20年前とは大きく変わったソウルの街。しかし、市民の声や人懐っこいおせっかいの気質は変わらずに残っている、とメルマガ『ジャーナリスティックなやさしい未来』の著者でジャーナリストの引地達也さんは語ります。それらは、韓国社会を動かす原動力であり、民主主義の底力を支えるものなのかもしれません。
ソウルの真ん中は市民の場所、おせっかいは民主主義の源
ソウル中心の光化門近くのカフェから眺める通りでは通勤の人並が急ぎ足で職場に向かっていく。
いつの間にかスクランブル交差点になった車道には、先進的なフォルムの車が整然と並び、フライングすることなく、信号のサインが変わるのを待っている-。
久々のソウルの空気、そして路上の変化に、驚きつつ、私が知っているソウルとは違うと、少し取り残された気持ちにもなる。
ここに住んでいたのは20年近く前だから当然の変化なのだが、慣れるには少々時間がかかる。
当時、このカフェでは、多くの人と会い、話をした。
日本から来た友人や、取材対象のちょっとした有名人、お忍びで来韓した政治家、同業の記者たち。
日本から来た人と待ち合わせをするには、ハングルではない、英語表記の看板は都合がよかった。
そして私はここのチョコレートケーキが大好きで、昼夜と言わず口にしたが、そのケーキはショーケースから姿を消していた。
韓国の街頭民主主義の象徴であるデモはこの近くで行われてきた。
大統領府の青瓦台が望める景福宮から延びる光化門広場からソウル支庁舎までの通りは、デモの聖地だ。
これまでの大統領の不正への抗議、盧武鉉(ノ・ムヒョン)、李明博(イ・ミョンバク)、朴槿恵(パク・クネ)がそれぞれ大統領だった時に弾劾や罷免を求めたデモも、非常戒厳令を発令した尹錫悦(ユン・ソンヨル)前大統領への罷免の要求も、市民がここに集まり、声を上げた。
普段は韓国の官公庁街でもあるこの真ん中は、平日はエリートたちの場所かもしれないが、有事となると、市民が集まり、抗議する。
韓国の政治文化はまだ街頭民主主義が健在だから、戒厳令も横暴として歴史に刻まれたのだろう。
この聖地には、今日も元大統領である文在寅(ムン・ジェイン)を「拘束しろ」との大きな横断幕を掲げている人たちがいた。
革新派に反対する方々なのだろう。
ここでの主役は時には革新系、時には保守系と揺れ動くが、大きなうねりとなると「市民」「民衆」となる。
また近くの郵便局ではハチマキを巻いた労働組合員が朝の日課のように、シュプレヒコールを上げていた。
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