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五輪のウラで迷走する習近平、米中戦争の火種続々。香港、イラン、豪州が戦場になる日=江守哲

報道は東京五輪ばかりだが、そのウラで中国の迷走ぶりが目立つ。関係する米国、オーストラリア、イランとの間で紛争の火種がくずぶっている。世界経済全体の減速につながる大きなリスクだ。(『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』江守哲)

本記事は『江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』2021年7月26日号の一部抜粋です。ご興味を持たれた方はぜひこの機会に今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:江守哲(えもり てつ)
エモリファンドマネジメント株式会社代表取締役。慶應義塾大学商学部卒業。住友商事、英国住友商事(ロンドン駐在)、外資系企業、三井物産子会社、投資顧問などを経て会社設立。「日本で最初のコモディティ・ストラテジスト」。商社・外資系企業時代は30カ国を訪問し、ビジネスを展開。投資顧問でヘッジファンド運用を行ったあと、会社設立。現在は株式・為替・コモディティにて資金運用を行う一方、メルマガを通じた投資情報・運用戦略の発信、セミナー講師、テレビ出演、各種寄稿などを行っている。

IT企業を恐れる中国政府

時事通信によると、中国の配車サービス大手「滴滴出行(ディディ)」が6月に米国で新規株式公開(IPO)を実施したことを受け、中国当局が厳しい罰則を検討しているようである。中国当局者らは、中国サイバースペース管理局(CAC)が難色を示したにもかかわらず、滴滴がIPOに踏み切ったことを、当局に対する挑戦と受け止めているという。

報道によると、当局は罰金や一部事業の停止、国有資本の投入などさまざまな措置の可能性を検討しているという。CACは、サイバーセキュリティー関連の調査のため、CACや公安省など少なくとも7当局が滴滴に調査チームを派遣したと発表している。
※参考:滴滴に立ち入り調査 取り調べ強化―中国:時事ドットコム(2021年7月16日配信)

なぜ中国当局がこのように、ディディに厳しい対応を示しているのか。それは、個人情報をディディが把握し、政府以上に情報を持つことを恐れているからである。

さらに言えば、中国政府のプライドである。一企業が中国政府を越えるような立場にあることを許せないのである。

焦って迷走する習近平

これは、まさに中国政府が焦っていることを示している。

これまですべてを掌握し、さらに逆らう国民や政府を圧力で押さえつけてきた。その結果、これまで「表向き」の威厳を保ってきたのだが、徐々にコントロールできないことが増えてきている。自由にさせていたことがあだになったと考えているわけである。

しかし、国民の数や企業の力を考えると、そのような「強権的政治」手法にも限界がきている。これは、国内に向けてだけでなく、国外でも同じようなことが起きている。これまで資金を使って、様々な国を懐に取り込もうとしてきた。一帯一路はまさにその典型的な政策だが、これはすでに国際社会から批判の的になっている。

中国に笑顔を振りまく日本も窮地に

もっとも、これを称賛していたのは安倍前首相である。このセンスのなさには驚くしかないのだが、それが日本の政治家の実力である。

世界の潮流も理解できず、いまもなお中国との関係を重視する姿勢を貫いている。

一方で、米国からは圧力をかけられている。そろそろ立場を明確にすべき時期に来ている。ごまかしは聞かなくなりつつある。

その意味では、日本も苦しい立場にある。中立的位置づけを維持するのにも限界が来ている。

台湾問題を考慮すれば、答えは出ているのだが、経済面を考慮すればそういうわけにもいかない。米国と同様に、政治とビジネスを分けて考えるしたたかさが求められるだろう。

ただし、残念ながら、菅政権にそのセンスはないことだけは確かである。

Next: 香港が戦場に。制裁と報復の応酬、米中対立は激化の一途



制裁と報復の応酬。米中対立は激化の一途

さて、中国は対米政策でも動きを見せ始めている。時事通信の報道によると、中国外務省は外国による対中制裁に反撃するための「反外国制裁法」に基づき、米国のロス前商務長官らに制裁を科すと発表した。先月施行された同法が適用されるのは初めてという。

この反外国制裁法は、香港への締め付けや新疆ウイグル自治区での人権侵害に対する欧米での批判の高まりを背景に、全国人民代表大会(全人代、国会に相当)常務委員会で6月10日に可決され、即日施行されている。
※参考:中国、前米商務長官らに報復制裁 反外国制裁法を初適用:時事ドットコム(2021年7月24日配信)

いずれにしても、米中双方による制裁と報復の応酬が加速し、対立が一段と激しくなるのは必至な情勢である。

香港が戦場に

バイデン米政権は16日、香港の高度な自治を侵害したとして、中国政府の出先機関である香港連絡弁公室の幹部7人を制裁対象に指定した。中国外務省はこれに対し、「対等な対抗措置を取る」と表明。ロス氏や米議会諮問機関の代表、国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」の中国部門トップら計7個人・組織への制裁を決めた。

その上で「香港は中国の内政問題だ」と改めて強調し、米国に干渉をやめるよう警告した。報復的な対応ではあるが、そろそろ何かしらの対応をしないと、米国にやられっぱなしになる。これでは共産党の威厳を保てないだけでなく、国民からも舐められると考えたのだろう。いつもの自身の「メンツ」「プライド」を重視する政治である。

一方の米国側も黙ってはいない。サキ米大統領報道官は、「中国の報復は民間人や市民団体を標的にしており、投資環境を悪化させ、政治的なリスクを高める」と批判し、米政権は対中制裁を躊躇なく実施していくと主張している。

米国も中国にはこれまで以上に厳しい態度で応じている。中国が徐々に追い込まれていることだけは確かである。

Next: 中国・オーストラリアの関係悪化、世界経済に減速リスク



中国の豪州投資が激減、世界経済のリスクとなる

その中国は、中国を新型コロナウイルスの発生源と決めつけて批判した豪州への投資を減らしているようである。

中国から豪州への投資は、2020年には2007年以来の低水準に落ち込んだという。時事通信の報道によると、中国勢の対豪投資は16年から減少傾向をたどっており、中国人投資家の75%は豪中関係の悪化を受けて、投資に後ろ向きになっているようである。

実際に、2020年の中国の対豪投資は金額ベースで25億豪ドルと、前年の34億豪ドルから27%減少。投資件数では20件と前年の42件から約半減したようである。

この最新の調査によると、投資や合併、買収、合弁事業、更地に工場などを建設する「グリーンフィールド」が対象で、株式や債券、居住用住宅の取得は含まれていない。

中国国有企業が投資先として豪州をどのように見ているのかについては、「警戒しており、他の市場に注目している」という。また、中国から豪州に対する投資の将来については、低リスクの機会を目指して、規模が比較的小さい民間企業次第としている。

過去5年間に中国から対豪投資が急減した要因は、中国政府の制限措置と優先度が経済協力開発機構(OECD)諸国から移行したことや、外国投資審査委員会(FIRB)の審査強化と国家安全保障面の重視したこと、さらに両国の政治的関係に対する信頼の低下の3つが挙げられるという。投資額と件数は07年以来の最低水準にあり、毎年悪化している。

中国・オーストラリアの関係悪化

このように、政治的な考えが経済にも影響が出ている。それは当然ではあるが、これまでも豪中の貿易をブリッジとした「蜜月」はもはや崩壊の危機にある。

両国ともそれぞれの立場を主張しすぎると、経済に大きな影響が出るところまで来ている。

それだけ重要な関係なのだが、プライドが邪魔をしているようである。プライドが最初にきているようでは、上手くいかない。

今後も豪中関係は悪化し、それが両国の経済に悪影響を与えるだろう。それが世界経済にも影響を与える可能性がある。この点には留意しておきたい。

米国とイランにも不穏な動き

米国とイランの関係についても取り上げておこう。

時事通信の報道によると、米政府はイランが核合意の交渉に復帰する可能性が低いことや、より強硬な姿勢を取る可能性があることを踏まえ、イランによる中国向け原油販売を取り締まることを検討しているようである。

米当局者によると、米国は今年初めに中国に対し、2015年のイラン核合意を復活させることが主な目的で、適当な時期に米国が合意に復帰することを想定しているという。当初は、米国の対イラン制裁措置に違反したとして、同国産原油を購入する中国企業を罰する必要はないとしていた。

しかし、米国のスタンスは変わりつつあるようである。核合意に関しては、イランがいつウィーンでの間接協議を再開させるか、また近く就任するライシ次期大統領は協議を再開する意向があるのかなど、不透明要因が多い。

イランはライシ氏が大統領に就任するまで交渉を再開しないとしていたが、この意図は「非常に曖昧」としている。

Next: もう米国は怖くない?強気なイラン、焦る米国



「新たな石油ターミナルは、イランに対する米国の制裁の失敗を証明している」

米国が対イランへの経済制裁措置を緩和する見返りとして、イランが核開発計画を制限するとしたイラン核合意「包括的共同行動計画(JCPOA)」については、「我々がJCPOAに復帰すれば、イラン産原油を輸入する企業に制裁措置を講じる理由はない」としている。

ただし、「JCPOAの早期復活の見込みがなくなりつつあるようならば、そうした姿勢を修正する必要がある」としている。このようにして、イランにゆさぶりをかけているのだが、イランは相変わらずのあいまいな立場であり、明確な意図を示していない。

イランのロウハニ大統領は22日、オマーン湾で国内初の石油ターミナルが開業したと発表した。イランのタンカーは、数十年間にわたり地域の緊張の焦点となっていた戦略的に脆弱なホルムズ海峡の運行を回避することが可能になった。

ロウハニ氏はテレビ演説で、「イランにとって戦略的かつ重要なステップだ。わが国の継続的な石油輸出を確保することができる」とし、「新たな石油ターミナルは、イランに対する米国の制裁の失敗を証明している」としている。

新ターミナルは、ホルムズ海峡の南にあるオマーン湾のバンダレ・ジャスク港に位置し、今後は日量100万バレルの原油輸出を計画しているという。これにより、イランには様々なオプションが手に入ったことになる。米国の焦りが目に浮かぶ。

トランプ前米大統領は3年前、イランと欧米6カ国が結んだ核合意から離脱した。対イランへの制裁を再発動し、同国の原油輸出に打撃を与えた。イランは制裁によって輸出が停止すれば、ホルムズ海峡を封鎖すると繰り返し警告していた。

しかし、今回の新ターミナルの開業で、事態は大きく変わる可能性がある。イランが態度を硬化させるのか、交渉の場に出てくるのかをじっくりとみていきたい。無論、この材料は石油供給問題や原油価格にも大きな影響を与えることは言うまでもない。

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image by:plavevski | Spike Johnson / Shutterstock.com

江守哲の「ニュースの哲人」~日本で報道されない本当の国際情勢と次のシナリオ』(2021年7月26日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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