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河野大臣の「利益相反」発言で株価急落、M&A仲介企業は逆張り買い好機か否か=栫井駿介

日本M&Aセンターを始め、M&Aの仲介を行う会社の株価が下がっています。これらの会社はこれまで絶好調で株価も上昇してきましたが、ここに来て河野行政改革担当大臣の発言があって、株価が大きく下落してしまっています。果たしてこの株価下落は逆張りの好機となるのか?今後の展望について解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

拡大するМ&A市場「利益相反」問題とは?

日本M&Aセンターの株価は、この年末年始をピークに7,000円ぐらいあったところが、1月19日時点で17%下落しました。その間、市場は好調でしたから、個別の要因があったということが考えられます。

日本M&Aセンター<2127> 日足(SBI証券提供)

その要因というのが、河野行政改革担当大臣の発言です。
※参考:M&A仲介企業の株価下落、手数料両取りに「利益相反」問題の指摘 – Bloomberg(2021年1月12日配信)

河野行政改革担当大臣は菅政権の懐刀とも言われているのですが、歯に衣着せぬ発言で有名です。その人がM&Aを仲介する会社が両手取引を行っていて、これがその企業を売ったり買ったりする人たちにとって利益相反になっているという風に指摘をしています。

両手取引と言いますと、ざっくり言うと売り手企業と買い手企業両方共のアドバイザーになって、双方から手数料をもらうという形になっています。

しかし、アドバイザーという立ち位置の上では、これは必ずしも売り手や買い手の為になっていないのではないかということで、中小企業庁が全国の後継者不足に悩む中小企業に、このM&Aのやり方に注意を促しています。

では、そもそもこのM&Aとは何なのか、またこの日本M&Aセンターと何なのかということについて考えてみたいと思います。

企業合併・買収は増加傾向に

近頃になってよく聞かれるようになった用語ですけれども、このM&Aは日本語でいうところの合併・買収ということです。すなわちある企業がある企業の主に株式を買って、買われた企業の会社の経営主体が変わるというものです。

大きな企業ではニュースになるのですが、これが中小企業でも活発に行われています。

その最大の理由が「後継者不足」ということになります。団塊の世代なんかが小さい企業を作ってどんどんは大きくしてきて、事業を続けてきましたが、やがてはそこの創業社長が年老いて、そろそろ誰かに事業を譲らなければならないという局面がやってきます。

しかし自分に子供がいなかったり、あるいは子供にがいたとしても継ぐ気がなかったり、あるいはこの継がせるような楽な仕事ではないから継がせたくないという人も少なくないと言われています。企業としてはずっとやっていて取引先や従業員もいますから、いきなりやめるわけにもいきません。

そこで活躍するのが、その会社を引き継ぐ別の会社に売ってしまって、その別の会社が引き継ぐというやり方です。

これをすれば別の会社を経営しているという実績がありますから、買われる企業にとっても経験があるところに任せるということなので安心ができますし、買う方の企業にとっても同じ事業をやっているのなら事業拡大ということになります。少し周辺の事業を行っているということになれば、ますます事業領域を拡大、さらにはシナジー効果ということもあって、今後の事業を成長させる上に必要な1つのパーツという風になっていきます。

これを受けましてこのM&Aの市場というのは拡大してきまして、あまり表に出る指標ではないのですが、このM&A仲介を手掛ける上位3社の件数を見ますと、ここのところ右肩上がりになっています。

その中でもこの日本M&Aセンターというのは1991年に設立された、中小企業のM&A仲介としては老舗の部類になります。

Next: 日本M&Aセンターの営利は40%超。河野大臣発言の影響度は?



市場と一緒に成長する日本M&Aセンター

市場がこのように拡大しているので、当然、そこで最大のシェアを占めるこの日本M&Aセンターの業績というのもどんどん拡大しています。

売り上げがぐんぐん伸びて、そして利益もそれに連動するような形で伸びていきます。当然と言えば当然で、M&A仲介は何も設備がいりません。とにかくその人間がその間に立ってM&Aという案件を成立させることを目的とした会社なのです。

したがって営業利益率は40%を超える高い数字となっていますし、市場が拡大するにつれてますます業績が伸びていく、利益も伸びていくということが考えられます。

さらに言えばここで業界最大手になるということは、売り手の情報も買い手の情報もどんどん同じ会社に集まってくるということになります。

私も大企業にM&Aをやるような会社に勤めていたのでよくわかるのですが、情報がすべてなのです。特にこの売り手の情報というのはものすごく強い情報で、買いたい企業はたくさんいます。

しっかりとした売り物を持っている企業の情報があれば、それだけで仲介会社になることができて、そして、いわば濡れ手に粟の形で、どんどん業績を伸ばしていくことができるわけです。

そんなことから業績の拡大というのは市場の拡大に伴う業績の拡大ということで、株価も見事に上昇していて、この5年で見ましてもおよそ4~5倍というところにまで伸びてきています。

しかし今回、河野大臣が指摘したのはこの仲介という仕組みに問題があるのではないかということです。どういうことか具体的に説明します。

「手数料両取り」とは?

M&Aには当然、売り手と買い手がいて、日本M&Aセンターはその間に入る立場になります。

売り手で、後継者がいないので自分の会社を売りたいという風に考えている場合、このようなところに相談します。その時点で100万円から300万円の着手金を支払うことになります。

これを受けて、日本M&Aセンターは買ってくれる会社はないかということを探します。前述の通り、買ってくれる会社の方が多いという風になるのですが、買い手側も「こんな会社が買いたい」というような相談をします。この買い手からの着手金に関しても100万円から500万円をもらうという風にされています。

そして最終的に話がまとまった暁には、成功報酬として、両方から資産規模に比例した成功報酬をもらうことになります。

したがって日本語M&Aセンターは、この両方から着手金、さらには成功報酬をもらうことになります。成功報酬というのもまた大きくて、M&Aというのは1億や2億とか億単位の話ですから、例えば成功報酬5%ということになると、10億円の取引があったとしたら10億円の5%で5,000万円という、まさに「濡れ手に粟」のビジネスということにもなります。

河野大臣が指摘した「利益相反」

そんな中で利益相反の話です。

売り手に関しては当然、高く売りたいわけです。一方で、買い手に関しては少しでも安く買いたいわけです。

この間に入る日本M&Aセンターもできれば高く売りたいのですが、とにかく成立させることで成功報酬が入るので、成立させることが最優先になってしまいます。

したがって、売り手にとってはもっと高く売れたはずなのに、成立を急いで高く売れなかったという状況があるかも知れません。買い手にとっても、売られた会社の中身をもっと調べたかったのに、とにかく成立を急いだせいで納得のいかない買い物をさせられる可能性というのもあるわけです。

このようにM&Aというのは様々な利益相反だったり、問題点をはらんでいます。

Next: 規制はこれから? 生まれたばかりのM&A市場は問題山積



M&A市場は問題山積

実際に中小企業庁がまとめているM&Aに関して苦労した事例ということでは、売り手の方では自社の正当な価値がわからないままプロセスが進んでしまったとか、正式な譲渡価格が大幅な減額をされてしまった……ということが紹介されています。買い手の側でも、M&A後に交渉の過程では明らかにならなかった設備の買い替えが必要になったなど、不満の声も聞かれています。

例えばこれが裁判だったら、当然、この被告側と原告側両方に弁護士がついて、それぞれの主張をぶつけ合います。しかし、間に立っている人がひとり(1社)だと、そういうこともできなかったりします。

同じような問題が不動産取引でも起こることがあるのですが、不動産会社は非常にたくさんあるので、気を付けていればそうならないようなところを選べます。この中小企業のM&Aというところに関しては、まだまだ生まれたばかりの市場ですし、ブラックボックスになっている部分が非常に大きいわけです。

さらには、このM&Aというのは国が規制しているものではありません。これはM&A仲介会社が自由にやっていることですから、報酬というのも決めることができますし、両手取引というのもなんら制限する法律はないということになります。

日本M&Aセンターは対策済み?

そんな中でこれから想定されるこの中小企業のM&Aという動きに対して、中小企業は問題体を解決していかないといけないということで、今回の河野さんの発言に繋がったのだと思われます。

しかしこれに対して日本M&Aセンターもただ黙って言われているわけではなくて、対策は打っているということを言っています。

というのも日本M&Aセンターの仕組みで、同じ会社の中に売り手の担当者と買い手の担当者がそれぞれ付いているそうです。

そして売り物があったとしたらAの会社が売りに出るということになると、それもM&Aセンターの中で買い手を募集します。

すると色んな担当者が居ますから、この担当者がそれぞれ自分の顧客企業を連れてきて、ではこのBの会社が1億円で買う、Cの会社が2億で買う、Dの会社が3億で買うという形になると、最終的に社内コンペを行って、一番高い・一番優良な提案に対して、この売り手の企業は最終的に売るということになります。このケースでは3億円で売れるということになるので、少なくとも安く売ってしまうというような事態が避けられるという風に言っています。

実はこの社内コンペというところがミソで、それぞれの担当者の報酬というのはM&Aが成立するかどうかで非常に大きく変わってくるという風にされています。

3億円という提示をした人だけが、自分の給料を上げることができます。したがって、この担当者たちは真剣に考えて金額を提示することになりますし、さらには売り手の情報も買い手の情報も集めてこなければならないので、ますます営業担当者ががんばって自分の顧客企業のために働く、インセンティブが働くという風に言われています。

彼らはそうやって、報酬に対して強いインセンティブを持っています。

その結果の平均年収というのも、日本M&Aセンターで1,300万円、M&Aキャピタルパートナーズで2,200万円、ストライクで1,357万円という、かなり高い報酬を得ている人達ということになります。

実は私も経営者の人にお話を聞いたことがありまして、この経営者の方は日本M&Aセンターにお願いして何社か会社を売却したことがあるということなのですけれども、日本M&Aセンターに関してはとにかく別格とのことでした。なぜなら、この日本M&Aセンターにはこの買い手の情報がものすごくたくさんあって、そこに対する担当者というのも優秀だという風に言っています。

だからこそ、業界最大の企業である日本M&Aセンターにはいろんな情報が集まりますから、案件も多く出てきやすいですし、担当者間の競争も働きやすいということになります。

それもあって市場が伸びているというのもあり、当然、その中で日本M&Aセンターも伸びているということになります。

Next: 両手取引は規制されるか。日本M&Aセンターの買い時を読む



両手取引は規制されるか

さて、話を戻すと「利益相反」というのが今後はどうなるのかということに考えます。

これはあくまで私の想定ですが、M&A仲介を規制する法律というのはなかなかありませんし、また今、新型コロナでものすごく忙しい中で、このための法律を新たに作るという動きにはなかなかなりにくいのではないかと思います。

さらに言えば、多くの国民にとってこの企業のM&Aというところに対する関心はほとんどないでしょうから、あえてわざわざいま、法律を作るようなことは非常に考えにくいと思います。

もし仮に両手取引が禁止されたとしたら、当然、受け取れる手数料は半分になってしまいますから、厳しいということになるでしょう。しかし、すぐにそのような状況になる可能性は極めて低いのではないかと思います。

さらに言えば、一般の消費者がこうやって何か損失を被る可能性があるものであれば、国もすぐに動くということになるのですが、そこで立ち会っているのは経営者ですから、経営者というと一定の判断ができる人とされています。

そんな中で自由契約であるM&A仲介に口を挟むというのは、資本主義社会の国としてもあまり望ましくない姿なのではないかとい思います。

株価下落でもまだ高い

さて、問題は株価です。今は「逆張り」のタイミングなのかということについてです。

長期で見ると、やはり大きく伸びてきて今も高い水準にあります。直近で17パーセント下がったと冒頭で書きましたけれども、5年で見るとほんのわずかな下落に過ぎません。

日本M&Aセンター<2127> 週足(SBI証券提供)

PERを見ると89倍と、かなり高い数字が出てきます。過去の推移で見てもこの日本M&Aセンターは50倍前後というのが平均的には水準だったのですが、新型コロナ禍で株価はむしろ上昇して、一旦100倍を超えて、それが80倍になったというところです。

割安かどうかという観点で言えば「まだ割安ではない」と考えます。もちろん今後コロナでさらに後継者不足とか事業を譲渡するというような動きが進んでくるでしょうから、業績の成長は十分に見込まれると思います。それでも例えば、今のPER80倍から、業績が倍になったとしてもPERが40倍ということになりますから、それでやっと過去の平均のPERぐらい。ですから、あまり旨味のある状況では必ずしもないと考えます。

他の会社に関しても同様です。これがPER50倍ぐらいで株価にして3,500円ぐらいになったら、かなり美味しい水準なのではないかと思いますが、市場の拡大と両手取引の規制が無いという前提の話なので、まだまだそういう意味では逆張りするタイミングではないのではないかと思います。

これからますます株価が下がって3,000円と4,000円とか、それぐらいの水準になってきたら、いよいよ長期投資家として検討できるタイミングになるのではないかと思います。

良い会社であること、さらには市場の拡大が続いていることは間違いありませんから、そういった観点でこの会社と今後を見ていきたいと思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)

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image by:Mongkolchon Akesin / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年1月27日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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