今回はロボアドバイザーを使った投資の有効性について考えたいと思います。ロボアドバイザーと言うと、具体的にはウェルスナビとか、テオなど、AIを使って、自動で資産運用を行ってくれるサービスということになっています。果たして、これに投資すべきなのか。投資のプロである私の視点から解説したうえで、投資の是非についても議論していきたいと思います。『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
「ロボアドバイザー」は何をしてくれる? サービスに2種類
ロボアドバイザーは何をしてくれるのか。簡単に言うと、人工知能を活用して自動で私たちが何の手を動かすこともなく、お金を運用してくれる資産運用サービスということになっています。
業界の用語としては、これを行っているサービスは資産運用業あるいは投資助言業というところになっています。
資産運用業だと、実際にお金を預けて、私たちは手を動かす必要がないということになっています。一方で、投資助言業というところになると、こうやって運用するんだよということまでは言ってくれるのですが、そこから実際に売買を行うのは自分自身というものになっております。
同じロボアドバイザーといっても、この2つの種類があるということを、まずご確認しておいてください。ちなみに私も投資助言業を行っておりますので、そちらもぜひ皆さんご周知いただければと思います。
さて、この投資運用サービスでもっとも高いシェアを占めているのが「ウェルスナビ」です。こちらは、先ほど説明したものの中では資産運用業を持っている会社であり、一度この口座にお金を入れて設定さえ済ませてしまえば、あとは何もする必要がないといったサービスとなっています。
以下にあります通り、預かり資産はなんと5,000億円を突破、運用者数26万人ということで、これは国内の投資信託において金額として15位相当のものになります。
このサービスが始まったのが2016年なので、5年ぐらいでこれものほどの金額になったということは、多くの方がここに興味を持って実際にお金を入れているということになります。
気になるのはパフォーマンスですけれども、以下の図のグレーの直線のラインが元本というところになるのですが、いずれのパターンでも大きく上回るという数字になっています。
この5年間でずっと設定をやり続けてこのモデルケースで言いますと、最初に100万円投資して、その後、毎月3万円をずっと積み立てていくというものです。
5年でプラス26.3%からプラス55.5%ですから、一番リスクを抑えた運用でも295万円に対して373万円とおよそ80万円ぐらいのリターンが出ているということになります。
最も高いリスクをとったところだと459万円ですから、2倍とはいかずとも200万円近い利益が出ているというところになっています。
自動で任せてこれだけ利益が出るのだったら、誰でも買っておけばいいという風に思われるかもしれません。
Next: ロボアドバイザーの仕組みは驚くほどシンプル
ロボアドバイザーの仕組みはどうなっているのか?
投資すべきかどうかの是非は後述するとして、まずはロボアドバイザーの仕組みを説明します。
「AI(人工知能)を活用して」というと、ものすごい複雑なコンピューターの処理があって、そこに出てくる結果としてこういった運用が出てくるのではないかと思われてしまいがちですが、実際のところはすごくシンプルな内容となっています。
簡単にいうと、以下の2つで説明できます。
1つ目は、質問に答えてリスク許容度を判定する。2つ目は、リスク許容度ごとに7種類のETFを組み合わせる。これがこのロボアドバイザーのすべてというところになっています。たったこれだけ?と思う方もいるかもしれませんので、もっと踏み込んで見てみましょう。
まず、1つ目の「質問」ですけれども、口座を開設する時に、投資者の属性について6つの質問が行われます。その6つとは「現在何才ですか?」それから「年収はいくらですか?」そして「金融資産はいくらですか?」さらに「毎月の積立額」を聞いてきます。
この投資は積み立て投資を前提としていますから、毎月の積立額、それから資産運用の目的、そして、もし株価が1か月で20%下落したら、「追加投資したいですか?それともむしろ資金を引き揚げたいですか?何もしないですか?」といった質問が行われます。
この6つの質問からランク付けして、リスク許容度がを1〜5段階に設定(5がリスク許容度が高いところ、1が最も低いというところ)されるようになっています。
すなわち、この6つの質問から出てくる結論としては、このリスク許容度が1から5というところしかありません。これは実はAIでもなんでもなくて、ただプログラムが組まれているだけだと思います。
皆さんチャートのアンケートみたいなものを見たことないでしょうか。何かを聞いてYESとNOで比べてYESだったらこっちへ進んで、NOだったらこっちに進んでという仕組みで、最終的に例えばこういう性格ですよ、みたいな性格診断とか。よく使われるやつだと思うのですが、そういう仕組みを見たことがありますよね。
これと、今の説明したようなものと、ほとんど変わらないというものなのです。AIというほどのものはないのではないかな?という風に考えています。
さらに進めて見てみましょう。
投資内容はどう決定する?
どうやって投資するのかというと、7種類のETFの中から選ぶということになっています。
それは、米国株VTI、日欧株(VEA)、新興国株(VWO)、米国債券(AGG)、物価連動債(TIP)、金(GLD)、不動産(IYR)というものになっています。
ETFとは上場投資信託と言われるもので、いろんな株を一纏めにした商品です。まとまったものを上場、すなわち市場で誰でも取引できるといったものになっています。
この7種類のETFを組み合わせて、リスク許容度に応じて5つのパターンがあるということになります。
これが最初に投資する金額を割合で割り振るのですが、この組み合わせのパターンは5つしかありません。
複雑なことではなくて、先程のアンケートのようなものでリスク許容度を判定して、それで許容度1だったらこの割合、2だったらこの割合、3だったらこの割合というのが決まっています。
それを自動的に当てはめて、その人が答えたような割合になるように資産を振り分けるという、たったこれだけのことなんです。
すなわち、AIと言ってはいますが、なんら複雑のことはやっていない、シンプルで簡単なことを行っていると言えます。
Next: ロボアドバイザーに手数料を払う価値はある?投資の是非を検証
ロボアドバイザーに手数料を払う価値はあるか?
では、そのサービスで手数料はいくらなのかというと、1.1%(税込)ということになっています。100万円を投資したら、1年間で1.1万円を持っていかれるというものになっています。
これが高いか安いかはさておき、年率1%っていうと、大体投資信託の中では平均的な水準ではないかと思います。要するに、投資信託を買うのとあまり変わりがありません。
さらに言うと、上場投資信託そのものにも手数料がかかることになっています。それが、ETF手数料0.08から0.13%というものです。これを合わせたものがトータルのコストというところになっています。
投資信託AIと言っていますが、投資信託を買うのと実は変わらないというところになります。
さらにもっと確実に言えることは、先ほどETFが7本の組み合わせだという話をしました。このロボアドバイザーがやっているのは、その7本の割合を5つのパターンに組み替えることです。
少しケチな考え方かもしれないのですが、ロボアドがやっている1%の手数料を省こうと思ったら、ものすごく簡単です。先程のAIがなくても、自分でまったく同じポートフォリオを作ることができるのです。
確かに先程のアンケートは取ってもらわないといけないなと思うかもしれないんですが、これ自体も無料でできてしまうものなんです。ウェルスナビのホームページに行くと、この口座開設の所に無料診断というのがあります。
この無料診断でやるのが、実は本番に口座を作った時と同じものです。そして、この出てきた結論が、先ほどもありました円グラフでどの投資信託を何パーセントを買うべきというのが出てきます。
つまり、これを見てあとは自分で当てはめるだけで、このロボアドバイザーと同じことができるということになっています。そう考えると、100万円の1.1万円は、省けるといえば省けますよね。
もっと言うならば、ビジネスモデルとしては、このETFにタダ乗りしたビジネスであるという風にも見えます。実はこのETFはものすごい涙ぐましい努力がありまして、このETFをやっているヴァンガードという会社があるのですが、その会社はインデックス投資、あらゆる市場全体の株を組込むのが運用としては最も素晴らしいという風に考えて、それをいかに顧客に安い手数料で提供できるかということを考えて、地道な努力を積み重ねてきたわけです。
その結果、ETF手数料0.08か0.1%という、ものすごい低額の手数料を達成することができました。
なぜかというと、とにかくたくさんの資金を運用することができれば、資金運用というのは実は金額が100万円だろうと1億円だろうと、100億円だろうとやるコストというのはほとんど変わりません。すなわち、ETFの規模が大きくなればなるほど、1単元当たりの手数料というのを下げることができます。
そうやってこのETFを大きくしてきて、手数料も1人当たりの手数料を限りなく0に近づけることができました。
しかし、ロボアドバイザーがやっているのは、これに改めて1%の手数料を付加したということになります。これはタダ乗り以外の何物でもありません。
この1%というのは、小さい金額に見えるかもしれません。しかし、ウェルスナビは5,000億円を集めましたから、5,000億円の1%で、このETFを組み合わせるという簡単なことをやっているだけで、50億円の収益を得ることができるんです。
ビジネスとしてはとんでもなく美味しいビジネスだという風には思いますが、果たしていかがなものかというところもあります。
ここまでで「1%の手数料を払うようなものじゃないよ」と私が言っていると思われるかもしれませんが、そうではありません。
実は私の結論としては、やって問題があるかというと「問題ない」。むしろ「大多数の人はやるべきものだ」という風に考えています。
言っていることがわからないかもしれませんが、理由をご説明いたします。
Next: それでも大半の人はロボアドバイザーを使ったほうがいいかもしれない
大多数の人はロボアドバイザーを使ったほうがいいかもしれない
大多数の人におすすめする理由として、何より「預金よりマシ」というところがあります。
預金金利は直近のものをチェックしましたが、みずほ銀行10年定期で0.002%と、どう考えても増えません。
それに対してロボアドは、平均的な株式とか債券とかそれらを合わせたリターンが6%程度という風に考えられます。もちろん長期でのリターンに対して1年平均ということです。それに対して手数料1%を概算で持っていかれるというところですから、5%ぐらいのリターンは想定されるのではないかなというところです。
「貯蓄から投資へ」という流れありますけれども、いずれも1回、この口座を開いてしまえば後は何もすることもありません。何もしないのだったら、預金に置いておくよりも、ロボアドに入れておいた方がいいのではないか?というところがあります。
それを自分で組み合わせることもできるのですが、その後もNISAの手続きとかもありますし、その手続きを1%でやってくれるなら安いという風に考える人もいるという風に思います。
さらに特徴は、リバランスで最適化できるということです。リバランスというと先程割合のパイチャートを示しましたが、これで割合が高くなり過ぎたところは、元の設定の割合に合わないからその部分を減らして、別のところに適正な割合なるように移し替えるというものです。
これの何が良いかというと、取れるリスクに応じて割り振っていますから、それがズレるということはリスクを取り過ぎているという風には考えられます。
また、この割合が増えたということはその資産、株だったら株の価格が値上がりしているということなんです。もしこれがバブルだとすると、そこから1回値上がりしたものは、また下がってくるっていうことになります。割合が増えているということは、もしかしたら価格が上がりすぎている、ということになるかもしれません。
そんな時は、この上がっているものから自動的に売るという作業になります。そして価格が下がっているものに入れ替えることによって、トータルでのパフォーマンス、つまり値下がりを回避することができる可能性があるというところであります。
これを自分でやろうと思ったらけっこう大変なので、やはり、1%手数料を払っても良いのではないかという風に考えられるかもしれません。
それから、悪手から身を守るという手もあるのではないかと思います。個人投資家は、考えて積極的に売買しますけれども、その多くは上手くいかない、下手なタイミングで買って、下手なタイミングで売ってということを繰り返すということが珍しくありません。
それに対して、このロボアドのように、ETFを持っているだけで、ある程度のリターンが上がるのだったら、やはりそっちの方がいいのではないかなという風な考え方もあります。
もっというと、少なくとも手数料3%ぐらいする投資信託もあります。それを買うよりも余程マシだという風に思われますし、自分で投資していたらどうしても高リスクの高すぎるものを買いたくなってしまう気持ちが生まれるのですが、ロボアドをやっているから、下手な損失や変な商品を買わなくて済むというところはあると思います。
したがって、自分で積極的に運用したいという気持ちがないのだったら、やはり大多数の人にとっては有益なサービスであるという風に私は考えます。
ロボアドバイザーはあくまでも次善の策
ベストを目指すなら…やはり「下手に動かないのが吉」ということだと考えます。
運用会社のフィデリティは2003年から2013年に顧客のパフォーマンスを調査した結果、成績の良かった人の属性の第1位はなんと「亡くなっている人(すなわち売買をしていない人)」、そして2位が「運用しているの忘れている人」だったと言います。
このロボアドバイザーの特徴としましては、何もしなくていいというところもあります。何なら、口座にログインしてその中身を見る必要すらありません。
それが結果的には良いパフォーマンスを生み出す可能性があるという風に考えて投資を行う、それだったら十分だという風に考えるわけです。
ただし、私はベストではないと考えています。投資して放置することは、あくまで次善の策だと考えています。
なぜかというと、先程リバランスの話をしましたけれども、株が上がってきたら債券に移し替えてということをするのですが、長期のパフォーマンスを見ると、この黒がトータルリターンストップ・インデックス、すなわち株価の配当を再投資した時の数値です。
これは50年のチャートですが、これを見ると圧倒的に株の方が債券を大きく上回っています。
どういうことかというと先程リバランスといって、株を減らすというようなことをしたのですが、確かに短い時間、数年とかの単位で言うと、リーマンショックやITバブルの時のように一気に半分近く下がるということまではあり得るかもしれません。しかし5年・10年・20年という単位で見たら、やはり株の方が必ず上がっているという事実は揺るぎません。
したがって、リバランスなんかしなくても、ひたすら株だけに投資していた方が期間が長くなればなるほど儲かりやすいという風なことが言えます。
Next: 長期投資なら株のほうがパフォーマンスは上になる
長期投資なら株のほうがパフォーマンスは上になる
ここまでいって結論としては、同じ「何にもしない」ということであれば、短い期間だと確かに株はアップダウンあるかもしれないですが、長い期間になればなるほど、確実にプラスのリターンになっている可能性が高い。
それを考えると、10年未満の場合はウェルスナビでリスク許容度、一時的な下落があった場合は、それを回避するというパターンもあります。これは何がいいかというと、いざお金が必要になった時に、その時に買った金額から下落していたことになると、もう損失を確定させてしまいますから、やっていた意味がなかったということになります。
一方で、ずっと使う予定が当面ないお金、あるいは老後の資金なんだけれども老後までまだかなりの時間がある若い方とかだったら、ひたすらも株に投資していた方が増えている、その時に引き出しさえせずに、むしろ追加で投資を行うようなことをすれば、長期でさらに伸びていく可能性が高いということが言えます。
そのために先程も紹介しましたが、1件の投資信託で行うことができます。それがヴァンガード・トータルワールドストップ・インデックスというものです。
この商品は米国株を取引できる証券会社だったら買うことができますし、また似たような投資信託もありまして、楽天ですと楽天VTというものがありますし、SBI証券だと雪だるま全世界株式というものがあります。この辺を、いずれも積立投資で行っていただくと良いかもしれません。
なぜ積み立て投資なのかということについては、一括で投資してしまうと、たまたま高い時だったとすると、1回下がってしまって、そこから元のプラスに回復するまでにはかなりの時間を要してしまいます。そういったリスクを避けるために積み立て投資、すなわち購入時期を分けるということをするんです。
今、仮に少し買ってしまったとしても、もう1回下がったとしたら、下がった時にも買えてトータルでの購入金額というのを抑えることができるというものになっています。そして、リスクを回避するということになります。これは「ドルコスト平均法」と言われることなので、もし初心者の方でまだその部分についてご存知ない方は、ぜひ「ドルコスト平均法」という言葉を勉強していただければと思います。
もちろん、ここで紹介したものはあくまで思考停止、何もしたくないし難しいことはわからないといった場合には、これをやるという類のものです。あるいは、将来の年金のためにリスクをなるべく避けて、一方で増やしたいという風な考え方をする人にとっては、最適な手法ということになります。
大きく増やしたり、あるいは株式投資によって経済などについてもっと知りたいという方は、ぜひ個別株への投資もおすすめするところです。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年8月13日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。