自動車各社が自動車の減産を迫られています。その原因は半導体不足で、世界中で供給が需要に追いつかない状況です。半導体は果たして今後も需要が増え続けてスーパーサイクルに入るのか、またそのサイクルに乗れるような有望銘柄はあるのかについて解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
DX、5G、AI…半導体が足りない!
自動車業界で減産を発表した企業は、私が確認できただけでも多くの数があります。
日本企業で言えばスバル、ホンダ、トヨタ、日産。海外企業ではフォード、フォルクスワーゲン、フィアット・クライスラー。これらが減産を発表しています。
いずれもその原因に挙げているのが、「半導体の不足」ということです。
半導体というと、世の中のあらゆる電子機器に搭載されているものです。例えば我々が普段使うスマートフォンはもちろん、パソコンにも使われていますし、簡単なところで言えば電卓にも搭載されています。当然、自動車も様々な電子機器を使っていますから半導体が搭載されています。
この半導体が調達できないということになると、当然、自動車が完成しないので、やむなく減産を迫られるという状況に陥っています。
なぜ今のような状況に陥ってしまったのか。その原因として新型コロナウイルスは切り離せません。具体的に見ていきましょう。
ロックダウンでの発注停止が今になって響いてきた
こちらの時系列ですが、2020年3月から5月にかけて、世界各国ではロックダウン(すなわち外出制限など)が行われました。これによって自動車のディーラーなんかも営業できなかったりしますから、車が売れないということになります。
売れない車を作ってもしょうがないので、自動車会社は半導体製造会社に対して「今は作らなくていいよ」というようなことを言います。
では、半導体製造会社としては何をしたのかというと、自動車からの受注は止まってしまいましたが、一方でこの新型コロナウイルスによって在宅勤務などで自宅でいる期間が長くなった、あるいはDX(デジタルトランスフォーメーション)によって、パソコンはもちろんサーバなどの需要も高まってきました。さらに自宅にいるということになるとゲームをする人も増えるので、ゲームの需要も高まってきた。
そんな中で、この自動車からパソコンやゲームとかそういった物にラインを振り替えて製造したわけです。それで、半導体製造会社としてはまったく困ることはありませんでした。
逆に困ったのが、いったん受注をストップした自動車会社の方です。
この半導体の製造というと、リードタイムすなわち発注してから納品されるまで、一般的に6ヶ月から8ヶ月かかると言われています。
したがって、ここでいったん止めてしまったら、新たに発注しても6ヶ月から8か月の時間がかかるということになります。
自動車会社としては新型コロナによって今後は自動車が売れなくなるということも警戒したのでしょうけれども、思いのほか自動車の需要というのは回復してきて、足元でも前年とあまり変わらないくらい好調に推移しています。
そんな中で慌ててこの半導体の調達を急いだのですが、いかんせん6ヶ月から8ヶ月かかりますから、この3月から5月にかけてストップしたものは今2021年の1月ですけれども、これがもはや間に合わなくて、自動車を作れていないということになります。
したがって、これが回復するのがおそらく3月頃だと言われています。
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半導体は引く手あまた
しかし、本当に3月に回復するかどうかというのも疑問です。
半導体製造会社としてはラインを違う製品に振り分けているので、そもそも空きがないといったことも考えられます。
自動車会社としてある程度高いお金を払ってでも、この半導体を調達しなければ生産が追いつかないというような状況になってしまいました。
ここでわかることは、この半導体というのが世界中で足りていないということです。これは自動車業界に限った話ではないということになります。
というのも、最終的な製品は違うにしろ、大部分は共通のラインで作っているということになります。その共通のラインの方がいっぱいいっぱいになってしまったということは、今後は自動車に限らず、あらゆるところで半導体が足りなくなり、需要がどんどん増えていくということが考えられます。
その裏付けとなっているのが、今きているようなデジタルトランスフォーメーションという流れもそうですし、5G、AIといった様々な情報を処理する技術が発達するにつれて、情報を処理するために絶対に必要な「半導体のニーズ」です。これは長期的に見ても、ますます増えていくということが考えられます。
半導体業界は「スーパーサイクル」に入る?
自動車の需要は新型コロナの影響で一時的に減ったのですが、その後は回復していますし、パソコンやゲームなんかも順調に伸びています。
さらにはこの技術革新によって5GやAIといった需要が増えていくと、今後も半導体の需要自体がものすごく増えていく「スーパーサイクル」と言われる現象が起きるのではないかと言われています。
なぜわざわざ「スーパー」というような言葉を付けてまで説明するのかというと、半導体事業の特性があります。半導体というと実は日進月歩でどんどん新しくなっています。そのため、半導体製造会社というのは最先端の物を作ろうとして投資を行うわけですが、ものすごくお金がかかります。
したがって、投資したからにはなるべく回収したいので、どんどん各社がたくさん作ります。そして、たくさん作りすぎると、経済の行きつく末で最終的に商品の価格というのが下落してしまいますので、やがて作った分が回収できなくなるということになります。
こうやって盛り上がりと価格の下落による赤字を繰り返すのが、半導体における「シリコンサイクル」と呼ばれるものです。
このように非常に難しい業界だったのですが、今これだけ半導体が足りないということになると、需要の方が常に供給を上回り続けるわけなので、上がったり下がったりのシリコンサイクルではなくて、それを超越した「ひたすら需要が伸び続ける」というスーパーサイクルに入るのではないかということが考えられます。
その証拠となるのが、台湾のTSMCという半導体製造会社の決算発表です。
※参考:台湾TSMC、今期投資2兆9千億円 半導体需要急増 – 日本経済新聞(2021年1月14日配信)
ここで発表されたのが、今期2.9兆円を投資するということです。理由としては、まさに半導体の需要が急増したということが挙げられます。
先ほど説明したように半導体製造会社では、投資と価格下落によって減損というシリコンサイクルを繰り返してきたので、下手にたくさん投資してしまうと、その投資した分が無駄になってしまって、それが損失になってしまうということがこれまでありました。そのため、投資に関しては慎重というのが基本スタンスだと思います。
そんな中で2.9兆円という去年の60%増もの投資ということになります。TSMCというと世界最大の半導体製造受託会社ですが、この会社がこれだけの規模の投資をするということは、よほどこれからの半導体市場の見通しに明るい兆しを見ているということになります。
Next: 日本の半導体会社もかなり強気。有望銘柄は?
東京エレクトロン社長の見方
同じようなことを発言しているのが、東京エレクトロンの社長です。
「来年から再来年はビッグイヤーズになる」という風に発言していて、この来年というのが2021年、再来年が2022年です。
※参考:(決算トーク)「来年から再来年はビッグイヤーズ」- 日本経済新聞(2021年1月7日配信)
半導体の製造に関わる各社というのがもはや目先の状況からして、これからの需要をかなり強く見込んでいるということが見られます。
有望な半導体関連銘柄は?
では、その中で有望銘柄はどれか?ということになります。
もちろん半導体メーカーが挙げられ、1位インテル、2位サムスン、3位に先程説明したTSMC、4位韓国のSKハイニックス、5位アメリカのマイクロンといったところが並んでいます。
各社それぞれ、得意分野は分かれています。インテルで言うと、パソコンとサーバー。サムスンで言うと、メモリとスマートフォン。それからSKハイニックスはメモリ、マイクロンもメモリ、そして6位に入っているクアルコムは通信設備なんかだったりします。
このように得意分野が分かれていて、その分野が伸びる時は非常に業績も大きく伸びるのですが、そうでなかった場合というのは必ずしも半導体市場全体のスーパーサイクルの恩恵を受けられない可能性があるわけです。
それに対して、半導体製造受託会社であるTSMCは、あらゆる半導体の製造を請け負っているので、ここだったらスーパーサイクルのすべての需要を取り込むことができます。
半導体業界における日本企業の強みとは?
また半導体製造会社に対して、製造装置や材料といった物を納入している会社もあります。そういった企業は、基本的には半導体の製造装置・部品・材料というのは共通しているので、どこの商品が伸びたとしても好影響を受けられます。
この半導体製造装置や材料といったところは、日本企業は非常に強みを持っているところです。
具体的に挙げますと、半導体製造装置の世界ランキングなんですが、1位アメリカのアプライドマテリアルズ、2位がオランダのASML、そして3位に入ってくるのが東京エレクトロン。そして、さらには日本企業で言うとアドバンテストとかスクリーンといったところが、半導体製造装置の会社になってきます。
先ほど説明したようにTSMCやサムスンといったところに半導体を作る装置というのを納入しています。
TSMCが2.9兆円に投資すると言いましたが、これらの会社の商品というのは間違いなくTSMCに売るということになるので、これらの会社の売り上げが伸びるということは確定的です。
さらにこの部品・材料というところでいうとシリコンウエハに関しては、信越化学工業やSUMCOの2社で世界市場の半分を占めるということになります。
半導体フォトレジスト、これに関しては日本企業がほぼ独占しています。
それからダイシングソーに関しても、日本企業のシェア100%といわれていますが、ディスコや東京精密といった企業が上がってきます。
このように本当に半導体のスーパーサイクルが来るのだとしたら、半導体製造に関わる会社というのは非常に有望ということになりまして、日本の株式市場や経済にも大きな好影響を与える可能性があるという風に見えるわけです。
したがって、日本のメーカーというのもまだまだ捨てたものではない、むしろこれから成長産業として波に乗っていける可能性が十分にあるという風に思います。
Next: すでに株価は成長を織り込み済み? 個人投資家が今やるべきことは
株価が下がったときが仕込み時
もっとも株価に関しては大きく上昇していまして、これが過去5年のPERの推移ですが、半導体製造の東京エレクトロン、アドバンテスト、スクリーンといずれもPERでこれまで各5年の中で最も高いぐらいの水準になっています。したがって、投資としては業績の拡大を株価が織り込んでいるというところだと思います。
私の投資スタンスも知っている方だったらわかると思いますが、今は無理に投資する場面では必ずしもないと思います。しかし、これが何らかの要因によって株価が下がるというようなことがあれば、本当に長期的に強みを持つ、長期的に成長し続けるような企業を買っておきたいなと思います。
そして、一度買ったからにはずっとその会社の成長を見続けるというのが私の投資スタンスということになります。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年1月18日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。