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他人事ではない京都市“財政破綻”危機。優等生の自治体も突然窮地、ツケはすべて住人へ=原彰宏

京都市が2028年にも財政破綻する可能性が出てきました。なぜここまで財政を立て直せなかったのか。コロナ以前からの問題を先送りしてきたことが原因と言えそうです。そして、京都市の問題は決して他人事ではありません。財政的に優等生だった自治体までも、コロナ禍で窮地に陥っています。(『らぽーる・マガジン』原彰宏)

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※本記事は、『らぽーる・マガジン』 2021年7月12日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

京都市が破綻する?「財政再生団体」に転落する恐れも

「Xデー」は2028年度、京都市が「財政再生団体」となる可能性が浮上しています。

財政再生団体になるということは、企業で言えば破産に当たります。もしそうなったら、京都市は国の管理下で、財政再建を目指すことになります。

お金を使うことはすべて、何をするにも、「お国のお伺いを立てる」必要があります。よく言われますが「鉛筆1本、勝手に買えなくなる」わけです。

この例えはずっと変わっていないのですが、今どき“鉛筆”はないですけどね。現代に合わせれば、マウスを新調できない、延長コードも自由に買えない…などですかね。

夕張市と同じ道をたどる可能性

近年で財政再生団体という言葉を耳にしたのが、北海道夕張市の例です。夕張市と同じと言われると、一気に緊張感が走りますね…。

報道によれば、2021~2025年度の5年間で、京都市は約1,600億円の収支改善に取り組む行財政改革計画案を公表しました。

将来の借金(市債)返済のための積立基金で赤字を埋めることが、限界に陥ったとのことです。「限界に陥った」という表現は、“ただ事”ではないですよね。

・全職員給与カット(最大6%)+ 職員数削減(550人)で215億円
・「事業や補助金見直し」で721億円
・「土地売却」で117億円

などを用意する計画ですが、これでも不十分だとしています。

将来負担率の191.1%(2019年度決算)は、全国20政令指定都市でワースト1位。実質公債費比率(収入規模に対する借金割合)10.4%(2019年度決算)はワースト4位。資産残高1兆3,424億円(2019年度決算)で市民1人当たりの負担額は、2番目に大きいそうです。
※参考:京都市「財政破綻」の危機…高い職員給与・手厚い敬老パス・バブル期に地下鉄建設 – 読売新聞オンライン(2021年5月26日配信)

「将来負担率」は、地方公共団体の借入金(地方債)など、現在抱えている負債の大きさを、その地方公共団体の財政規模に対する割合で表したもので、計算式では、分子に将来負担額がきますので、数字が大きいほど“悪い”数字となります。

Next: なぜ京都市は財政難に陥った?コロナ以前からのずさんな財政計画



最大の要因は市営地下鉄

報道によれば、最大の要因は、1997年開業の市営地下鉄東西線の建設費だそうです。

バブル期の建設ゆえ、公費が大きく膨らんだそうで、事業費当初予定の1.4倍の5,461億円に増加しました。その一方で、利用客は、当初見込みの1日約18万4,000人に一度も達していないそうです。

民間企業だと、まず担当役員はクビですね。担当部署の役職者は降格か左遷、社員は配置換えですね。そもそも民間だったら、工事計画段階で、予算の見直しあるいは事業を中止しますね。

「1日約18万4,000人」という想定の見込み客をはじき出す根拠は、どれだけ精査していたのでしょうか。

地下鉄事業は営業収入を支出にあてる特別会計で営むのが原則ですが、京都市では、営業収入だけでは収支が成り立たず、2004~2017年度に計967億円を一般会計から補填したそうです。

問題を先送りしてきた京都市の怠慢

ネット上で「京都市持続可能な行財政審議会資料抜粋資料」と題したPDF資料を見ることができます。

まるで「他人事」のように書かれているこの資料を、京都市民はどのような思いで見るのでしょうね。

内容の一部をピックアップしますと「地下鉄事業収入不足補填」として、平成20年度に148億円、平成30年度に154億円を先送りでしのぐと書かれています。負債返済経費は、平成20年度の20億円から、令和2年度には100億円へ大きく増加とも書かれています。

一方で、資料には「京都市がやった“褒められる”こと」として、ものを作ったり防災強化をしたりで、民間の「日本の歳特性評価」や「SDGs先進度調査」で首位になったことが書かれています。公債償還基金の不足額は2,033億円というのも、同じ資料に書かれています。

また対策として、以下の項目が挙げられています。

・地方交付税を国に交渉
・市民に増税
・独自の財源確保

大阪府知事に就任した橋下徹氏は、就任と同時に、大阪府民へのサービスを大幅に削減し、市営バスや地下鉄の高齢者パスの見直しや、文化事業の削減に取り組み、多くの非難を浴びましたが、結局は大阪府財政を大きく立て直し、大阪府が財政再生団体に落ちるのを防ぎました。

これに対して京都市は、公共事業支出が財政を圧迫する中でも、手厚い市民サービスは維持しました。

これを当然と見るのか、ポピュリズムと見るのかは意見が分かれるところでしょうが、知事は政治家なので、自身の選挙のためというところは、ないことはないでしょうけどね。

70歳以上の市民が無料か低料金で市バス・地下鉄を使える「敬老乗車証(敬老パス)」は、1973年度の約3億円から2019年度は対象者の増加で50億円まで膨張しています。

市民1人当たりの公費負担(3,392円)は同様の制度のある13政令市中、2番目に高いそうです。

ほかにも、小学生の虫歯治療費の全額助成事業を1961年から、保育士の独自加配を1966年から継続、職員人件費の給与水準(ラスパイレス指数)は政令市で4位タイの高水準だそうです。

Next: コロナ禍、非納税者の学生多数、非課税の寺社ほか要因はたくさんある



世界的な「観光地」ならでも事情もある

財政難に陥った原因のなかには、「京都ならでは」の事情もあります。

<納税者でない学生が多い>

納税義務者割合が43.1%と、政令指定都市で最も低くなっています。平均は47.2%ですから、4%も低くなっています。

<非課税の寺社が多い>

主要税源の固定資産税の市民1人当たりの税収は、政令指定都市の平均より約3,000円低いそうです。

<コロナ禍で観光収入が激減>

修学旅行の多い地域で、観光客も1年中訪れているイメージが強いのですが、コロナ禍で事情が変わり、お祭りも自粛で、観光収入は激減どころか目を覆ってしまうような酷さなのでしょうね。

赤字を放置してきたツケ

なるほど、京都市にとっては可愛そうな部分があるのは、わかります。

それでもここに至るまで京都市は、貯蓄を取り崩して、事業の赤字補てんと高水準の住民サービスを続けてきたわけです。

市の貯金は、具体的には「財政調整基金」が2000年度にほぼ枯渇、2005年度からは「禁じ手」と言われる「減債基金」にも手を出しているのです。2021年度は、コロナ禍による観光収入激変で、この基金から過去最大の181億円を引き出しているそうです。

この状態が続けば、2026年度には基金が枯渇。冒頭で指摘した2028年度には、赤字割合が地方自治体財政健全化法上の財政再生団体の基準に達するのだそうです。

大体、収入の見込みをどう考えていたのでしょうか。地方交付金頼みだったのか、市としての運営(経営)の能力が問われます。

コロナを想定していないとしても、2000年度に「財政調整基金」が枯渇した段階で、京都市としてはどのように動いて、その実情を市民にどう報告していたのでしょうか。

結局は、トップの無能さの“ツケ”は、市民が払うことになります。

市民サービスの大幅な低下は避けられないのは目に見えていて、さらに京都市では、国民健康保険料は3割(年約2万7,000円)の値上げ、保育料は4割(月約3,800円)の値上げを想定しているとのことです。

インバウンドを見込んでたくさん建てたホテルやゲストハウスは、どうするのでしょうかね…。

Next: 東京も危険?「財政調整基金」切り崩しはほかの地方自治体でも



京都市以外の地方自体も苦しい立場に

地方自治体の税収が減っているのは、今の状況を見れば容易に想像できます。

地方交付税をもらっていない“優等生”である「不交付団体」ほど、財政が厳しくなっているようです。1,765都道府県・市町村のうち、この「不交付団体」は“76”ありますが、今後、この数字に変化が見られてくるのでしょうか。

一方で、比較的人口規模が小さく、大規模な発電所が立地している自治体では、2021年度から増収見込みだそうです。

減収見込みの自治体では、やはり京都市と同じ「財政調整基金」の取り崩しを予定しているそうです。「財政調整基金」とは、財源変動に備えて、余裕があるときに積み立てる基金で、東京都のコロナ対策で出てくる「東京の貯金がなくなる」と報道している“アレ”です。

東京都の財施調整基金は、2021年度末には21億円になるそうです。2019年度は決算ベースで9,345億円ありました。この短期間で9,300億円も使ったことになりますが、都内飲食店は協力金が今年2月以降、支払われていないというところが多数あるのは、なぜでしょうね。

2021年度税収減の幅(2020年度と比べて)最も大きいのは、山梨県山中湖村の14.2%で、次に滋賀県竜王町の13.1%、静岡県御殿場市が13.0%となっています。

問題は、「財政調整基金」取り崩し割合が高い自治体で、2021年度の取り崩しは、埼玉県和光市が最も高く83.2%、次いで、神奈川県鎌倉市が79.9%、静岡県御殿場市は61.6%取り崩して税収不足を補うようです。

和光市も鎌倉市も御殿場市も、地方交付税をもらわず、今までは自らの税収で財政運営ができていた“不交付”自治体です。

いきなり、「財政再生団体」になるわけではないですが、今後に向けて住民サービスを削ることは検討されているようです。

優等生だった自治体も窮地に。どう対応する?

地方交付税を受け取る「交付団体」になる可能性もあります。

・埼玉県和光市では、国民健康保険と介護保険保険料値上げを検討
・神奈川県川崎市は、「開かずの踏切」解消のためのJR南武線高架事業の見直し
・千葉県浦安市では、子ども図書館新設や郷土博物館リニューアルを延期
・愛知県碧南市では、駅前ロータリー拡張計画完成時期の先送り

愛知県碧南市は、トヨタ自動車やグループ企業が集まる「西三河地方」の都市です。コロナで、企業収益が落ち込んだことのあおりを受けての税収減でしょうね。

住民サービス削減の例として、埼玉県新座市では以下などを進めるとしています。

・法律や税務相談の無料窓口サービス中止
・市民向け講座や研修会は休止
・地域支え合いボランティア補助金減額
・子育て支援ネットワーク休止
・介護保険サービス等に係る診断料助成廃止
・高齢者賃貸住宅家賃助成廃止
・歯科検診一部経費削減及び廃止 

これらはほんの一部ですが新座市ホームページにはもっとたくさんのサービス廃止の例が載っています。

コロナ禍における、企業業績の悪化による税収減、および、感染拡大による市民病院の経営悪化が響いているようです。

京都のような観光業収入が大きい地方自治体も、当然ながら厳しいでしょう。

こういう情勢を見ながら、膨らみに膨らんだ東京五輪費用を見ていると、いたたまれない気持ちになります。東京五輪に関する“お金”の検証は、今後、絶対に必要だと強く思いますね。

あれだけの費用を地方自治体に回してあげるだけで、どれだけの日本国民が助かるのかを考えると、「なんだかなぁ~」という思いでいっぱいです。

コロナによる地方自治体存続の危機にも、注目していく必要がありそうです。

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らぽーる・マガジン』(2021年7月12日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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