被害者に「自分も悪かった」と言わせてしまう理不尽
もう1つの観点として、被害生徒が「喧嘩です」「大丈夫です」「僕も手を出しましたから」などと証言をした場合である。
この言葉のみ取り上げれば、「心身の苦痛はなかった」とできるかもしれないが、本件の場合はそうはいかない。なぜなら、被害生徒は「右手を骨折している」からである。
少なからず、骨折をしている以上、心身の苦痛はあると断定できるわけだ。
そもそも、学校はある種の閉鎖空間であり、いじめについての処分は日本全国共通で激アマを通り越して、ほぼ無いに等しい。これは2万件以上の相談対応をしている私が保証をする。大きな問題になっても、重大事態で第三者委員会が設置されても、まず処分はしない。一方で、ブラック校則があるように、下着の色だとか、髪が赤いだとか、学校でお菓子を食っただとかで、驚くほど重い懲罰を課せられる。
目の前のいじめを止めなかった先生、証言が書かれたアンケートを誤って処分又は廃棄した先生は一切お咎めはないけれど、残業をした先生は烈火のごとく校長に叱責を喰らったりする。
こうした世の常識と異なる特殊社会が形成されていることを、その空間に身を置く生徒は子どもながらによくわかっているのだ。
例えば、あなたが超ブラック企業に勤務していたとして、ある時、部長にカフェモカを買ってこいと命令され、10軒お店を周ったけれど売り切れで、課長に相談した上、カフェオレを買って帰ったとする。部長はブチ切れて、課長以下の職員を呼び、土下座を強要された。ある種の見せしめで、課長には足で頭を踏めと命令したとする。その後、部長は暴力をふるい、あなたは骨折してしまった。
まあ、普通は警察に行き、労基署に行って、さらに弁護士のところに行って労働審判や損害賠償請求をするだろう。この場合、学校だから、それは無いと考える。
なぜなら、教育委員会は独立した行政委員会であり、一応の指導の制度はあっても形骸化して、全てはお仲間の中だからだ。警察もその実、地域懇談会などの集まりで、校長とはお酒を交わす仲かもしれない。
私の本業は探偵だ。その上でいじめの無償対応などのオフィシャルな活動をしているし、経営者の会など各団体にもよく顔を出すから、こういう色々な裏の話については、だいたい承知済みだ。
話しを戻そう。もしも、救いがない中で、自分がされた理不尽な暴力等があったとして、それでも生きるためにはその環境にいなければならないとしたら、あなたならどうするか?暴行者らは、結局、元の場でも元のポストにいるわけだ。加害者だらけの場に、結局戻らなければならないのだ。
その上で、激しく脅されたらどうなるか。
冒頭の暴力動画の様子の中にあった言葉は、一方的な暴力と一方的な脅迫であった。
「彼らは悪くありません。私も悪いんです」
思わずそう言ってしまわないだろうか。
私はDV被害者の救援活動も無償でやっている。DVの被害者も当初はみんなそういうのだ。「彼が殴ったのは私のせいなんです」「私が悪いんです」
稀にこの言葉だけを鵜呑みにするアホな司法の人もいるが、現実の状況を見れば、普通にわかるだろう。
暴力は時に人の思考を支配してしまう。しかし、それを救うことができる人は、痛みや恐怖の背景を読み解き、真実の助けてくださいの叫びの声をしっかりと捉え、時間や労力をかけても粘り強く、手を差し伸べ、そこから救い出さなければならないのではないだろうか。
神奈川県教育委員会が本来取るべきだった対応
本来、神奈川県教育委員会がやるべきであったことは、学校に確認だけをやって記者会見をしてしまうのではなく、自ら出向き、学校のみならず、関係生徒のみならず、その他の生徒たちともしっかり向き合って、専門家を入れて徹底した調査を行い、二度とこのようなことが起きないように、多方面の対策をする事ではないだろうか。
私とはスタンスが異なるいじめ問題の専門家の中からも、今回の神奈川県教育委員会の対応は、暴行を受けた生徒が骨折等をしている以上、少なからずしっかりとした調査を行い、事実解明をするべきだというものもあった。
確かに、神奈川県は人口も多く、問題発生数も多いだろうが、神奈川県教育委員会には、本件みならず、全件チェックと忌憚のない第三者による調査と併せて、暫定措置として被害者が安心して学生生活ができるようにしてもらいたい――(『伝説の探偵』2026年2月9日号より一部抜粋。続きをお読みになりたい方はぜひご登録ください。初月無料でお読みいただけます)
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