コロナ感染爆発とも言える今の状況に、ワクチン一辺倒で進んできた政府は次の手を打てずにいます。医師の数は足りているのに、その使い方が偏っているために医療崩壊が起きています。国民の命を脅かす「危機」にもかかわらず、国民や企業にお願いするだけで、打つべき手を打たなかったところに政府の失敗の本質があります。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
ワクチン依存の限界
菅政権がコロナ対策の切り札と期待するワクチン接種が、少なくとも1回の接種を終えた人が6,000万人をこえ、2回の接種を終えた人も4割近くになろうとしています。
ワクチン接種に期待したのは、日本の株式市場も同様で、接種率が1割を超えたあたりからワクチン効果を期待しての「買い」が膨らみました。
ところが、その一方で、新規感染者数は減るどころか、爆発的に拡大を続け、先週末にはついに全国の新規感染者数が1日2万人を超えることとなりました。
そしてこの感染爆発とともに、重症患者数も急増、入院患者を選別せざるを得ない医療ひっ迫を全国的に招いてしまいました。医療の現場からは、とにかく感染者を抑えないことには医療が崩壊するとの危機感が高まっています。
こうした状況に、政府は打つ手なしで、専門部会も感染者を減らすために人流の5割減を要請するも、具体策は打てません。
五輪期間中にラムダ株が潜入し、やはり日本の水際での管理体制の甘さが露呈しました、デルタ株、ラムダ株に対して、ワクチンがどの程度有効なのかの不安は多く、日本よりも接種率の高い米国では、間もなく1日の新規感染者数が20万人に達すると見られています。
イスラエルでは3回目のブースター接種が始まり、英国、米国でも3回目の接種が議論されています。これまでのワクチン効果に対する期待が急速に冷え込んできました。日本では3回目接種の議論の前に、打ちたくても打てない人をまず考えろ、との議論が広がっています。
株式市場もこの感染爆発、医療崩壊をに影響され、株価が下落するケースが増えてきました。
政府はワクチン一本槍で来ましたが、その接種も進まなくなりました。ワクチン偏重の「一本足打法」が限界に突き当たったことを示唆しています。
医療体制の崩壊
ワクチン一辺倒の政策を進める間にも、医療ひっ迫が急速に進んでいます。
この春には関西で自宅療養中の患者が多数命を失い、「救える命が救えない」状況を目の当たりにしました。
東京など首都圏でも、この間、病床を増やしたものの、すでに入院患者を選別しなければならないひっ迫状態にあり、入院調整中の患者、自宅療養を余儀なくされている患者が何万人にものぼっています。
自宅でもホテルでも、必要な時に医者に診てもらえる体制ならまだしも、病状が悪化しても、保健所にもフォローアップセンターにも連絡がつかず、救急車で何時間もたらいまわしされるケースが増えています。受け入れ病院がなく、自宅に戻されるケースもあると言います。
唯一、治療薬として承認した抗体カクテルも、入院患者にしか使えず、数も少なく、自宅やホテルで療養する本来の需要者に届かないという矛盾を露呈しました。
こうした批判を受けて政府は、品川プリンスホテルで抗体カクテルの治療実験を行っています。これが成功した後は、多くのホテルでカクテル治療ができるよう、体制づくりを急ぐ必要があります。
Next: バブル方式は機能せず。ワクチン一辺倒の政府が引き起こした医療崩壊
医療資源が足りないのではなく、使い方が偏っている
日本ではコロナ患者の受け入れる機関と、そのほかの医療機関との間で、繁閑の差が著しく大きくなり、医療の非効率がひっ迫の一因になっています。
コロナ患者を受け入れない医療機関では、患者が減り、経営が成り立たないところも出ていると言います。
医療資源が足りないのではなく、その使い方が偏っていて、非効率がひっ迫の大きな要素になっています。これもコロナ対策失敗の大きな要因です。
福井県やほかの国では「野戦病院」を急いで立ち上げ、ここでコロナ患者を診る体制を作っています。
日本では一部を除いてこうした対応が遅れ、一部の医者が昼夜を問わずコロナ患者の自宅を訪問して医療にあたるなど、非効率が目立ちます。
余裕のある一般医療機関をどのように活用するか、医師会は政府と協力して、この危機を打開して欲しいと思います。
必要なら五輪施設、体育館などの公共施設を、臨時のコロナ受け入れ機関として用意することも必要です。
同時に、専門医療機関に入院できない人にも治療できるよう、今ある治療薬を「危機対応」として緊急承認し、リスクを説明の上で、希望者には投与できるようにするだけでも不安は軽減できます。
政府・医師会にはまだ医療危機を回避する手立てはあるはずです。
機能しなかった東京五輪のバブル方式
そして「安全・安心」をうたった五輪を開催しましたが、やはりこの間に感染が急増しました。
五輪関係者の感染が400件余り発生し、「バブル方式」も防御壁にはなりえず、懸念したラムダ株の侵入を抑えられませんでした。
チリからの入国者がラムダ株を持ち込み、空港の検疫をスルーしてしまいました。これもコロナ対策失敗の大きな要素です。
日本の水際対策が万全でないことは指摘されていて、そのうえで新たな「敵」の侵入を防ぐには、海外からの人の流入を封鎖するか、全豪オープン時のように、2週間の隔離徹底、選手や関係者の外出禁止など、厳しいルールが必要でした。
それが皆ゆるゆるのルールのもとに運営されたため、海外からのウイルスが持ち込まれ、感染拡大につながった面は否定できません。
Next: コロナと共に生きる長期戦を覚悟した戦略に切り替えるべき
抜本的な対応変更が必要
結局、ワクチンでも感染を防げず、感染防止策を打ち出すこともウイルス潜入防止もできなかったせいで、日本はコロナとの長期戦を余儀なくされています。
アフター・コロナを考える前に、コロナと同居する前提で、いかに国民の命と健康を守るかを優先するしかありません。これまでの「平時」の対応を捨て、「危機モード」に切り替える必要があります。
政府や小池知事も口では「災害級」「危機」と言いますが、やっていることは平時の対応で、国民企業にお願いするだけ。
その国民も企業も、もはや政府や都知事の言うことを聞かなくなりました。信用を失ったためです。それを法改正で政府の統制力を強化しようとの動きがありますが、本末転倒です。
太平洋戦争の失敗を繰り返さないよう、長期戦が可能な戦略に切り替える必要があります。
コロナ疾病に協力する医療機関が限られるなら、公共施設を利用して「野戦病院」を確保し、少なくとも自宅に放置する事態は回避しなければなりません。
それでもカバーできない療養者には、本人の希望を確認したうえで、イベルメクチンやアビガンなどコロナ治療薬の投与を考え、医師との緊急連絡システムを確保する必要があります。
国民の命を脅かす「危機」にも拘らず、国民や企業にお願いするだけで、打つべき手を打たなかったところに政府の失敗の本質があります。
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『マンさんの経済あらかると』(2021年8月18日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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