トランプ流の思惑と計算。なぜ米国は本来なら避けたい“習近平を赤絨毯で迎える演出”をしてみせたのか?

 

日本が真剣に向き合うべき「赤絨毯」と「ガンホー」

米中には対立があり、中国は決してアメリカ人に人気のある国ではない。中国嫌いのアメリカの有権者に向けて、習近平を赤絨毯で迎える演出は、本来ならば避けたかったのではないだろうか。]

そこを敢えて大歓待したのはトランプ流の思惑と計算が働いたためであり、そうせざるを得なかったからだ。そうまでして築こうとした関係をたかがメタファー一つで壊してしまうようなリスクをトランプ政権が冒すというのだろうか。意味不明だ。

日本のメディアの報道には、概してトランプ氏が「習主席に融和的で好感を持っている」との前提があるようだが、これも疑問だ。

もちろんトランプ氏が習氏に個人的な親しみを感じていることは、本人も度々口にしてきた。しかし、コロナ禍におけるトランプ氏の対中政策はどうだっただろうか。個人的に親しみを覚えているからといって手加減しただろうか。少なくとも米中を史上最悪の激しい対立へと突き落とし、互いの領事館を閉鎖するまで関係を悪化させたのはトランプその人だ。

つまり、そんな人物がいま赤絨毯で相手をもてなし、「Gung-ho(ガンホー)」と中国が喜ぶ中国語由来のメッセージを送ったことが問題なのだ。日本はもっと真剣にこの変化と向き合うべきだろう。

中国を「同盟」と呼ぶのとは違い、「ガンホー」は中国共産党に直接向けられたメッセージだ。「ガンホー」は元々中国語の「工合」(工業合作社)という労働組合から出た言葉で「共に働く」という意味を持つ。だが、この言葉は後に第2海軍陸戦突撃大隊(以下、突撃大隊)の合言葉となる。それは同大隊の司令官、エヴァンス・カールソンが中国での体験から「過剰な熱意」を発揮する場面での掛け声として採用したからだ。

「1943年、カールソンは『ライフ』誌になぜ『ガンホー』を採用したのかについて、『私は中国で目にしたのと同じような協力の精神を築こうとしていた。(八路軍の)すべての兵士がひとつの理念に身を捧げ、その理念を実現するために共に働いていた』と語っている」

とトランプ氏は説明した。

カールソンがわざわざ革命根拠地の延安を訪れ毛沢東と会っていた話は有名だ。

香港のクオリティ・ペーパー『サウスチャイナ・モーニング・ポスト』によると、〈突撃大隊がメイキン環礁奇襲やガダルカナルの戦いで目覚ましい活躍を見せると、ハリウッドは彼らの活躍を映画『Gung Ho!』(1943年)として撮影した〉という。

1943年といえばアメリカが日本と激戦を繰り広げている最中だ。日本との死闘を制すために繰り返された「ガンホー」という叫びには、中華民国も国民党も入り込む余地はない。

日本は一刻も早く目の前で起きている現実を正視すべきだろう。

(『富坂聰の「目からうろこの中国解説」』2026年10月4日号より。ご興味をお持ちの方はこの機会に初月無料のお試し購読をご登録下さい)

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1964年、愛知県生まれ。拓殖大学海外事情研究所教授。ジャーナリスト。北京大学中文系中退。『週刊ポスト』、『週刊文春』記者を経て独立。1994年、第一回21世紀国際ノンフィクション大賞(現在の小学館ノンフィクション大賞)優秀作を「龍の『伝人』たち」で受賞。著書には「中国の地下経済」「中国人民解放軍の内幕」(ともに文春新書)、「中国マネーの正体」(PHPビジネス新書)、「習近平と中国の終焉」(角川SSC新書)、「間違いだらけの対中国戦略」(新人物往来社)、「中国という大難」(新潮文庫)、「中国の論点」(角川Oneテーマ21)、「トランプVS習近平」(角川書店)、「中国がいつまでたっても崩壊しない7つの理由」や「反中亡国論」(ビジネス社)がある。

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