中国政府が急速に推し進めている「デジタル人民元」導入の本当の目的について解説したい。ビットコインの規制強化、ドル覇権を崩す狙いなどが言われているが、それらは杞憂に終わりそうだ。(『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』高島康司)
※本記事は『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』2021年6月1日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
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中国が「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」を導入する最初の国になる
いま中国政府が急速に推し進めている「デジタル人民元」導入の本当の目的について解説したい。
周知の通り、中国の中央銀行である「中国人民銀行」は、2020年4月から「デジタル通貨電子決済プログラム」を開始し、「デジタル人民元」を蘇州の相城区と深センで、決済や送金の手段としての実験を開始した。
その後この実験は拡大され、成都、河北省の雄安新区、そして上海で実施された。2020年11月までに中国では、4兆元の「デジタル人民元」が流通し、中国の6つの国営銀行につながったスマホのアプリを通して、すでに400万回のトランスアクションがあった。
そして北京冬期オリンピックが開催される2022年には、「デジタル人民元」の導入実験を中国全土に拡大する計画だ。
これが実現すると、中国は主要国で「中央銀行デジタル通貨(CBDC)」を導入する最初の国になる準備が整う。
ビットコインの規制強化か?
多方面からこの動き警戒感する声が出ている。そのひとつが中国政府による仮想通貨の規制強化、ないしは全面的な禁止の可能性に対する懸念だ。
もし「デジタル人民元」が一般的な決済・送金手段となると、ビットコインを中心とした既存の仮想通貨は、流通過程を混乱させる要因となる。「デジタル人民元」が法定の決済手段であるとき、他の仮想通貨も同時に決済手段として使われると、「デジタル人民元」の使用の拡大を阻害する要因にもある。
またもし万が一、「デジタル人民元」よりも既存の仮想通貨のほうが決済・送金手段として使い勝手がよいと判断されるようなことでもあれば、「デジタル人民元」から他の仮想通貨への両替の動きが加速し、「デジタル人民元」の価値を安定的に維持するのは難しくなる可能性も考えられる。
このような状況を回避するため、中国政府はビットコインをはじめとした既存の仮想通貨の使用を全面的に禁止する懸念がある。
もちろんこれが起こると、ビットコインなどの既存の仮想通貨は大暴落することは間違いない。
国際決済通貨のドルに対する挑戦
そして、「デジタル人民元」の導入でもっとも警戒されているのが、ドルの覇権への挑戦だ。
周知のように現在は、国際決済の約60%がドルで行われている。これは自国通貨の価値高騰を恐れた国々が保有するドルがアメリカに還流してくるので、アメリカにはすこぶる有利なシステムだ。アメリカの膨大な国家予算も、他国の米国債買いで維持されている。また国際決済に使われる送金システムの「SWIFT」も、ドルがベースとなっている。
もし「デジタル人民元」が本格的に導入されると、瞬時に行われる電子決済システムのほうが既存のドルよりもはるかに使い勝手がよい。その結果、「デジタル人民元」が、国際決済通貨として使われる可能性が高くなる。
そうなると国際送金システムとしての「SWIFT」も放棄され、アメリカへのドルの還流は停止する。これはアメリカの国家予算を支えている米国債の暴落にもつながるので、アメリカにとっては大変な事態になる。
中国は「デジタル人民元」の導入でドル覇権体制に本格的に挑戦し、アメリカの世界覇権の弱体化を図る狙いがあるのではないかと見られ、警戒されているのだ。
Next: 懸念は的外れ?ビットコインほか既存の暗号資産を脅かさない可能性
的外れな懸念
実はいま、「中国人民銀行」の幹部の発言など、こうした懸念を打ち消す内容の報道が増えている。
まずビットコインを中心とした既存の仮想通貨の使用が全面的に禁止される可能性だが、それはほとんどないという見解が多い。それというのも、ビットコインをはじめとした既存の仮想通貨は、相場の投機的な変動が激しく価値の安定性がないので、一般的は決済手段としては使えない。
その点では、流通・決済手段としての「デジタル人民元」の拡大を阻害する要因にはならないのだ。
反対に「中国人民銀行」は、ビットコインなどを決済機能を持つ通貨としてではなく、資産を保持する手段である暗号資産として、その存在を認める方向だ。
そのような動きから見ると、ビットコインなどの既存の仮想通貨が全面的に禁止になる可能性は低いと見られている。
また、「デジタル人民元」のドル覇権体制への挑戦という目的だが、これにも否定的な見解の記事が多い。
これまで人民元の使用を国際的に拡大し、これを国際決済手段として発展させる機会は中国にはあったが、中国はこれに対して消極的な姿勢を崩さなかった。いまでも国際決済においては、「人民元」が占める割合は2%程度と低い。円とユーロの割合のほうがずっと高いのが現状だ。
中国は、「人民元」の国際決済での使用を積極的にプロモートする意志はあまりないようだ。これは「デジタル人民元」についても当てはまる。多くの記事で「中国人民銀行」の幹部は、中国には「デジタル人民元」を国際決済通貨にする野心はないと何度も発言している。
こうした状況から見て、いまのところ中国にはビットコインをはじめとした仮想通貨の使用を禁止したり、また「デジタル人民元」を国際決済通貨にする意志はないように思われる。
その意味では、2022年に「デジタル人民元」の導入実験が中国全土で実施され、本格的な導入の準備が整うが、仮想通貨の暴落などもさほど心配しなくてもよいのかもしれない。
中国の本当の目的
では、ドル覇権の挑戦ではないとしたら、中国が「デジタル人民元」を推進する本当の目的はなんだろうか?
この分野に詳しいシンクタンク系の記事を見ると、その本当の目的は国内経済の管理を強化することだという。
それには次の2つの目的がある。
<目的その1:経済の循環を管理し、共産党の権力集中を維持>
いま中国共産党にとって大きな脅威となっているのが、急速な発展で拡大した経済規模である。
人口が14億で世界第2位のGDPの規模になると、中国各地には行政の管理が十分に行き届かないさまざまな経済分野が出現する。中国のノンバンクによる金融商品の拡大で急成長した「陰の銀行システム」などはその典型だが、経済発展に伴いさまざまな産業分野で管理ができない分野が多数出現する可能性が出てくる。
それは、麻薬、アルコール、ギャンブルなどの違法な分野のみならず、正式な認可を受けていないあらゆる分野の企業活動も含まれる。
こうした、いわば非公式な経済領域が拡大すると、この豊富な資金源を背景にして、地方政府や中央の共産党に影響力を行使できる力を持つ集団も出現する。そうした権力集団は、共産党の一元的支配の構造を侵食し、共産党を弱める可能性がある。
「デジタル人民元」が一般的な流通・決済手段になると、すべての取引とトランスアクションは政府がモニターし管理することができる。すると政府は、経済の陰の部分の活動を事前に察知し、規制することが容易になる。これにより、共産党の一党独裁が一層強化される。
Next: 仮想通貨を潰す気はない?狙いは共産党支配の権力基盤を強化すること
<目的その2:マネーロンダリングなどの犯罪防止と税の徴収>
政府の管理できない経済領域が拡大すると、マネーロンダリングなどの犯罪が横行するようになる。しかし、「デジタル人民元」を唯一の決済手段として導入すると、すべてのトランスアクションは政府のモニターと管理下におかれる。その結果、マネーロンダリングのような行為が実施できなくなる。これは政府にとって大変に有利だ。
またすべてのトランスアクションをモニターできる「デジタル人民元」で税の納入を義務づけると、税の徴収には取りこぼしがほとんどなくなる。これは政府にとってはすこぶる有利だ。共産党の支配基盤の強化につながる。
このように、どうも中国の「デジタル人民元」導入の本当の目的は、共産党支配の権力基盤の強化というあくまで国内的なものだ。
ドル覇権に挑戦する意図はあまり感じられないし、また中国政府はビットコインを中心とした仮想通貨を暗号資産として積極的に容認する方向なので、中国が仮想通貨相場をクラッシュさせる引き金を引く可能性は、少なくともいまは低いようだ。
もちろん状況次第で変化するだろうが、いまのところはこの方向だ。大きな混乱はなさそうなので、少し安心してよいようだ。
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