マネーボイス メニュー

迫られる「米国か中国か」の選択。どっちつかずで沈む日本、覚悟を決めて成長するインド=原彰宏

日本では重要な海外情勢がほとんど報じられません。先日の米中外交トップ会談では、米中対立がより鮮明になりました。日本は「米国か中国か」の選択を迫られています。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

【関連】NHK受信料削減の切り札「Eテレ売却」にTV各局が反対するワケ。田中角栄と電波利権の闇=原彰宏

※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年3月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

世界情勢に疎い日本人

3月19日、米中外交トップ会談の2日間の日程が終了しました。今の世界ツートップ会談の結果は世界が注目するところですが、日本ではあまり報じられていませんね。

日本では国内情勢は報道されますが、海外情報はなかなか報じられないようです。コロナでそれどころじゃないのでしょうか。

中東事情、アジア諸国、そして世界的会議内容など重要なニュースはたくさんありますが、日本はどうも内向きで、世界情勢には“疎い”と言えそうです。

日本国民が世界情勢に興味がないのか。それとも、あえて国民を鎖国状態にしているのか。

たとえばスイスで行われるダボス会議(世界経済フォーラム)の内容もほとんど報じられないですし、ASEAN会議の内容も詳しくは伝えられません。G7の主要国首脳会議は一種のイベントのように伝えられますが、G20主要20ヶ国・地域の会議の報道は扱いが軽いようです。

海外のスポーツも、日本人選手が活躍するものは報道でも扱われますが、その競技で日本人が活躍できなければ、誰が優勝したかは報じられません。日本人選手が決勝に残らなければ、決勝戦も報じられません。オリンピックで、やたら金メダルを強要するのも、日本人の特徴かもしれませんね。

情報面でも心理面でも、未だ日本は「鎖国状態」だと感じます。

インドの影響力が増してきた

米中外交会談は、バイデン米大統領就任後の初の対中交渉の場です。米国側はブリケン国務長官、
中国は楊潔篪(よう けつち)政治局員が出席しました。

米中協議が世界的に注目されるのは、かつての米ソ冷戦の様相にも似た「新冷戦」となっているからです。

今世界では、安全保障の観点からも大きな対立構造があります。

米・豪・日・印「QUAD(クアッド)」 vs. 中・露

この「QUAD(クアッド)」に、英国も参加の意思を表明しています。

確認ですが、インドの存在感が増しており、太平洋地域を「インド太平洋」と表記します。暖流の流れから生物地理学的に「インド太平洋」と、海洋を1つにまとめるだけでなく、外交戦略上、QUAD(クアッド)のような日米豪印戦略対話と称されるように、インドのプレゼンスが大きく増してきたことが伺えます。

もうインドは、無視できない存在になっているということです。

近い将来、中国がGDPはで米国を抜いて世界1位になると言われていますが、大手米銀レポートによれば、インドの名目国内総生産(GDP)は、2028年までに、日本を抜いて世界3位になるとの予想も出されています。

中国とインドは、実際に国境付近で衝突は繰り返されていますし、新型コロナウイルスでのワクチン外交でも、インドは中国をかなり意識しています。

日本では、安倍前総理が、2016年8月のケニアで行われたアフリカ開発会議(TICAD)で打ち出した外交戦略「自由で開かれたインド太平洋戦略(FOIP:Free and OpenIndo- Pacific Strategy)」を提唱しました。“自由で開かれた”というところが“ミソ”です。

「QUAD」に関しては対中包囲網の様相が強いですが、日本側の立場としては、中国を牽制するイメージを和らげたいという意図があるようでもあります。

Next: 米国か、中国か。日本は双方から選択を迫られている



米国か、中国か。日本は双方から選択を迫られている

外交問題のポイントは、米国と中国が「新冷戦」として対立する中で、インドが明確に中国と対峙する姿勢を表明したことで、アジア諸国とりわけ日本に対しても「米国か中国か、どちらかを選べ」と迫っていることにあります。

もちろん表立って踏み絵を求めているわけではないですが、その背景には、常に「米中選択」を迫られていることを理解しておくべきです。

政治では親米でも、経済では中国抜きでは語ることはできません。

それはアジア諸国も同じで、一帯一路で中国経済包囲網に取り込まれたアジアや、借金外交で中国に抑え込まれたアフリカなどの既成事実からして、もはや中国には逆らえないという風潮ができ上がろうとしています。

次世代インフラもそうですし、デジタル通貨競争、金融の側面でもそうですし、そしてワクチン競争でもそうですが、もはや中国の世界制覇は着々と進められていると言えそうです。

そういった中で、世界第3位の経済大国日本は、今後、事あるごとに米国か中国かの選択を迫られるようになってくると思われます。

安全保障上でも日本の立ち位置は危うい

「QUAD」に関しても、日本の立場は微妙です。

QUADの意味は「4つ」で、安全保障上では「4ヶ国」。それは日本、アメリカ、オーストラリア、インドの4ヶ国による「日米豪印戦略対話」を意味します。

日本は「QUAD」と前述の「FOIP」をどう使い分けるかが問われます。

このQUADにイギリスが参加することを、ジョンソン首相は表明しています。中国の人権問題が、米中対立におけるテーマとなっています。それはウイグル地区や台湾や香港に関わるもので、香港並びにインドは、かつての大英帝国を彷彿させますからね。香港に対する中国の態度は、イギリスとしても看過できないというものでしょう。それより、EU離脱後の英国の存在感を求めているのかもしれませんね。

欧州は、米国とは別路線を歩むことは決めていますが、ドイツは中国との貿易が活発で、自動車産業においては、中国抜きでは存続できない状況でもあります。また天然ガスは、ドイツはロシアからパイプラインで供給してもらっています。

欧州と中国、欧州とロシアの関係も、今後の世界情勢を見るうえでは、すごく重要になってきます。

中国は、かつての中華思想そのままに、世界の中心に君臨することを狙っていて、ロシアのプーチン大統領は、ロシア帝国の復活を目論んでいると言われています。

日本は地位協定を含め、戦後一貫して「親米路線」を貫いてきています。日本国内での構造改革においても、かつてあった「年次改革要望書」の指示通りに郵政を民営化し確定拠出年金制度を導入しました。いまは、安全保障面で「アーミテージ・ナイ報告書」に従って行動しています。「年次改革要望書」は、米国産業界からの日本への構造改革指示書のようなもので、日本はずっと、その指示に忠実に従ってきました。

「アーミテージ・ナイ報告書」は、最新のものは、昨年12月に出された第5次報告書になっていて、QUADのことも触れていますが、尖閣諸島に関して、日米安保第5条の適用にも触れています。
※参考:【アメリカ】第5次アーミテージ・ナイ報告書 – 国立国会図書館

世界における日本の立場としては、米国と中国、どちらか一方を選択を迫られることだけは避けたいわけで、日本の本音はまさに「Don’t make us Choose!」だとのことです。

Next: 米中外交トップ会談のテーマは?日本が求められていること



米中外交トップ会談のテーマ

今回の米中外交会談のテーマとして、以下が挙げられています。

・イラン
・北朝鮮
・アフガニスタン
・気候変動
・サイバー

アメリカのブリンケン国務長官は、「イランや北朝鮮、アフガン、気候変動の問題で利害が交わる部分があった」と明らかにしました。

一方で、「ウイグルや香港、チベット、台湾、サイバーなどをめぐり基本的な対立があることはわかっていた」とも述べています。

オースティン国防長官はアフガニスタンを訪問して、アフガニスタンに駐留している米軍撤退を模索し始めたと報じています。

クリントン政権時に、米国は世界の警察である地位を放棄し始めました。

その背景には“米国には世界の面倒をみるお金がない”ということで、それをはっきりと態度で示したのがトランプ前大統領で、米軍中流費用の増額や、戦地における費用負担の見直しを迫っていたわけです。

日本に集団的自衛権を認めさせたのも、戦地に自衛隊が派遣できるようにして、戦地費用を負担させるためではないかとの憶測も飛び交っています。ファイナンス市場である日本に対しては、米国製軍事兵器を、言い値で大量に買わせましたよね。

「米国には戦争するお金はない」。情報通を自称する人たちのセリフですけどね。

あらゆる分野で「米中対立」が起きている

世界情勢は、インフラ、金融、健康、軍事において、すべての分野で「米国グループ vs. 中国グループ」となっていて、分野ごとに欧州は態度を変え、ロシアは中国の勢いを利用し、インドは力をつけて第三極を狙っているのでしょうかね。イギリスはどうでしょう。

ちなみに東南アジア諸国は、現実主義の立場から中国寄りか。アフリカは有無をも言わさずという感じか。

日本としては、絶対にこの戦いの渦の中には入って行きたくはないのでしょうかね。すべて、あくまでも個人的見解です。

世界情勢は、必ずチェックするようにしてくださいね。

米中の影響から逃れられない日本社会

前述の「年次改革要望書」と「アーミテージ・ナイ報告書」の存在は、今の日本社会を考えるうえで非常に重要なキーワードです。沖縄辺野古基地や、尖閣諸島にも関わるものです。

年次改革要望書で日本に導入されたものでは、

・「ツーバイフォー」住宅
・郵政民営化
・確定拠出年金制度

さらに言われているのは、

・持株会社解禁(独占禁止法改正)
・大店法改正
・労働者派遣法改正
・法科大学院設置、司法試験制度変更

などがあります。日本道路公団民営化も要望されていましたね。ぜひ、皆さんでもお調べになってみてください。

Next: 「日米豪印(QUAD)vs. 中露」の行き着く先は?



対中包囲網が着々とできあがっていく

改めて、現在の世界情勢を整理しましょう。

「日米豪印(QUAD)vs. 中露」となっていて、これに英国がQUAD側につくという構図です。

さらに現時点では、EUはニュートラル。日本は、表向きは親米ながら、経済の実質は中国ナシでは成り立たないという感じです。東南アジアは、本音を隠して親中路線。アフリカ大陸には選択の余地なく親中国。

GDP規模ではQUAD有利にも見えますが、東南アジアの成長で中露連合の方が大きくなるでしょう。参加国数では、断然、中露連合のほうが多いですね。

安全保障やサイバー上での共闘として「ファイブアイズ(Five Eyes)」というのもあります。米英などアングロサクソン系の英語圏5カ国によるUKUSA協定に基づく機密情報共有の枠組みの呼称で、米英が立ち上げ、1950年代までにカナダ、オーストラリア、ニュージーランドが加わりました。米国以外は英連邦の構成国です。米国を中心に「エシュロン」と呼ぶ通信傍受網で電話やメールなどの情報を収集・分析しているとされています。参加国の情報機関は相互に傍受施設を共同活用します。長らく公式に存在を認めていなかったものが、2010年の関連文書の公開で活動の一端が明らかになりました。

そして、日本、ドイツ、フランスの3カ国と連携して、中国などのサイバー攻撃に関する情報共有の新たな枠組みを作るようになりました。日本が政府調達から中国企業の通信機器を事実上締め出す方針もこれを受けたもので、今後はインターネット上で大量のデータを管理する「クラウドサービス」についても、政府への納入業者を対象にした厳しい安全基準を策定する方針となっています。

すべては対中国に対する包囲網となっていて、あからさまに中国を敵視したものになっています。

米中外相会談では、その対立がかなり全面に出ていて、実務面に加えて人権問題も加味され、どちらも立場を譲らない姿勢がはっきりと出されていました。

「アメリカの内政干渉に反対」手を結ぶ中国とロシア

この流れの中で、中国がロシアと外相会談を行いました。

中国とロシアは、アメリカの内政干渉に反対の立場で、対米国姿勢で連携を強めることを確認したのです。

中国側は王毅(ワン・イー)国務委員兼外相、ロシア側はセルゲイ・ラブロフ外相。場所は中国広西チワン族自治区桂林と、まさに外交におけるトップ同士の会談です。

「アメリカは内政干渉と『小さいサークル』の形成をやめるべき」という意見の一致を見ています。この「小さいサークル」「小グループの形成」という表現が意味深ですね。

今年は中露善隣友好協力条約の締結から20年にあたるようです。中露はバイデン政権の発足で、これまで以上に関係を強化する必要に迫られていると報じています。

中国は、米中会談で新疆ウイグル自治区少数民族弾圧を米国から指摘されていますし、ロシアは自国大統領を「人殺し」呼ばわりされていますからね。

「米国グループ vs. 中露連合」という構図は、今後ますます対立の度合いを増してくると思われます。

Next: 日本はいつまで「どっちつかず」を続けられるのか?



日本はいつまで「どっちつかず」を続けられるのか?

欧州やアジア諸国は、自らの立ち位置をどう表明していくのか。項目ごとに手を組むパーシャル連合を模索するのでしょうか。

そんな中で、日本はいつまで「Don’t make us Chose」の姿勢を貫けるのでしょうか。この判断が、今後の日本の政局になるのかどうかも注目したいところです。

・日米同盟の真意
・中国が描く未来予想図

これらを常に頭において、世界地図を眺めることになりそうです。

そして、中国が描く未来予想図を知るうえで重要なのは、全人代で決められた中身です。内需と外需、両方を大きく育てる「総循環経済」を標榜しています。米国が中国をシャットアウトするなら、すべてを自前で作れるようにしようという、実にしたたかなものです。世界No1を目指す「次世代人工知能(AI)発展計画(『AI2030』)」は、2017年にすでに発表されています。

日米同盟に関しては、報道で言われていること以上のことを知る必要があり、それが「アーミテージ・ナイ報告書」であり、ワシントンにおけるシンクタンク情報なのかもしれませんね。

コロナにより、一度リセットされた世界秩序が、新しい局面を迎えるときに、新たな世界地図が示されるのだと思います。

脱炭素エネルギーは、当然中東諸国の動きにも直結します。ゴア副大統領の提言から随分時間が経って、今後は地球規模の「エコ」「地球温暖化対策」「ゼロエミッション」などが、世辞の表舞台に押し上げられてきました。地球温暖化対策の政治利用です。それは、内燃機関で圧倒的有利な地位にいた仁保に対する、いわば「トヨタ包囲網」が、EV車促進にあると思われます。

まさに日本は正念場を迎えてくると思われます。

国内労働者を守るために内燃機関にしがみついていては、本当に日本は沈没しそうな勢いです。長きにわたる対米隷属姿勢は、日本から大事なものが失われてきた年月になっているように思えてならないのですがね。

続きはご購読ください。初月無料です

【関連】若者こそ知るべき日本会議と菅内閣の関係。彼らは自分の敵か味方か?=原彰宏

<初月無料購読ですぐ読める! 3月配信済みバックナンバー>

※2021年3月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2021年3月配信分
  • 「外交における日本の立場、「米国か中国か」の選択(追記)」(3/23)
  • 「外交における日本の立場、迫られる「米国か中国か」の選択」(3/22)
  • 「東日本大震災復興予算の使われ方、復興行政のあり方を検証」(3/15)
  • 「なぜ総務省は接待されるのか。放送免許付与特権と報道の闇」(3/8)
  • 「これで良いのか日本の「ワクチン政策」&ワクチン外交による世界戦略」(3/1)

いますぐ初月無料購読!


※本記事は、らぽーる・マガジン 2021年3月8日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

<こちらも必読! 月単位で購入できるバックナンバー>

※初月無料の定期購読のほか、1ヶ月単位でバックナンバーをご購入いただけます(1ヶ月分:税込330円)。

2021年2月配信分
  • らぽ~る・マガジン 第457号(2021.2.22)「米金利上昇の意味/東京五輪観光客向けアプリ開発費73億円」(2/22)
  • らぽ~る・マガジン 第456号(2021.2.15)「ビットコインが最高値更新」(2/15)
  • らぽ~る・マガジン 第455号(2021.2.8)「森喜朗会長『女性蔑視発言』の波紋/政府コロナ対策に批判」(2/8)
  • らぽ~る・マガジン第454(2021.2.1)NHKを考える「受信料値下げの背景、NHKと政権との関係は」(2/1)

2021年2月のバックナンバーを購入する

【関連】なぜ種苗法改正はひっそり進む?農業も水道も「日本が売られる」=原彰宏

【関連】日本人は本当に生産性が低かった。私たちの年収が世界最速で下がるワケ=吉田繁治

【関連】「彼氏にしたい職業」上位はぜんぶ地雷、玉の輿に乗りたいなら○○な男を選べ=午堂登紀雄

らぽーる・マガジン』(2021年3月8日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

らぽーる・マガジン

[月額330円(税込) 毎週月曜日]
絶対に知るべき重要な情報なのに、テレビなどが取り上げないことで広く知らされていないニュースを掘り起こし、また、報道されてはいるけどその本質がきちんと伝わっていない情報も検証していきます。情報誌は二部構成、一部はマーケット情報、マーケットの裏側で何が動いているのかを検証。二部では、政治や時事問題、いま足元で何が起こっているのかを掘り下げていきます。“脱”情報弱者を求める人、今よりさらに情報リテラシーを高めたい人はぜひお読みください。CFP®資格の投資ジャーナリストが、毎週月曜日にお届けします。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。