造を決してサポートしないし、その旨、中ロにも伝えているが、特に対立するつもりもない。ただ、インドをないがしろにし、今のアメリカ、そしてかつての欧州がインドや途上国にしてきたように、強国が上から目線で『~~すべき』というような命令をするような世界に与するつもりは全くない。その場合には、相手が誰であろうと、グローバルサウスと呼ばれる国々と共に、許しがたき国際秩序作りの動きにストップをかける覚悟がある」と言われました。
インドの覚悟と役割の自任は心強い限りなのですが、中ロ、アメリカもそのことは警戒しており、中国は最新鋭の戦闘機J-35のみならず、インドが保有するフランス製の第4.5世代戦闘機を撃墜したJ-10Cをパキスタンに販売することで、軍事的な形で(自ら直接手は下さないで)インドにメッセージを送って牽制しています。
ロシアとアメリカは期せずしてどちらもインドに武器を販売する立場にありますが、パキスタンにも何らかの見返りを与える形で、遠隔操作でインド・パキスタン間の緊張を利用し、インドの抵抗をけん制しようとしているように見えます。
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