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【欧米の欺瞞】イスラム国が善の勢力?今さら聞けない「イスラム国の正体」

イスラム国を「善の勢力」として応援した欧米??

『ロシア政治経済ジャーナル』No.1153(2015.02.09号)より

日本では、「イスラム国」による湯川さん、後藤さん殺害事件の衝撃がいまだにつづいています。そこで今回は、前々号でも少し触れた「イスラム国の正体」について考えてみましょう。

世の中には、「トンデモ論」というのがあります。しかし、「トンデモ論」も二つにわかれるのです。

1、ホントに「トンデモ」である。
2、読み手の知識が不足しているせいで、「事実」なのに「トンデモ」と感じてしまう。

そして、「イスラム国」については、以下二つの事実があります。

1、「イスラム国」は、もともとシリアのアサド大統領に反対する勢力(いわゆる反アサド派)。欧米は「イスラム国」を、「善の勢力」として援助し、育てた。つまり、「イスラム国」が突如強大になり、イラクとシリアにまたがる広大な領土を支配できたのは、「欧米の支援のおかげ」である。

2、欧米は、(イスラム国を含む)「反アサド派=民主主義を求める善の勢力」とプロパガンダしてきた。しかし、「イスラム国」は、もともと9.11の犯人とされる「アルカイダ系」である。(つまり、全然「善の勢力」であるどころか、アメリカの敵NO1である。)


どうですか、これ?

これを読むと、普通の日本人なら、頭の中に、「トンデモ、トンデモ、トンデモ~~~~オ~~」という叫び声がこだますることでしょう。

でも、これ「事実」なんです。

ちょうど、私の新刊「クレムリン・メソッド」(集英社インターナショナル)でも、「イスラム国」の正体について触れていますので、転載してみましょう。

 

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シリアの「反体制派」内に「イスラム国」というアルカイダ系がいる「真実」

さて、もう一つ、超重要な事実があります。

「反アサド派」「反体制派」といっても、いろいろな勢力がある。彼らが、「内輪もめをした」ことを、AFP(フランス通信社)と時事通信が報じています。

シリア北部の町占拠、反体制派とアルカイダ系勢力 対立の背景

トルコとの国境沿いにあるシリア北部アレッポ(Aleppo)県の町、アザズ(Azaz)で18日に戦闘になったシリア反体制派「自由シリア軍(Free Syrian Army、FSA)」と国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)系武装勢力「イラク・レバントのイスラム国(Islamic State of Iraq and the Levant、ISIS)」が停戦に合意したと、イギリスを拠点とするNGO「シリア人権監視団(Syrian Observatory for Human Rights)」が20日、明らかにした。([AFP=時事])

同じ反体制派内の「自由シリア軍」と「イラク・レバントのイスラム国」(ISIS)が仲間割れして、戦闘になったと。

そして、この「イラク・レバントのイスラム国」は、「アルカイダ系武装勢力」である、とはっきり書いてあります。

説明するまでもないでしょうが、「アルカイダ」は、2001年に「米同時多発テロ」(いわゆる9.11)を起こしたとされる人たち。アメリカは、なぜ自国最大の敵であるアルカイダを支援しているのか??

アサド政権に反対する勢力の統一組織は、「シリア国民連合」といい、2012年11月に組織されました(最近は、分裂状態にあるようですが)。「シリア国民連合」をアサド政権にかわる「シリアの代表」と認めたのは、アメリカ、フランス、イギリス、湾岸協力会議(アラブ首長国連邦、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール、サウジアラビア)など。

「反体制派」にはいろいろな勢力があるものの、一応「シリア国民連合」が「代表」というコンセンサスはとれていたのです。

つまり形式的には「シリア国民連合」に諸勢力が結集していると。その中に、アルカイダ系の「イラク・レバントのイスラム国」(ISIS)や「アルヌスラ戦線」もいる。

ちなみに「自由シリア軍」は、シリア政府軍(つまりアサド政権)から離反したリヤード・アル=アスアド大佐がつくりました。

いったい彼らは、なぜアルカイダと共闘していたのか??

アルカイダ系イスラム国を結果的に支援していたアメリカ

先の記事は、こう解説しています。

シリアの反体制各派は、安定的な兵器の供給を受けて支配地域を拡大し「政府軍に匹敵する」ともされる残忍さを示すISISに怒りを募らせており、ここ数か月、反体制派がその大半を支配下に置いているシリア北部を中心に反体制各派とISISの間で緊張が高まっていた。(同前)

「イラク・レバントのイスラム国」(ISIS)は、政府軍(つまりアサド派)と同じくらい残忍だというのです。

しかし、戦いはメッポウ強い。

反体制各派とFSAにとって、ISISとアルカイダ系イスラム武装組織「アルヌスラ戦線(Al-Nusra Front)」は以前からジレンマの原因になっていた。

実戦の中でISISとアルヌスラ戦線が政府軍に対する有効な戦力であることは証明されていた。(同前)

シリア国民連合の内部にアルカイダがいるにも関わらず、アメリカ、イギリス、フランスは、支持を表明した。

理屈は、「われわれが支援するのは『自由シリア軍』で、アルカイダじゃない」です。

これに関して、二つ問題があります。

一つは、米英仏が「自由シリア軍」に武器を与えた。しかし「自由シリア軍」と「アルカイダ系」は、同じ「シリア国民連合」に属している。

アルカイダ系が自由シリア軍に、「俺たちにも武器を流せ! 俺たちは仲間だろ!」と要求すれば、自由シリア軍はそれを拒否することができるのか? 「反アサド勢力」の分裂を恐れれば、そうもいかないでしょう。

つまり、米英仏は、「間接的にアルカイダに武器を供与する」ことになる。

もう一つは、もしシリア国民連合が、アサド政権を打倒したとしましょう。そうなれば、シリア国民連合は、新政府を組織する。

その時、大活躍したアルカイダ系勢力を、新政府から排除することができるだろうか? 常識的に考えれば、難しいでしょう。

そうなれば、アメリカは、「9.11を起こした犯人たちが新シリア政府をつくるのを、全面的に支援した」結果になります。

「アメリカは、アルカイダ系もメンバーに含まれている『シリア国民連合』を支援している」というのは、到底アメリカ国民の理解を得られません。それで、アメリカでは、「アサドはひどい奴だ!」という報道ばかりだった。

「反アサド派にはアルカイダがいる」という事実は、ほとんど(意図的に)無視されていたのです。

「アメリカ政府は、9.11を起こし、3000人以上の民間人を殺したアルカイダを支援している!」・・・このことをアメリカ国民がひろく知れば、どうなるか?

結局、オバマは、「シリア戦争」を「ドタキャン」しました。

オバマ大統領、慎重ながら外交的解決に傾く─シリア問題で演説

[ワシントン]オバマ米大統領は10日夜、シリア問題についてテレビ演説し、外交手段を通じて問題を解決することに慎重ながらも楽観的な考えを示した。(ウォール・ストリート・ジャーナル9月11日(水)配信)

これは、いったいなんだったのか?

もうおわかりですね。

確かに、アサドは独裁者で、ひょっとしたら化学兵器を使ったかもしれない。

しかし、「反アサド派」は、到底「人権重視」の「民主主義者」ではない。彼らは、「化学兵器」を使った可能性が高く、「人肉」を食う非人道的な連中である。

そして何よりも、アメリカで同時多発テロを起こした、「アルカイダ」である。

この事実が、拡散されたのです。

もちろん、ほとんどの日本人も、アメリカ人も、この衝撃的事実を知りません。しかし、将来さらにこのことが拡散されて、イラク戦争のウソ同様、バレる可能性がある。

だから、オバマは戦争ができなかったのです。

ちなみに、「反アサド派」」でアルカイダ系の「イラク・レバントのイスラム国」(ISIS)は、現在「イスラム国」と名をかえています。

そして2014年10月現在、「イスラム国」は、イラク現政権(アメリカの傀儡)と激しく対立している。
アメリカは、自分で樹立したイラク政権を守るために、自ら支援して育てた「イスラム国」に空爆を繰り返すという「マヌケな」結果になっている。
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どうですか、これ?

まことに「事実は小説より奇なり」です。

1、アルカイダは、「9.11」を起こしたとされ、アメリカの敵NO1である。
2、欧米は、そのアルカイダ系イスラム国を、アサド政権打倒のために支援し育てた
3、強力になったイスラム国は、欧米に反旗を翻した
4、欧米は、自分で育てたイスラム国を空爆している
5、そんなイスラム国は、日本人・湯川さんと後藤さんを捕まえ殺した

と、なんとも複雑な話なのです。

こういう欧米の欺瞞を知ると、「日本はイスラム国との戦いに関わるな!」と叫びたくなるでしょう?
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『ロシア政治経済ジャーナル』
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