東京五輪が終了しても続くコロナ禍のなか、日本全体が不感症に陥っているように思われます。それは議員たちも同じで、30%を切った内閣支持率にも政界は動揺しているようには見えません。しかし、その中で派閥の領袖たちだけが「菅おろし」に向かってうごめいているようです。(『ビジネス知識源プレミアム』吉田繁治)
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日本社会のアパシー(不感症)化
アパシーとは、何事にも感情が、活き活きと動かなくなった状態を言います。うつ病の症状ともされます。
多少極端な表現ですが、日本では、2021年の大きな政治的行事とされていたオリンピックのあと、社会的な「アパシー(不感症)」が起こっているように感じています。
要は「反応が鈍い」のです。
<メディアも反転>
パラリンピックを前にした緊急事態の9月12日までの延長は、政府寄りだったメディアすらも、その効果を疑うように変化しました。
メディアも世論調査を見て、政権への態度を変えます。
内閣への支持率が下がると、空気の流れで動く風見鶏のように、政権非難に転じます。
自民党内は、表面は、平穏に見えます。しかし、裏では「菅おろし」寸前に来ているようです。
<菅自民党総裁の理由>
菅首相は、安倍派(細田派:61名)、麻生派(42名)、そして二階幹事長(二階派は37名)の得意な寝技での派閥まとめから、安倍首相辞任のあと、20年9月に誕生しました。二階幹事長は、面妖な人物です。
菅首相の目論見は、五輪の強行を通じて政権への支持率を高め、9月初旬に自分の手で衆議院を解散し、自民+公明で過半数で政権の認証を得て、無投票で自民党総裁を続けることでした(元朝日新聞記者:佐藤章氏情報)。
<危機ラインの内閣支持率>
ところが、五輪のあとの政権支持は、危機ラインの29%(NHK)に下がり、7月までの予定は雲散霧消しました。
自民党の沼から、突然、高市早苗氏の総裁選立候補が浮上しました(文芸春秋10月号:発刊は9月1日)。高市氏は安倍派です。安倍前首相から内々に言われることがないかぎり、立候補は表明できません。安倍前首相は、NHKの世論調査を見て、突然、反旗を上げたのです。
同時に、ワクチン大臣の河野太郎氏を擁する麻生副総裁(財務大臣)も、安倍氏に同調しました(佐藤章氏情報)。
このときに、派閥を持たない菅首相の次期総裁(3年)の根拠は消えました。もともと安倍氏(細田派)と麻生氏(麻生派)の支持で総裁になっていたからです。
高市氏は、自民党の政局では必ず出る「当て馬」でしょう。
本命は、国民の人気が高い河野太郎氏(麻生派)でしょうか。
本命はギリギリまで出ず、国民にサプライズを与えるのが過去からの手法です。
Next: 次期総裁は河野太郎氏か。支持率低下を傍観する自民党員の本音は?
人気者の総裁を担いで選挙に挑みたい自民党
総裁変更の目的は、低い支持率の菅首相のままなら、約50名は減ると予想される自民の議席を、減らさないことです。
国民の人気が高い総裁で11月選挙に突入しなければならない。
その前に、カギになるのが、横浜市長選です(8月22日が開票日)。9人が立候補した混戦。菅首相は、小此木(おこのぎ)氏を推しています。横浜(人口372万人)は小此木家~菅氏の地盤です。
ところが、コロナ失政の政権への不人気から、立憲民主が急遽立てた、山中竹春元横浜国立大学教授が、「相当に」リードしているようです。
ここで、小此木氏が敗れると、政局は動くでしょう。
※参考:【菅義偉】8.22横浜市長選が菅首相にトドメを刺す! まさかの野党候補リード – 日刊ゲンダイ(2021年8月14日配信)
菅首相は、安倍氏と麻生氏の動きは知っています。安倍氏と麻生氏が反菅になれば、負けが決まった総裁選には出ることはできない。あるのは、8月23日から31日までの辞任でしょう。
<横浜市長選の結果は8月22日(日)午後8時>
横浜市長選で小此木氏が負ければ、菅氏を支持してきた自民党も、11月の衆院選を戦えないという声が、澎湃(ほうはい)として起こります。
総裁にしてくれた安倍・麻生氏の支持を失い、自民党内でも「菅おろし」が起これば、菅首相には辞任の道しかない。
アフガン敗戦(政権の崩壊)から、急に危うくなってきたバイデン大統領とおよそ同時に、菅首相も辞任の可能性が高い。
バイデンの辞任はまだ不明ですが、横浜市長選の結果をきっかけに、菅政権崩壊の可能性は、高いでしょう。次期総裁は、河野太郎か。
危機ラインの内閣支持率でも、表面上は平穏に見える政界
自民が重視しているNHKの世論調査では、コロナ対策での失政を認識する国民が増え、菅内閣の支持率は29%に下がっています。
特徴は不支持率が52%と高いことです。普通の時期なら、30%以下の支持率は、政権の危機になり、首相おろしが起こります。政権の争いを政局(Political Affairs)ともいう。
ところが、野党への期待は低い。これが、危機的な支持率にも自民党議員が安閑としている理由でしょう。
菅内閣の特徴は、官僚と議員の強い統制です。政策への反対意見をいえば、ポストをはずされます。反旗には、その覚悟が必要ですが、議員個々にはその骨はない。そこで、派閥の領主が徒党を組む。
20年9月発足以来、菅内閣が前月比で支持を高めたのは、21年の3月・4月だけです。ワクチンへの期待が高まった時期でした。
※参考:NHK世論調査 内閣支持率 | NHK選挙WEB(2021年8月10日配信)
あとの10か月は、支持率を減らしています(※筆者注:歴史的には森内閣の9%、鳩山内閣の14%が最低の支持率でした)。
Next: 本格化する「菅おろし」、自民党は誰の顔で戦うのか?
衆議院議員の任期は21年10月21日
週刊文春の選挙予想では、自民党が約50議席を減らし、単独過半数(233人)を割るという「危機」が示されています。
議員にとって、議席を失うこと以上の恐怖はありません(会社からクビになることと同じで、職もなく路頭に迷う。就職は無理)。
自民党内は、表面上は奇妙に「平穏」です。菅首相は、現総裁が次期総裁選に出るのは当然という。議員もアパシー(不感症)に陥っています。
内閣の支持率が大きく下がって、同時に支持が減った野党も同じです。
野党の支持率は政権交代にはほど遠い?
自民が23.7%(前月比だけは+2.3ポイント)、公明4.5%(同+2.0ポイント)、立憲民主は、公明党より低い3.9%です(同−0.6ポイント)。日本維新2.0%、共産1.3%、社民0.3%、れいわ0.2%、支持政党なしが61.4%となっています。
※参考:内閣支持、横ばい29% コロナ対応「評価せず」半数超―時事世論調査:時事ドットコム(2021年8月13日配信)
支持政党なしの61.4%は、米欧に比べ異常に高い。これは、もともとの無党派(約40%)ではない。コロナ下の1年の自民党と立憲民主に、同時に愛想を尽かして離れたのです。
自民が−10ポイント、立憲民主が−5ポイントか。東京五輪開催による、政権と自民党支持の回復はなかったのです。
ところが、野党の支持率は、政権交代ができる体(てい)をなさないレベルです。自民の支持が23.7%なら、立憲民主は最低でも、その半分の12%でなければならない(現在はその1/3しかない3.9%)。
野党の支持率の低さのため、政権の争いは、冒頭に書いた自民党内の「菅おろし」になります。
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『ビジネス知識源プレミアム:1ヶ月ビジネス書5冊を超える情報価値をe-Mailで』(2021年8月18日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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