「日本初の女性首相」の座を射止めた高市早苗氏。これまでの発言や姿勢から、こと外交面に関する不安を指摘する声も少なくありません。今回のメルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』では国際関係アナリストの北野幸伯さんが、高市氏に対する「右より過ぎる」という批判を一蹴し、その根拠を具体的に解説。さらに新首相が師と仰ぐ安倍晋三氏の外交政策を継承すべき理由を論じています。
※本記事のタイトルはMAG2NEWS編集部によるものです/原題:高市さんが〇〇外交を継承するなら問題は起こらない
高市さんが〇〇外交を継承するなら問題は起こらない
日本で初めての女性総理が誕生して一日。
世界のメディアを見ていると、高市さんについて「保守」「強硬派」「右翼」「安倍の後継者」といった評価が多いです。中国と韓国は、特に懸念している。一方、台湾やインドは、逆に喜んでいるといった感じです。アメリカでは、トランプさん、「シンゾーの愛弟子が首相になってうれしい」という感じでしょう。
高市さんが安倍外交を継承すれば、問題は起こらない
思い返せば、安倍さんも、2012年総理に返り咲いたときはさんざんに言われていました。「ソフトファシスト」「右翼」「歴史修正主義者」などなど。
2012年11月、中国は、ロシアと韓国に、【反日統一共同戦線】構築を呼びかけた。
【必読証拠】反日統一共同戦線を呼びかける中国
中国はこの戦略に沿って、
- 日本は右傾化している
- 日本は軍国主義化している
- 日本で歴史修正主義が強まっている
というプロパガンダを世界中で拡散していきました。中国が「右傾化」「軍国主義化」「歴史修正主義」の証拠として挙げたのは、
- 靖国参拝
- 憲法改正
- 歴史の見直し要求
でした。中国は、大金をかけて反日プロパガンダをし、韓国の朴槿恵は「告げ口外交」で「反日統一共同戦線戦略」に協力しました。
2013年12月、安倍総理は靖国を参拝。結果、中国の思惑通りに、世界中で大バッシングされたのです。当時どんな反応があったのか、振り返ってみましょう。
- 2013年12月26日、安倍総理の靖国参拝について、アメリカ大使館が「失望した」と声明を発表
- アメリカ国務省も「失望した」と、同様の声明を発表
- 英「ファイナンシャル・タイムズ」(電子版)は、安倍総理が「右翼の大義実現」に動き出したとの見方を示す
- 欧州連合(EU)のアシュトン外相は、(参拝について)「日本と近隣諸国との緊張緩和に建設的ではない」と批判
- ロシア外務省は、「このような行動には、遺憾の意を抱かざるを得ない」「国際世論と異なる偏った第二次大戦の評価を日本社会に押し付ける一部勢力の試みが強まっている」と声明
★ 台湾外交部は、「歴史を忘れず、日本政府と政治家は史実を正視して歴史の教訓を心に刻み、近隣国や国民感情を傷つけるような行為をしてはならない」と厳しく批判
- 12月27日、米「ニューヨーク・タイムズ」、社説「日本の危険なナショナリズム」を掲載
- 12月28日、米「ワシントン・ポスト」は、「挑発的な行為であり、安倍首相の国際的な立場と日本の安全をさらに弱める」と批判
- 同日、オーストラリア有力紙「オーストラリアン」は、社説で「日本のオウンゴール」「自ら招いた外交的失点」と指摘
- 12月30日、米「ウォール・ストリート・ジャーナル」、「安倍首相の靖国参拝は日本の軍国主義復活という幻影を自国の軍事力拡張の口実に使ってきた中国指導部への贈り物だ」
※ つまり、「日本で軍国主義が復活している」という、中国の主張の信憑性を裏付けた
- 同日、ロシアのラブロフ外相は、「ロシアの立場は中国と完全に一致する」「誤った歴史観を正すよう促す」と語る
ちなみに、私は当時から「反日統一共同戦線戦略」のことを知っていたので、「靖国にはいかない方がいい。習近平の罠だ」と警告していました。そのことで、保守派から大いにバッシングされたのですが、日本国を守るために、いわざるを得ませんでした。
2014年初め、日本は、世界一孤立していました。しかし、2014年3月、プーチンがウクライナからクリミアを奪ったことで、「世界一の巨悪」がプーチンになった。それで、国際社会は「靖国問題」を忘れたのです。
高市さんに知ってほしいのはここからです。
小泉さんは、在任中6回靖国を参拝しています。しかし、より保守の安倍さんは、在任中1回しか靖国を参拝していません。
つまり安倍さんは、2013年12月の参拝で大バッシングされて、「これはもう行けないな」と理解したのです。そして、「反日統一共同戦線無力化」のために全力を尽くされました。
中国は、ロシア、韓国、そして【アメリカ】と反日統一共同戦線をつくろうとした。安倍さんは、アメリカ、ロシア、韓国と和解することで、反日統一共同戦線【無力化】に成功しました。
安倍さんは、リベラルのオバマ、保守のトランプ、どちらとも親友でした。そして、民族主義者のプーチンとも、超リベラルのメルケルさんとも仲良しでした。
安倍外交の大戦略は、ご自身が提唱され、西側共通対中戦略になった「自由で開かれたインド太平洋」です。日本、アメリカ、オーストラリア、インドなどを核にして中国を封じ込めるのです。
もう一つは、「反日統一共同戦線戦略無力化」です。アメリカ、ロシア、韓国との仲を改善することで、「反日統一共同戦線」を無力化したのです。
自民党総裁になった後、高市さんは、「センターより」になっています。前回は、「総理になっても靖国に行く」と断言し、岸田さんから「高市だけはイカン!」とダメ出しされて石破さんに負けました。今回は、靖国に行かないことで、中道、左の人たちも取り込んで、勝利できたのです。
保守の皆さんは、「ブレた!」と不満かもしれません。しかし、安倍さんもそうでした。
安倍さんは、2013年以降靖国に参拝せず(=習近平の罠にはまらず)、右寄りのトランプ、プーチンだけでなく、リベラルなオバマ、メルケルとも良好な関係を築き、日本を守ったのです。
高市さんを、「右より過ぎる!」と批判する人はたくさんいます。しかし私は、安倍さんの愛弟子である高市さんは、安倍さん同様「保守リアリスト」で、きっとうまく外交をやるだろうと思います。
国民は、とにかく「はっきりいう政治家」「強気な政治家」が大好きです。松岡洋祐が国際連盟を脱退した時、日本国民はお祭り騒ぎで、彼を「英雄!」と称えたのです。そして日本は、破滅に向っていきました。
私たち国民も、賢くなる必要があります。日本の主な仮想敵は、「日本には尖閣だけでなく沖縄の領有権もない」と主張する中国です。そして、中国のGDPは約19兆ドルで、日本の4.75倍。日本一国で勝てる可能性はほぼない。
それで日本は、アメリカ、欧州、インド、オーストラリア、東南アジアなどを巻き込んで、アジアの「バランスオブパワーを回復する」必要がある。その為には、「強気ではっきりいう」だけでは全然足りません。
優秀な指導者は、時が経つにつれて仲間を増やしていきます(例:安倍さん)。無能な指導者は、時が経つにつれて、自国を孤立化させていきます。
(無料メルマガ『ロシア政治経済ジャーナル』2025年10月22日号より一部抜粋)
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