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「野菜から食べないと太る」は本当だったのか?科学的根拠に乏しい「ベジファースト」ブーム“真相の深層”

健康志向ブームの中で、動かぬ真理のごとく受け入れられてきた「野菜を先に食べれば痩せる」というフレーズ。しかしそれは正しい科学的根拠に基づく主張なのでしょうか。今回のメルマガ『小林よしのりライジング』では、漫画家・小林よしのりさん主宰の「ゴー宣道場」参加者としても知られる作家の泉美木蘭さんが、「ベジファースト」の真相を検証。さらに政府が国民に押し付けようとする「健康という呪文」の危うさを指摘しています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:泉美木蘭のトンデモ見聞録・第374回「〈健康にせよ〉という呪文」

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「ベジファースト」はもう古い?政府が国民に押し付ける「健康にせよ」という呪文

「野菜から食べないと太るよ」

7~8年ほど前だろうか、食事の際によくこの言葉を聞かされた。

野菜を先に食べて、肉や魚、白米は後回しにする。それが太りにくくなる食べ方なのだという。ネットで見た、テレビでやっていた、医者が言っていたなど人によって出典はさまざまで、かなり広まっていた。

この「野菜から食べないと太る/野菜から食べれば太りにくい」という言説は、「ベジファースト(ベジタブルファースト)」「食べ順ダイエット」として知られているものだ。

現在も、製薬メーカー、食品メーカー、健康サプリメーカー、フィットネスジム、ファミレスなど企業のホームページのほか、自治体の健康情報、内科医院、整体院などのブログから盛大に発信されている。

もともとは、糖尿病治療を得意とする京都市の内科クリニックが発表したもので、その後、数年かけてテレビや健康雑誌、女性誌などで頻繁に取り上げられるようになり、広まった。

やがて「野菜を先に食べる」は、厚生労働省の発表する「日本人の食事摂取基準」にも記載されるまでになる。

「野菜から食べれば痩せる」説を生んだ厚労省文書の落とし穴

日本では、高齢化への危惧から、2003年に「国民の健康維持と現代病予防」を目的とした「健康増進法」という法律が施行されている。

厚労省は、この法律に基づいて、日本人が食事からどのぐらいのエネルギーや栄養素をとるべきなのかを示した「日本人の食事摂取基準」を発表している。

病院や学校、福祉施設などで働く栄養士は、この基準に沿って、食事の献立を考えたり、助言をしたりするという流れだ。

2020年版の食事摂取基準を見ると、たしかにこう書かれていた。

近年、食品の摂り方によって、食後の血糖上昇を抑制し得ることが注目されている。特に、食物繊維に富んだ野菜を先に食べることで食後血糖の上昇を抑制し、HbA1c(赤血球中のヘモグロビンに結合したブドウ糖の割合)を低下させ、体重も減少させることができることが報告されている。

厚生労働省「日本人の食事摂取基準(2020年版)」より抜粋

ここだけ読めば、たしかに「野菜を先に食べることで、体重を減らせる」と要約することもできなくはない。

ただ、この文章には前後があって、話の主眼は「血糖値を抑え、糖尿病や心血管疾患による死亡率を下げるにはどうすればよいか」だった。

この記載の直後には「ただし、これは野菜に限らず…」と続き、肉・魚などのタンパク質を先に食べてから、炭水化物(ご飯)を食べても血糖上昇は抑えられると記載されている。ほかにも、よく噛まずに食べる、朝食を抜く、夕食の時間帯が遅いなどの習慣が、肥満を助長して糖尿病管理を難しくしているということも書かれている。

まあ、食生活の乱れは健康に悪いという意味で、なんとなく知られている話だ。

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「痩せる」ではなく「血糖値管理」だったという真実

厚労省の資料には、参考文献として「ベジファースト」の火付け役となった京都市のクリニックによる論文が記載されていた。

読んでみると、2型糖尿病患者を、「従来の糖尿病用の栄養管理指導を行うグループ」と「炭水化物より野菜を先に食べる方法を指導するグループ」にわけて、2年間経過観察するというものだった。

その食べ方は、こうだ。

  1. 野菜だけを、1口につき最低20回咀嚼して、15分かけて食べる。
  2. 肉・魚を食べる。 1口につき最低20回咀嚼する。
  3. 炭水化物(ご飯)を食べる。

論文を書いた医師の説明によれば、野菜を食べたあと、15分ほど間隔を空けて、それから肉・魚に移ることが理想らしい。

やたら提供の遅いコース料理店でもなければ、難しい食べ方である。病気だから仕方がないという話なのかもしれないが、15分かけて野菜だけを食べて、さらに15分も間隔を空けていたら、温かい肉料理などは冷めてしまう。

さらに、この食べ方をしたグループには、「果物を食べない」「キノコ・豆類を増やす」「食べたものを記録する」「通院して栄養士から20~30分間の指導を受ける」「1日30~40分のウォーキングを行う」という指導も入っていた。

結果的に、このグループでは「野菜の摂取量が優位に増加して、果物や菓子類の摂取量が減少し、2型糖尿病患者については、従来の食事療法よりも、野菜を先に食べる食事法のほうが優れた血糖コントロールを達成できた」──と結ばれている。

食後の血糖値が、食べるものによって変動するのはわかったが、果物や菓子、ウォーキングの話まで出てきて、なんだか狐につままれたようだ。

それにそもそも、この実験で測定されているのは血糖値であり、体重には着目されていない。そりゃこれだけ管理していれば、痩せるだろうとは思うが、「野菜を先に食べたら痩せた」という話とはまったく違うのだ。

「野菜を先に食べる」の記載をごっそり削除した厚労省

ところが、世間には「野菜を先に食べると、体重を減らせる」というハイパー曲解だけがあふれている。「痩せる」「ダイエット」などの単語は、商業的に強烈なパワーを持っているのだから仕方がない。情報につられて、不摂生な食生活を送る人たちが、少しでも野菜を食べるならいいじゃないかとも言える。

だが厚労省は、2025年版の「食事摂取基準」から、「野菜を先に食べる」の記載部分を、項目ごとごっそり削除している。

そもそも糖尿病患者向けの特殊な手法を一般化するには無理があるし、現実の食卓で再現できるものでもない。「野菜」だけを推す研究論文自体がいまいちあやふやだし、「痩せる」という誤解が世間に広まりすぎているのもまずいという判断もあったのだろうと思われる。

それ以前にまず、「日本人の食事摂取基準」として、国が、食べる順番にまでどうこう言及していること自体が、私は不愉快なのだが。

この「厚労省がベジファーストを削除した」件は、医療関係者の一部で話題となり、結果、ネットでは「ベジファースト否定派」が突如として勃興、「厚労省が削除したぞ!」と情報を発信している。

最近では、「ベジファーストはもう古い」として、「ミートファースト(肉から食べて米を後回しにすれば痩せる)」「カーボラスト(炭水化物を最後にするだけで痩せる)」など、派生的な食事法も次々と登場。また、高齢者向けの著作を次々に出版している医者からは、「70代以上にベジファーストはNG」「タンパク質不足でうつ病を発症する」などの見解も出されている。

もはやネットで発信する医者や栄養士それぞれが、「健康」と「ダイエット」をネタに、注目を浴びるためのカウンター情報を発信しているだけではという状況だ。

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厚労省の「誰一人取り残さない健康づくり」に見える欺瞞

あやしい健康情報があふれかえるのは、今に始まったことではないが、確実に加速しているのが、政府の「国民を健康にしたい」という狙いである。

「日本人の食事摂取基準」も関連しているが、厚労省は「健康日本21」と銘打って、国民が健康になるよう具体的に実践させていく計画を立ち上げている。

期限を決めて段階的に実行されており、現在は、令和6年度から令和17年度までの「第三次」の段階にあるらしい。

健康日本21分析評価事業 健康日本21(第三次)より

「健康日本21(第三次)」の基本的な目標は、「健康寿命の延伸・健康格差の縮小」だそうだ。厚労省が準備した概要資料には、こんなビジョンが掲げられている。

ビジョン

全ての国民が健やかで心豊かに生活できる持続可能な社会の実現

〈1〉誰一人取り残さない健康づくりを展開する
〈2〉より実効性をもつ取組を推進する

人生100年時代を迎え、社会が多様化する中で、各人の健康課題も多様化しており、「誰一人取り残さない健康づくり」を推進する。また、健康寿命は着実に延伸してきたが、一部の指標が悪化しているなど、さらに生活習慣の改善を含め、個人の行動と健康状態の改善を促す必要がある。 このため、「より実効性をもつ取組の推進」に重点を置く。

要するに、かつてなく寿命が延びて、いろんな病気を抱えた老人が出現しているので、健康に生き続けさせるために、生活習慣を改めるよう個人の行動に対してもっと具体的に改善を促していこう(そうしないと医療費が膨大になっちゃうから)という話のようだ。

「健康」を盾にして、個人の行動について国家がつべこべ口を出そうという視点がうざすぎる。

しかも、「全ての国民が健やかで心豊かに生活できる社会」なんて、いまどき誰でもわかる絵空事をよく平気で掲げられるものだ。貧困に虐待に自殺にSNS依存と「健康」以前の社会問題が山積みだと思うが。

一体どうやって実現するつもりなのか?

ベジファーストどころではない国による「健康管理地獄」

資料を読み進めると、「個人の行動と健康状態の改善」について、かなり細かく設定したページが登場した。一部を抜粋しよう。

  • 適正体重を維持している者の割合を国民の66%にする
  • 主食、主菜、副菜を組み合わせた食事を1日2回以上、ほぼ毎日とっている者の割合を国民の50%にする
  • 野菜の摂取量を1日350gにする
  • 果物の摂取量を1日200gにする
  • 食塩の摂取量を1日7gにする
  • 運動習慣者の割合を40%に増やす
  • 1日の歩数を7100歩にする
  • 睡眠で休養がとれている者の割合を80%にする
  • 睡眠時間を6~9時間確保している者の割合を60%に増やす
  • 1日のアルコール摂取量を男性40g以上、女性20g以上の者の割合を10%に減らす
  • 喫煙者の割合を12%に減らす
  • 喫煙による肺疾患の死亡率を10%に抑える
  • 糖尿病を1350万人に抑える
  • 過去1年間に歯科を受診した者の割合を95%にする
  • 歯周炎を有する者の割合を40%に減らす

厚生労働省 健康日本21(第三次)の概要より

すさまじい。いちいちいちいちうるさすぎる。

健康を害するものの代名詞と言えば、これまでは酒とタバコだった。だがこれからは、体重、食事の内容、野菜や果物の摂取量、1日の歩数、睡眠時間、歯周ポケットに至るまで、数値を出して、国家がつべこべ言おうという構えらしい。

「あなたは今日7,100歩に届いていません。国民の模範行動を参考に、個人としての行動を改善しましょう」

そんな通知がスマホに届く未来を想像するだけで、血圧が上がりそうだ。

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野菜を先に食べる程度で済むならそのほうがマシ

ちなみに、アルコールについては、ビールロング缶で1本飲めば20gだ。女性なら1本で、男性なら2本でやめておくのが、「個人の行動目標」だという。

「ゴー宣DOJO」の打ち上げで、乾杯してジョッキ2杯飲み干せば、もう「そんなに飲んでいる人間は国民の10%しかいませんよ!」と言われる時代を目指そうというわけである。コロナの際に、飲食店を社会の敵として扱う現象が起きたが、あれに似た感覚を常態化したいのだろうか。

不可解なのは、「睡眠で休養がとれている者の割合を80%に」だ。どうやって、休養がとれたかどうかをはかるのだろう。

サントリーの新浪剛史元会長が、時差ボケに対処するためとかで、大麻由来の成分を含むCBDサプリメントを輸入しようとして追及を受けていたが、あれも「睡眠で休養をとる」ための個人の行動に入るのだろうか。そもそも「休養」ってなんなのか。寝れば休養になるのか。

しかも紹介した目標はほんの一部で、他にも、がん検診の受診率をのばす、脳血管疾患での死亡率を減らす、高血圧を改善させる、LDLコレステロール値の高い者を減らす、メタボの者を減らす、しまいには、足腰の痛みのある高齢者を減らすなど、とにかく多岐にわたる。

国民全員にくまなく定期健診・歯科検診を受けさせて病院に管理させたいという思惑があるのだと思うが、その結果、測定された数値に対して、「こんな数値、国民の30%以下しかいない不健康さですよ」「休養がとれていませんよ」「果物を食べすぎです」「自覚が足りませんね。もっと行動を変えてください」など指導しようというのだろうか。

うざすぎる。野菜を先に食べる程度で済むなら、そのほうがマシだ。

私は昨年、生まれて初めて「人間ドック」を受けた。

親戚に、「軽い気持ちで検診を受けたら、初期のがん細胞が見つかった」という人がいて、それを聞いた母親が動揺して、何度も何度も電話やLINEをしてきて、検査を受けろとしつこく言われたからだ。

ところが、いざ検査を受けると、今度は「LDLコレステロール値がやや高い」という結果に対して、病院から週に1度のペースで、「再検査は受けないのか?」「次の検査はいつ頃の予定か?」と電話がかかってくるようになった。

これがまた、母親ばりにうるさくて、しまいには、スマホの着信画面に病院の電話番号が表示されているのを見ただけで、脳がこわばり、胸がギッと押されるような感覚をおぼえるようになった。明らかなストレス反応である。

これは健康を害していると判断したので、病院を着信拒否にしてしまった。私は、厚労省の設定した「個人の行動目標」を押し付けられたら、それが原因で、ストレス性の病気になる人間だと思う。

国も病院も「健康」を絶対正義と掲げて、容赦なく圧をかけようとするから、めんどくさい。「全員健康」を目指すなんて、人間として病んでいるのではないか?なにかヤバい思想と連結していかないか?

野菜ぐらいしっかり食べる。だから、放っておいてくれ。

(メルマガ『小林よしのりライジング』2025年9月23日号より一部抜粋・敬称略。続きはメルマガ登録の上お楽しみください)

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