「桜」の捜査は佳境に入っていましたが、24日夜に安倍前首相が会見を行い、懇親会の運営にはまったく関わっていなかったと説明。秘書の略式起訴のみでの幕引きに批判が集まっています。依然として議員辞職を求める声は強く、このまま国民の不信感を払拭できなければ、彼と一蓮托生の菅政権にも大きなダメージとなります。早くもポスト菅を考えるべき時に来ています。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
※本記事は有料メルマガ『マンさんの経済あらかると』2020年12月21日の抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
菅政権は安倍悪事の隠れ蓑
9月に菅政権が誕生した裏には、安倍前総理と二階幹事長の強い推しがありました。
特に安倍前総理にしてみれば、石破元幹事長は最大の危険人物でした。石破政権となれば安倍総理が長年行ってきた悪事、嘘が露呈しかねないだけに、何としても彼を抑え込む必要がありました。
その点、安倍総理の「影」として働き、すべてを包み隠してきた功労者、菅官房長官に引き継ぐのが最も安全策でした。いわば菅氏は安倍総理の隠れ蓑であり、ある意味では共犯者でもあるため、都合よくコントロールできる人物でした。
従って、決して安倍前総理を欺いてはいけない。安倍総理よりも評価されてもいけない。総理ポストについても引き続き安倍前総理の引き立て役を強いられていました。安倍総理の悪事、嘘については7年8か月もの間、彼を支え、守ってきた共犯者とも言えます。
一部にささやかれていた菅総理の早期解散も、もともと認められていなかったと言います。解散総選挙で大勝ちすれば、安倍前総理の面目が立たないからです。
あくまで安倍氏の影の存在を強いられました。もっとも、今ではコロナ対応の失敗から菅政権自体の支持率が急落し、選挙どころではなくなりました。
「桜」で安倍総理の嘘が発覚
安倍前総理が政治を私物化し、身内や親しい一部の人間に不当な利益を供与してきた疑惑はずっと晴れませんでした。「もり・かけ」問題から「桜を見る会」、その前夜祭についても、安倍総理は十分な説明がなく、国民の多くは「嘘」をつき続けていると感じていました。
そこへ「桜を見る会」前夜祭での安倍事務所の資金補填の事実が判明し、事態が動きました。
東京地検特捜部は11月、「桜を見る会」前夜祭の調査に出ました。安倍前総理は参加者1人あたり5,000円でやってもらい、事務所の補填は一切ないと言ってきましたが、実際には安倍事務所から毎年100万から250万円、あわせて800万円以上の資金補填をしていたと言います。ホテル側はそれに領収書を出したと言います。
にもかかわらず、後援会や晋和会の2015年から19年の政治資金収支報告書には夕食会の記載がなく、当局は政治資金規正法違反の疑いで調べていました。少なとも事務所による資金補填については公設第一秘書が認めました。多くの専門家は、金額が大きくないことや、秘書がやったことで本人は知らないと言い張れば、検証できず、秘書の罰金くらいで済むとの見方をしています(※編注:原稿執筆時点12月20日)。
しかし、2つの点を考慮すると、そう楽観はできません。まず、桜前夜祭の資金補填以外でも、これまで安倍前総理は「もり・かけ」で巨額の国民財産、資金を一部の人間に優遇して便宜を与えてきた積み重ねがあります。広島の河井案里議員への運動資金の出どころも安倍事務所とみられています。これらも含めて私物化した資金は決して「少額」ではありません。
また東京地検特捜部には1992年の東京佐川急便事件で、自民党副総裁であった金丸信氏を事情聴取せず、国民から大きな批判を浴びたことがトラウマになっているといいます。今回また権力に負けて「大山鳴動ネズミ一匹」での幕引きでは通らないとの思いも強いと言います。
総理でもなくなり、国会も閉会中なら本人の逮捕もあると、自民党の中にも安倍逮捕「Xデー」が話題に上るようになったと言います。
Next: 菅総理にも捜査の手。米国が政権排除に動く可能性も
菅氏も報告書不記載パーティー
安倍前総理の夕食会が問題なら、菅総理も心穏やかではないはずです。
地元横浜のロイヤルパークホテルで、約2,500人を集めて「春の集い」を開催したことが報じられていますが、これも収支報告書への記載がないと言います。菅官房長官(当時)の出席も確認されています。
菅総理は安倍前総理の問題について、安倍総理から聞いた話を国会で答弁し、それが事実でなければ答弁した私にも責任がある、と述べています。これは責任を感じているように見えて、実は安倍前総理に責任を押し付けています。
安倍前総理は菅氏を総理にして問題を封印しようとしましたが、両者の関係はすでに崩れています。菅総理も自分に火の粉が及べば、前総理を守る保証はありません。
それ以上に、安倍・菅ラインで行ってきた政治的な大犯罪は、日本の民主主義を破壊したことです。政治を私物化し、国会ではうそをつき続け、コロナ対応に見るよう、国民の命よりも利権保持に汲々としました。そして日本学術会議の委員任命拒否では、言論の自由もはく奪しようとしていることが判明しました。
不誠実な政治に、さすがに国民も目を覚まそうとしてます。
米国の一刺し
安倍前総理、菅総理ともに、米国との関係が非常に重要で、米国ににらまれると政権は持ちません。
安倍退陣の表向きの理由は持病の悪化となっていますが、政権維持の行き詰まり、米国の支持を失ったため、との見方も少なくありません。東京地検特捜部と米国との関係も取りざたされています。
もともと東京地検特捜部は、連合国軍の占領下で、旧日本軍が隠し持っていた資産を摘発してGHQの管理下に置くために組織された「隠匿退蔵物資事件捜査部」としてスタートした経緯があります。それだけ、歴史的に米国、とりわけCIAなど米諜報機関との関係が深いと言われています。
言い換えれば、地検特捜部の動きには米国の意向が反映されやすい面があります。
5か月ほど前に、米国ワシントンにある戦略国際問題研究所(CSIS)が「日本における中国の影響力」という報告書をまとめました。そこでは二階幹事長や今井総理補佐官兼秘書官が安倍総理を中国びいきに導いたと批判しています。米国は国家安全保障の立場から中国を警戒し、日本から軍事機密が中国に漏れないか心配しています。
中国戦略を誤ると、米国が政権排除に動く可能性があります。
Next: 菅政権は総辞職に追い込まれる? 株バブルが弾けるリスクも
悪政清算の代償
これらを考えると、安倍前総理の「逮捕Xデー」も無視できなくなり、その場合は彼と一蓮托生の菅政権にも大きなダメージとなります。そして「米国の一刺し」となれば、菅政権は総辞職に追い込まれる可能性があります(※編注:原稿執筆時点12月20日。24日夜に安倍前首相は会見を行い、懇親会の運営にはまったく関わっていなかったと説明。秘書の略式起訴のみでの幕引きに批判が集まっています。依然として議員辞職を求める声は強く、このまま国民の不信感を払拭できなければ、菅政権のさらなる支持率急落につながるとの見方も出てきました)。
その場合、後任は誰になるのか。可能性としては、小池東京都知事と石破元幹事長の2人の名があがっています。石破氏は派閥代表を辞し、過去の人のようになってしまいましたが、永田町界隈では「石破氏しかいない」との声が広がっています。
小池都知事のコロナ対応には批判も聞かれますが、反菅総理の位置づけで、米国からも受け入れられやすいとの評価があります。欧米ではすでに多くの女性指導者が出ている中で、日本でも女性総理への壁は低くなっています。
それでも永田町の声からすると、「石破政権」となる可能性がやや高いと見られます。
その場合、日銀総裁も交代し、アベノミクスの修正が連想され、日銀の異次元緩和の見直し機運が広がると、株バブルが弾けるリスクが高まります。
中国、朝鮮半島との緊張も高まり、中国関連ビジネスには厳しい環境となります。日本の軍備拡大も進みそうで財政はさらに悪化します。悪政清算の代償は決して小さくありません。
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本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2020年12月26日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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