今回は音楽配信の業界におけるブロックチェーンの適用を見てみたい。他の分野と比べ、この業界はブロックチェーンの適用がもっとも急速に進む分野のひとつであるように思われる。(『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』高島康司)
※本記事は有料メルマガ『ヤスの第四次産業革命とブロックチェーン』2018年10月2日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。
音楽事務所はもう要らない?すでに始まっている音楽配信革命とは
アーティストの利益が奪われている…
メディアがアナログのレコードからCD、そしてさらに音楽を中心としたネット配信へと媒体の進化が進むにつれ、エンターテイメント業界の問題点が指摘されてきた。特にそれは、音楽や映画を作るアーティストにとっては深刻な問題になっている。
主要な媒体がレコードやCDの売上に依存していた時代では、アーティストの著作権や利益は保証されていたものの、媒体がネットの配信が簡単なデジタルに移行するにつれ、違法コピーが氾濫してCDの売上は激減した。
音楽業界は違法コピーを厳しく取り締まるとともに、有料のネット配信が可能なiTuneや、広告料収入が見込めるYou Tubeのような動画配信のプラットフォームに移行した。
しかし、このどちらの方向でもアーティストの利益が十分に確保されることはなかった。
コンテンツの有料配信を行っても、配信のプラットフォームの運営組織に利益の多くが持っていかれる状態が続いている。旅行代理店が運営主体となる観光業、多くの取引業者が仲介するグローバルなサプライチェーンなど、中間業者が介在し、収益が収奪される分野はとても多いが、音楽配信のプラットフォームなどはその最たるものである。
それというのも、既存のシステムでは、配信を管理する高機能のサーバの存在が不可欠だからである。1日に数億を越えるアクセスのリクエストに対応できるサーバは大変に高価であり、維持費も当然高額になる。音楽配信がこうしたシステムに依存している限り、アーティストには十分な利益は還元できない。販売価格の80%ないしは90%が配信プラットフォームに抜かれてしまうケースもまれではない。
ブロックチェーンが救世主になる?
そのような状況で、サーバを必要としない分散型の音楽配信システムであれば、状況はまったく異なってくる。
ブロックチェーンとは、ネット上に複数存在する分散台帳に暗号化されたデータのブロックを記録し、それを相互にチェーンで結ぶテクノロジーだ。データが書き込まれるためには、データブロックに内在している暗号を解くマイニングの作業が必要になる。万が一、ハッキングなどでデータの改ざんを試みると、分散台帳そのものが壊れてしまう仕組みだ。しかし、分散台帳は無数に存在するので、システムはすぐに回復できる。
そして、プログラムの自動実行機能を実装した、イーサリアムのスマートコントラクトのブロックチェーンを導入すると、既存の音楽配信サーバの機能のほとんどはブロックチェーンだけで提供できるようになるのだ。
もはや音楽配信のプラットフォームは、非常に高価なサーバを維持する必要はなくなる。そうした中間業者そのものが不要となり、アーティストと消費者が直接やり取りすることができる。すると、販売価格の80%を上回る収益がアーティストに配分されるシステムも構築可能になる。
こうした背景があるため、音楽配信の分野におけるブロックチェーンの適用は、他の分野に比して急速に進みつつある。それは大きく分けると、次の3つの方向性がある。