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遺言書・財産目録の預金口座を「生前に解約」してトラブルに。争族を避ける心得=池邉和美

遺言書は元気なうちに作成しておくことが必要です。さて、早めに遺言書を作った場合には、当然、その後に財産の変動があり得ます。例えば、遺言書に書いた預金口座を解約したらどうなるのでしょうか。(『こころをつなぐ、相続のハナシ』池邉和美)

プロフィール:池邉和美(いけべ かずみ)
1986年愛知県稲沢市生まれ。行政書士、なごみ行政書士事務所所長。大学では心理学を学び、在学中に行政書士、ファイナンシャルプランナー、個人情報保護士等の資格を取得。名古屋市内のコンサルファームに入社し、相続手続の綜合コンサルに従事。その後事業承継コンサルタント・経営計画策定サポートの部署を経て、2014年愛知県一宮市にてなごみ行政書士事務所を開業。

遺言書作りは元気なうちに

遺言書は、何も死期の迫った方だけがつくるものではありません。

むしろ、相続開始後に、遺言書の内容が気に入らない人から「その時はもうボケていたから無効だ!」と主張されてしまわないためにも、まだまだお元気でお若いときにこそ作っておいていただきたいものです。

さて、早めに遺言書を作った場合には、当然、その後に財産の変動があり得ます。

では、例えば遺言書に書いた預金口座を、解約したらどうなるのでしょうか。

遺言書に記載した預金口座を解約したらどうなる?

まず、大前提として、遺言書に書いたからといって、その後、預金口座が解約できなくなるわけではありません。

遺言書の効力が生じるのは相続開始時であり、遺言書を作った時点では、法律上、まだ何の約束が生じたわけでもないためです。

では、実際に解約したらどうなるのでしょうか。

結論を言えば、すでに無い預金口座のことが遺言書に書いてあっても、その口座のことだけを無視して、それ以外の財産については遺言書通りに手続きがなされるのが原則です。

例えば、「全財産を、私の長男に包括して相続させる」と書いてあった場合や、「下記を含む預貯金すべてを遺言執行者が解約換金し、残額を長男に10分の3、長女に10分の7の割合でそれぞれ相続させる」と書いてあった場合を想像してみてください。

これらの場合には、1つの口座が解約されても、財産の配分に何ら影響はありません。そのため、特に問題になる可能性は低いと思われます。

ただし、相続開始後に、その口座が本当に無いのか調べる手間はかかってしまいますので、解約済の通帳は捨てずに保管するなど、解約をしたことが残されたご家族がはっきりとわかるようにしておいていただくと良いでしょう。

Next: トラブルの元になることも?遺言書の内容に疑義が生じる



相続トラブルの元になる可能性も

一方で、口座の解約により、遺言書の内容に疑義が生じてしまう場合もあります。

例えば、元々、「A銀行の預金は長男に相続させる。B銀行の預金は長女に相続させる」とあり、各銀行口座に同額程度の預金が入っていた場合に、その後、A銀行の口座のみを解約して、解約金を全額B銀行に預金した場合などです。

この場合でも、原則としては解約していないB銀行の預金口座につき、長女が相続することになります。

しかし、結果的に長男は預貯金を一切相続できないことになりますから、これに納得できない長男側から、疑義を呈される可能性も否定できません。

仮に、遺言書作成時から特に大きな状況の変化(長男と大喧嘩をして疎遠になったり、長女がお金に困って多く財産を渡す必要が生じた等)があるのであればともかく、特にこういった事情がないのであれば、元々A銀行に入っていた程度の預金は長男に相続させる趣旨なのではないか、ということです。

結果的に訴訟に発展した場合、結果はケースバイケースなので一概に言えるものではありません。しかし、こういった争いになること自体が、遺言者さんの望んだところではないでしょう。

このようなこともありますので、遺言書作成後に預金口座を解約する際は、解約による遺言書への影響を検討していただく必要があります。

必要に応じて遺言書の「書き直し」を

そのうえで、解約により遺言書をストレートに読んだ結果が自身の思う結果とずれてしまうのであれば、遺言書を書き直すことを検討すべきでしょう。例えば、前述のケースの記載例で、A銀行の口座解約は長男の取り分を減らすためではなかった場合などです。

一方で、実際に長男の取り分を減らす趣旨で口座を解約した場合には、原則としては遺言書を書き直する必要はないでしょうが、その理由を別紙に書いておくなどして、万が一のために長女に渡しておくと良いでしょう。

例えば、「遺言書作成後、長男は頻繁に私にお金を無心するので、長男には預貯金は一切渡したくないと思い、令和3年1月13日にA銀行の預金を解約しました」などです。

また、これにより遺留分の問題が生じる場合には、やはり遺言書の全体を見直すことも検討すべきでしょう。

遺言書作成後の事情の変化による問題は、当初の遺言書の書き方を工夫することで、ある程度予防することが可能です。

問題の無い遺言書を作成するため、ぜひ、専門家に相談されながら作成されることをお勧めします。

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image by:Prostock-studio / Shutterstock.com

こころをつなぐ、相続のハナシ』(2021年1月13日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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