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急落した金相場、押し目買い前にチェックすべき「異変」の意味。次の上昇トレンドは23年以降か=江守哲

今回の金相場の下げはまさに「急落」というにふさわしいだろう。値動き的には1,875ドルを割り込んだあたりから相場自体は下げ始めていたのだが、これがFOMCをきっかけにまさに大崩れといった様相である。次に明確に金相場が上昇に転じるのは、23年に入ってからになる可能性もある。(『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』江守哲)

本記事は『江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』2021年6月21日号の一部抜粋です。全文にご興味をお持ちの方はぜひこの機会に、今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

金相場の下げはまさに「急落」というにふさわしい

金相場は急落し、大幅続落となった。前週の流れを引き継ぎ、先週頭から下落。15・16日開催の米連邦公開市場委員会(FOMC)で量的緩和縮小に向けた道筋の概略を示す可能性が警戒された。一時5月17日以来の安値となる1,848.49ドルまで下げた。15日に始まるFOMCを前に手仕舞い売りが出始めた。翌15日も下落。ドルが上昇したことに加え、FOMCを前に動きづらい展開となった。

Gold先物<COMEX> 日足(SBI証券提供)

16日も下落。この日まで開催されたFOMCで、FRB当局者らが新型コロナウイルスのパンデミック後初となる政策金利引き上げの予想時期を2023年に前倒ししたことから売られた。一時5月14日以来の安値となる1,833.65ドルを付けた。FRB当局者らはFOMC後の政策声明で、現在の雇用回復軌道を後押しするために、当面は景気支援的な金融政策を維持する姿勢を示した。

しかし、同時に公表されたFRB当局者らの政策金利見通しでは18人中11人が、23年末までに最低2回の0.25%利上げを予想した。17日も前日までの流れを受けて続落。一時5月3日以来の安値となる1,766.29ドルを付けた。FOMCを受け、ドルが2カ月超ぶりの高値となったことも、ドル建て金相場の割高感につながった。

週末18日も続落。この日は荒い値動きとなった。一時1,796.86ドルまで戻す場面もあったが、引けは1763.34ドルと、週間では5.7%安となり、週間の下落率は1年超で最大となった。FRBの利上げを志向する「タカ派的」見通しによるドル高を嫌気して売られた。この日はセントルイス連銀のブラード総裁が、インフレは予想を上回る強さで、金融政策のより早期な引き締めは「自然な対応」だと言明したことで、金相場は大きく下落した。

投資家は保有量を増やしている?

世界最大の金上場投資信託(ETF)であるSPDRゴールド・トラストの保有高は、6月11日の1,044.61トンから、18日には1,053.06トンに増加した。

金価格は下落したが、投資家が保有量を増やしたことがわかる。

Next: 大きく崩れた金相場、ここからどう動く?投資戦略と考え方



投資戦略と考え方

金相場は大きく崩れている。これまでの上昇基調は明らかに反転した。結果的に1,900ドルを明確に超えられなかったことに加え、ドル高基調が鮮明になったことが背景にある。ドル指数の週間上昇率はここ約9カ月で最大であり、ドル以外の通貨所持者にとってドル建ての金の魅力が減退している。ただし、ゴールドマン・サックスやコメルツバンクは、金相場は回復に向かうとの予想を示している。

コメルツバンクは年末時点の予測を2,000ドルで維持している。また、短期的には売り圧力がさらに強まる可能性があるものの、歴史的にインフレ高進は貴金属にとっては買い材料になるため、今回の下げは買いの好機とみなされ、どこかの時点で安値拾いが入るとの指摘もある。しかし、それは金融市場が落ち着かないと難しいだろう。

実際に貴金属相場は軒並み大崩れである。特にひどいのがプラチナとパラジウムである。このような相場になると、持ち直しには時間がかかる。長期投資を考える場合でも、慌てずに底値を確認してからゆっくりと拾うほうがよさそうだ。

それにしても、今回の金相場の下げはまさに「急落」というにふさわしいだろう。値動き的には1,875ドルを割り込んだあたりから相場自体は下げ始めていたのだが、これがFOMCをきっかけにまさに大崩れといった様相である。

そして、1,815ドルにあった重要なサポートも割れたことで、中期的なトレンドは崩れたといえる。これで3月のダブルボトムの形成が否定され、もう一度底値を探る展開も想定される状況にになっている。

金相場に起きた異変

今回の下落はドル高が影響しているが、そのきっかけとなったFOMCでのFRBの見通しは、金融政策方針の明らかな変化を示している。

結局のところ、FRBは「インフレは一時的」と繰り返すものの、公式な経済のリスク評価はタカ派色が強まっていることは確かである。インフレ警戒であれば、金利が上昇しても実質金利が低下し、金価格が上昇することになる。しかし、それも起きていない。むしろ、米長期金利は低下している。

もっとも、現在市場で起きていることは、これまでと大きく違う。それは、短期金利が上昇した点である。FRBが行っている金利調整は短期金利である。

したがって、今回のFOMCを受けた短期金利の変動は、まさにFRBの変貌ぶりを素直に反映しているといえる。米短期金利の上昇が、ドル高に直結し、その結果、金も売られているというわけである。

金利が上昇しても、インフレ率が上昇し、実質金利が低下すれば、金相場は上昇することになる。しかし、今は市場はそのあたりをほとんど見ていないことになる。つまり、ドル高を金売りの材料としているわけである。

2013年のテーパリングの際の金相場の動きを振り返れば、利上げの前に議論されるであろうテーパリングが金相場を抑制することは明白であろう。したがって、ドル高基調とテーパリングの議論が進むうちは、金相場は上昇しづらい期間が続く可能性がある。

さらに言えば、当時の金相場が明確に底打ちし、反転して上昇に転じたのは、実際に利上げが開始されてからである。利上げ開始は2015年12月だったが、これまでの金相場の上昇基調の起点はまさにこの時点である。

したがって、今回もそのような可能性もあることを十分に理解したうえで、今後の金相場を見ていく必要があろう。

Next: 次の金相場上昇は23年に入ってから?今後の展望は



次の金相場上昇は23年以降か

つまり、次に明確に金相場が上昇に転じるのは、23年に入ってからになる可能性もあるということである。

それくらいの時間軸で見ていったほうがよいだろう。もっとも、将来的なインフレ基調は変わらないだろう。また、下げてくると、「バーゲンハンター」である中国・インドなどのアジア勢が買ってくるだろう。これらの買いは、一定の下支えになるはずである。無論、この中には日本の投資家も含まれるだろう。

今後はドル高基調が続く中、米短期金利の上昇圧力もあり、金相場は上値の重い展開が続きそうである。現物需要の減退と投機筋の手仕舞い売りおよび新規売りで、金相場は一段安となる可能性があると考えておく。

相場がここまで崩れてしまうと、CTA(商品投資顧問)やマネージド・フューチャーズなどのテクニカル指標を重視して投資判断を行う投機家が売り込んで可能性も十分にある。実際にそのような投資行動をすでに取り始めているものと思われる。

そうなると、1,700ドル程度までの下げも十分にあり得るだろう。もっとも、長期投資家は株式のヘッジや将来のインフレに備える意味でも、これまで通り粛々と押し目を拾っていけばよいと考える。ただし、時間分散と資金分散は必須である。

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江守哲の「投資の哲人」〜ヘッジファンド投資戦略のすべて』(2021年6月21日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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