2月の党大会と3月の最高人民会議を経て、金正恩体制はいよいよ「深化段階」へと突入しました。ICBM関連施設や特殊部隊の視察が相次ぐ一方で、娘とともにペットショップを訪れる「父親の姿」も演出されています。恐怖と親近感を巧みに使い分けるリーダー像の裏に、何が隠されているのでしょうか。今回のメルマガ『宮塚利雄の朝鮮半島ゼミ「中朝国境から朝鮮半島を管見する!」』では、著者の宮塚利雄さんが、中朝国境での踏査経験も交えながら、その統治戦略の深層を鋭く読み解きます。
軍事関係施設の視察と娘とペットショップで戯れる金正恩総書記
2月の党大会と3月の最高人民会議を経て、金正恩体制は名実ともに「金正恩時代」の深化段階に入ったといえる。その象徴が、連続的に行われている軍事施設・部隊の視察である。とりわけICBM関連技術や特殊部隊の訓練視察は、単なる軍事能力の誇示にとどまらず、「体制の安全保障=核」という統治理念の再確認の場として機能している。
近年の北朝鮮においては、軍事的威嚇行動は対外的メッセージであると同時に、国内統治の正統性を支える政治的儀礼でもある。すなわち、軍事力の誇示は「外敵から国家を守る指導者像」を強化し、体制への忠誠を再生産する役割を担っている。
一方で注目すべきは、これと対照的に演出された「ペットショップ視察」という極めて日常的で家庭的な映像である。娘とともに子犬や猫を愛でる姿は、従来の「革命的指導者像」とは異なる、「父親としての金正恩」という柔らかなイメージを内外に提示するものであった。
この2つのイメージ──すなわち「強硬な軍事指導者」と「家庭的な父親像」──は決して矛盾するものではなく、むしろ相補的である。北朝鮮のプロパガンダは近年、恐怖と親近感を同時に喚起する複合的なリーダー像の構築へとシフトしていると考えられる。
しかしながら、ここで看過してはならないのは、こうした「生活向上」や「文化的成熟」を示唆する映像の背後にある現実である。北朝鮮は依然として犬肉料理「タンコギ」を奨励してきた社会であり、一般市民におけるペット飼育文化が広く根付いているとは言い難い。つまり、この映像は実態の反映というよりも、「見せたい北朝鮮像」の提示と見るべきである。
筆者が中朝国境地域を踏査した際にも、食文化としての「タンコギ」は日常的に存在していた。こうした経験を踏まえると、今回のペットをめぐる映像は、北朝鮮社会の実像というよりも、対外的なイメージ戦略の一環として理解するのが妥当であろう。
結局のところ、金正恩体制は現在、「軍事的威嚇」と「生活的演出」という2つの軸を巧みに使い分けながら、内外に対する統治の正当性を強化しようとしている。その意味で今回の一連の動きは、単なるニュースの羅列ではなく、北朝鮮の統治戦略の変化を読み解く重要な手がかりといえる。
image by: 朝鮮労働党機関紙『労働新聞』公式サイト









