人家近くのクマは捕獲して、奥山に戻せばよいと主張する人もいるが、そういうわけで、それは無理なのである。
人がほとんどいない集落跡に棲息してそこから出なければ問題はなさそうだが、奥山に行けないクマはエサが足りなくなると、さらに人が住む人家近くまでエサ探しに来るようになる。
すると目撃情報が多くなる。小屋などに食べ物が貯蔵してあることがわかると、クマはそれを学習して、同じような小屋があると中に侵入してきて食べ物を漁るようになる。
たまたま小屋に人がいて、鉢合わせをすると、クマに襲われる恐れが高くなる。
クマには所有権という概念はないから、自分が見つけた食べ物を横取りされると思うのだろう。
かつて、大雪山からトムラウシ山にかけて縦走していたパーティーがヒグマに襲われたことがあった。
原因は缶詰などの食料をテントの外に放置したことだ。
近辺をうろつき回っていたヒグマが、これを見つけて食べたのに気づき、残りの缶詰を回収して次の露営地まで運んだところ、自分の見つけた食べ物を盗られたと思ったヒグマは、パーティーを追いかけてきて襲ったわけだ。
クマは本来、植食性か雑食性で、肉食性ではないが、腹が減っていれば、シカなども食べる。
狩りはあまり上手くないので、シカの個体数が少ない時は積極的にシカを獲ることは滅多にない。
しかし簡単に倒せるとなれば、話は別である。シカが激増すると、シカを獲るのが比較的容易くなり、シカを食べるクマが増えるという。
人家の近くに住んでいるクマは人に遭遇する確率が高く、人を襲ったクマが腹をすかしていれば、倒した人を食べるだろう。
クマは学習能力が高いので、人は弱くて簡単に倒せてしかも美味しい、ということがわかるはずだ。
かつて、クマが奥山で出会った人は猟師のことが多く、クマにとっては恐ろしい存在であり、余程びっくりしない限り、人を襲うことはなかった。
人の気配を察すれば、なるべくやり過ごすことが、奥山のクマの行動規範だったのである。
鈴をつけて歩くのも、歌を歌いながら歩くのも、ここに人がいるよ、とクマに知らせることが目的だったのである。
しかし人を襲って食べることを学習したクマは、今度は積極的に人を探して襲うようになる。
こうなると鈴をつけて歩くのは逆効果になる。人家周辺に出没するクマと共存することはほぼ不可能だ。
可哀そうだけれども、駆除せざるを得ないだろう。特に一度、人を襲ったクマは見つけ出して射殺する以外にない。
もう一つ、クマが人家周辺に降りてくる原因として大きいのはーーー(『池田清彦のやせ我慢日記』2025年11月14日号より一部抜粋。続きはご登録の上お楽しみください、初月無料です)
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