米国連邦準備制度理事会(FRB)の利上げシナリオが継続しているのか、市場が見るようにFRBはもう利上げができなくなったのか、このどちらかによって、世界の市場は大きく変わります。そのヒントが4/28未明に終わるFOMC(連邦公開市場委員会)での声明文に見られるかもしれません。そのどこを見るべきか、以下に注目ポイントを示します。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
クルーグマン「サブプライムに匹敵する脅威」 米利上げ足枷に
FRBが無視できない2つの債務問題
FRBの基本姿勢が変わったかどうかを探るポイントは、これまでの「市場の不安定」や「海外景気の減速」ではなく、2つの債務に対する基本認識如何という面があります。
1つはシェール企業など、エネルギー部門の債務に対する危機感、もう1つは急増する中国の債務に対する認識です。
シェール企業のジャンク債問題
まずエネルギー部門の債務について、ノーベル賞経済学者のP.クルーグマン教授が26日のNYタイムズに、「サブプライムに匹敵する脅威」と言い始めました。FRBのバーナンキ前議長は、サブプライム問題に対して、2007年時点でも「大きな問題ではない」と認識していたことが責められています。すでに住宅価格が下げはじめ、問題が出ていたのに、と言われます。
シェール企業の信用度は多くの場合低く、原油価格が100ドルのころに債券発行したものが多いと言われます。それが40ドルに下落すれば、原油販売収入で債務を償還する力は、返済能力のない個人がローンを借りるのと大差がありません。
シェール企業が発行する債券(多くはジャンク債)は2000億ドルともいわれ、このほかに銀行借り入れもあります。
これは米国だけでなく、ベネズエラのドル建て債務をはじめ、産油国、資源国の債務にも同様の問題を投げかけていて、ベネズエラの債券を取り扱うゴールドマン・サックスが原油市況に影響を与えかねないFRBの利上げに強く反対したともいわれます。
これら債務の返済を可能にするには、資源価格を回復させる必要があり、それには金融緩和の継続が必要となります。
利上げが債務危機のトリガーになる恐れ
この2か月にわたって意図的に原油価格を上げるべく、様々な努力がなされました。ドーハでの増産凍結会議の演出や、OPEC首脳による減産合意への期待発言などです。それでも需給が日量200万バレルも生産余剰にあるもとでは、なかなか価格の押し上げは容易ではありません。
そこへFRBの利上げがトリガーとなって債務危機が生じる事態は避けたいところです。
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「リーマン級」クラッシュも。FT紙が報じた中国の債務危機
もう1つの債務問題は中国です。FT紙は25日、中国の3月末の総債務がGDPの237%に達したとの試算を出しました。この水準自体高いのですが、FT紙が問題にしているのは、この上昇テンポが急なことで、例えば2007年末は148%でしたから、この間、毎年10%ポイント以上高めてきたことになります。
足元も名目GDPが5%台の成長に対し、債務は15%以上増えています。
中国の債務については多くの数字があり、BIS(国際決済銀行)の数字では、昨年9月時点で、中国の債務はGDPの249%、米国が248%、ユーロ圏が270%となっています。発展途上の中国がすでに欧米の債務水準に達していて、これは日本型の「失われた20年」になるか、リーマン・ショックをもたらすか、の危機にあるとの認識です。
2つの米国
米国がネオコン主導の時には、FRBが中国に配慮して利上げを遠慮する必要などなく、むしろ戦略的に利上げで中国経済を弱めることも意図されました。
しかし、昨今の米国からは、中国に対してこれまでよりソフトな対応が見られるようになり、CFR(外交問題評議会)の影響力を伺わせるものがあります。
彼らはFRBの利上げが中国経済の混乱を起こす事態は望まないと思います。
金融政策に対して依然としてネオコンが影響力を持っているなら、米国のシェール企業が借り換えを乗り切れば、中国にお構いなく利上げ再開となるでしょう。
しかしCFRが影響力を強めれば、これら債務問題が簡単には片付かないので、利上げはしばらくできないことになります。
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6月利上げ再開はあるか?FOMC声明文のここに注目
もっとも、FRBの声明文にはネオコンもCFRも登場しません。中国やシェール企業の債務に直接言及することもないと思います。
そのなかで米国景気の堅調、インフレの改善が記述され、利上げシナリオを正当化するような書き方なら、ネオコン主導で6月にも利上げ再開となります。
逆に、(中国を念頭に)海外経済が依然として不安定なことが強調され、原油価格など資源価格の弱さや市場の不安定が強調されるようであれば、CFRの影響力台頭と読め、利上げはしばらくできないというマーケットの読みを追認することになります。
利上げ示唆ならドル高株安に、後者なら円高ドル安で米株価は高値維持、ということでしょうか。
『マンさんの経済あらかると』(2016年4月27日号)より一部抜粋
※太字はMONEY VOICE編集部による
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金融・為替市場で40年近いエコノミスト経歴を持つ著者が、日々経済問題と取り組んでいる方々のために、ホットな話題を「あらかると」の形でとりあげます。新聞やTVが取り上げない裏話にもご期待ください。