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プーチンはNATO領空侵犯、ネタニヤフはカタール空爆。北京に電話で「アメリカは中国との紛争を望まず」と伝えたトランプ外交の崖っぷち

トランプ大統領が受賞に意欲を燃やすノーベル平和賞。しかしその道程は一段と険しさを増してしまったようです。今回のメルマガ『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』では著者の富坂聰さんが、トランプ氏が描いていた「ノーベル平和賞受賞のシナリオ」を大きく狂わせてしまった要因を解説。さらに米政権が中国に対して、外交ホットラインで伝えた内容を紹介しています。
※本記事のタイトル・見出しはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:外交でも行き詰まりの見えるトランプ政権が中国とは接近せざるを得ない理由

外交でもどん詰まり。中国と接近せざるを得ない落日寸前のトランプ政権

ドナルド・トランプ大統領がEUに最大100%の対中関税発動を要請──。

日本のメディアが一斉にこう報じたのは9月10日のことだ。情報ソースは英『フィナンシャル・タイムズ』(以下、FT)。タイトルは「ドナルド・トランプ、EUに中国とインドに100%の関税を課し、ウラジーミル・プーチンに圧力をかけるよう要求」。同紙のスクープだ。

素直に受け止めればバイデン政権下で進められた対ロ圧力の包囲網が蘇ってきたことになる。

実際、欧州でも新たな独自の制裁案が検討されていた。FTも「欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は水曜日、『パートナーと調整して』ロシアに対する新たな一連の制裁措置をまもなく発表すると述べ、その措置は『ロシアの化石燃料、影の船団、第三国を段階的に排除すること』を目的としていると付け加えた」と記事で触れている。

だが欧州であれアメリカであれ、中国との本格的な貿易戦争に発展しかねない制裁関税には慎重にならざるを得ないはずだ。

今年4月、トランプ政権は関税発動の序盤で中国の輸入品に対し大幅な関税引き上げを発表したにもかかわらず、市場の激しい反発を受け、翌5月にはそれを引っ込めざるをえなくなった。

またロシアの原油を買っているという理由で追加関税を発動する際にも、その標的としたのは中国ではなくインドであった。たまらずインドが「もっとも買っているのは中国だ」と反発したのは記憶に新しい。

興味深いのはFTが、「欧州駐在の米国外交官らは、EU加盟国に対し『トランプ政権はEUの参加なしにロシア産石油・ガス購入国への制裁措置を講じる意思はない』と強調している」とわざわざ書いている点だ。

つまりアメリカは、制裁に対する「痛み」を欧米で分け合おうと提案しているのだが、そうした場合でも「先にEUが決断しろ」と求めているのだ。

ロシア・ウクライナ戦争の終結を望むという意味ではアメリカも欧州も目標は一致しているようだ。しかし両者が達成したい終戦の中身については、大きな隔たりが存在している。

欧州は、少しでもロシアが不利な形で戦争を終結させるのと同時に、ロシアという憂いを取り除くような環境を整えたいと考えているのに対して、アメリカはそこまで深刻にロシアの脅威をとらえていない。

現状を見る限り、トランプが興味を示しているのは対ロシアではなくノーベル平和賞の可能性だ。

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米中双方が「建設的だった」と評価した電話会談の内容

トランプがにわかに対印、対中の追加関税を欧州に求めた背景には、パレスチナで和平を実現し、その実績を引っ提げてノーベル平和賞を、というシナリオが完全に狂ってしまったことがある。

理由は言うまでもなくイスラエルのネタニアフ政権がアメリカの意向を無視し続けているからだ。

今月9日にもイスラエルは、ハマス指導者たちを攻撃するという理由で、大胆にも中東で最大の米軍基地のあるカタールに対し空爆を行った。

このイスラエルの行動に、さすがのトランプも堪忍袋の緒が切れたようで、「あらゆる面で非常に不愉快だ」と、異例の非難を行った。

トランプ1.0では「エルサレムをイスラエルの首都」と認め、さらに大使館をテルアビブからエルサレムに移転するなど歴代大統領のなかでも特にイスラエル寄りの外交を展開してきたトランプにとっては飼い犬に手をかまれたような感覚だろう。

だが、問題を抱えているのは中東ばかりではない。肝心のロシア・ウクライナ戦争でも制御不能な一面が顔をもたげ始めている。

イスラエルのカタール爆撃から間もなく、今度は北大西洋条約機構(NATO)の戦闘機が、ポーランド領空でロシアのドローンを撃墜したのである。

これは2022年2月にロシアがウクライナへの本格侵攻を展開して以降、ロシアとアメリカが主導する軍事同盟との間で起きた最も深刻な衝突である。

この行動が、トランプがウクライナで進めてきた和平の努力に大きく水を差すことは言うまでもない。

つまり、冒頭の話に戻せば、いまさらEUがアメリカの求めに応じて中国とインドに100%の追加関税を課しロシアにプレッシャーをかけたとしても、もはや大きな意味を持たないところまでロシアと欧州の関係は悪化してゆくかもしれないのだ。

そうしたなか米『ブルームバーグ』は、ワシントンが北京との外交ホットラインを立ち上げ、ピート・ヘグセス国防長官とマルコ・ルビオ国務長官が、それぞれ中国の担当者に電話をかけたと報じた。

電話をかけた目的は、アメリカが中国との紛争を望んでいないことを伝えるためだったとされている。米中双方は、この電話会談を「建設的だった」と評価したという。

10月には米中首脳会談が開催されるのでは、とささやかれるなか、少なくともトランプ政権が対中包囲網を本気で考えるような状況ではなさそうである。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2025年9月14日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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image by: Brian Jason / Shutterstock.com

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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【著者】 富坂聰 【月額】 ¥990/月(税込) 初月無料 【発行周期】 毎週 日曜日

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