中国ときちんと向き合う外交という「力」を放棄した台湾の現状
それこそ台湾の現状を見ろ、だ。
台湾は、現在の頼清徳よりバラス感覚の優れた蔡英文時代から防衛予算を大幅に引き上げ、アメリカの機嫌を取ってきた。しかし経済対策や社会保障に回す予算を削って防衛装備を爆買いしてもトランプ政権は満足せず、最近では「対GDP5%まで防衛予算を引き上げろ」と台湾を責め立てている。
一方で島内の「疑米論」(いざというときに米軍が動かないのではとの疑い)は、むしろ拡大の一途をたどり、頼清徳の支持率はついに28%(TVBS調査)まで下がったという。
米軍が動くか否か以前の問題として、最近ではアメリカ政府やシンクタンクから、台湾周辺で米中が激突すれば「米軍不利」との意見や報告も盛んに出されている。
エルブリッジ・コルビー国防次官はその筆頭だ。
日本が防衛予算を対GDP比2%にまで引き上げると言うが、それで中国との差は埋まるのだろうか。現在の傾向を変えようとする意味でも焼け石に水だろう。戦争を支える産業力という点ではさらに中国に大きな追い風が吹く。
台湾が陥ったように、防衛予算が重すぎて経済対策が後手に回れば、最終的には国力の低下を招き、悪循環は加速する。
だからこそ中国ときちんと向き合い外交という「力」を有効活用しなければならないのである。
台湾を「見ろ」と書いたのは、頼清徳はその外交という利器を自ら放棄したことで窮地に陥っているからだ。日本は台湾と違いきちんと外交する余地が残されている。
防衛費の増額は一つの方法として、それ自体は否定しない。しかし日本を守るという意味では必要条件に過ぎない。
例えば、突発的な危機が日本を襲うケースへの対処はどうだろうか。
世界を見回せば、ロシアのウクライナ侵攻やハマスがイスラエルに越境攻撃を仕掛けるなど、意外性に満ちた事件が多発している。同じことが東アジアで起きないと断じることができるだろうか。
いま頭の体操として、一つの可能性を提起してみよう。
例えば、中国人民解放軍の艦船が突然尖閣諸島周辺に大挙して侵入し、日本の警告も無視して居座り続けたとしよう。そのとき日本には何ができるのだろう。
頭の体操と書いたが実はそれほど現実離れした設定でもない。
先月末、共同通信は「尖閣諸島へ中国軍引き寄せ提起 74年、キッシンジャー氏」と題した記事を配信した。
記事は1974年1月、「米国のヘンリー・キッシンジャー国務長官が沖縄県・尖閣諸島に中国軍を引き寄せ、活動を活発化させることができるかどうか国務省幹部に尋ねていたこと」を公文書から解き明かした内容だ。キッシンジャーの目的は「日本の対中接近を戒め、同時に日本の自衛意識を高める思惑」だった。つまり日中を衝突させる計略だ。
ニクソン政権下で俎上に上った計略は、その根本のところでトランプ政権下に引き継がれても不思議ではないアメリカにとっての国益だ。
私が提起したのは、そうした計略が実行されるか否かではなく、もし本当に起きてしまったとき、日本としてどんな対処法があるのか、という備えの問題だ。
勇ましく靖国神社に参拝してスパイ防止法をつくり、防衛費をGDP2%にすれば中国は引き下がってくれるのか。
ありえないことだ。
キッシンジャーの時代もいまも日中接近の破壊はアメリカの国益だ。ならばアメリカが火消しに回ってくれる保証はない。
日本は独力で解決するしかないのだ。
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