業務スーパーを手掛ける神戸物産の快進撃が続いています。その背景には、業界の常識を覆す型破りな3つの成長戦略がありました。この勢いは続くのか?神戸物産の新しい取り組みとともに今後の成長性を分析します。
プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi
時価総額1兆円超え「業務スーパー」の快進撃
「業務スーパー」を手掛ける神戸物産<3038>の大躍進が続いています。兵庫に本部を置き、主力の業務スーパー事業のほかに、外食・中食事業なども展開する神戸物産。私自身は、関西出身であり、「一般のお客様 大歓迎」この看板を目印に、学生時代からよく利用していました。今や全国区となった「業務スーパー」の成長の全貌をお届けしましょう。
株価は右肩上がりで、8月9日には年初来高値を記録。足元の時価総額は1兆1,500億円を超えています。店舗数も、前年から64店舗増加し、928店舗と、1,000店舗に迫る勢いです。テレビ番組をはじめとする各種メディアや、SNSなどの影響により、従来からの顧客に加え、新規の顧客の来店につながり、売上高の増加が続いています。
自宅での食事の時間が増えたことで「冷凍ほうれん草」「揚げなす乱切り」をはじめとした冷凍野菜のほか、「ベルギーワッフル」や、新商品の「モンブランムースケーキ」といった冷凍デザートなどが好調です。
神戸物産が6月11日に、21年10月期第2四半期の決算を発表し、売上高が1,764.37億円(前年同期比0.2%増)、営業利益が143.87億円(同16.1%増)、経常利益は151億円(同21.9%増)に伸び、増収増益を達成しています。
次の決算は第3四半期決算で2021年9月13日に発表される予定で、注目が集まります。
あらためて、神戸物産のここまでの業績推移を見てみましょう。
直近2年間で営業利益が毎年約40億円ずつ拡大する、凄まじい成長を遂げています。今期の着地は、約50億円拡大する見通しです。
タピオカを当てた「一発屋」だと思っていませんか?
神戸物産が展開する「業務スーパー」の名を一躍有名にしたのは、コロナ以前の「タピオカブーム」です。
確かに、業務スーパーで販売されていた冷凍タピオカは、タピオカブームの中で売り切れ店が続出した大人気商品です。多くのメディアでも取り上げられたことで、業務スーパーがプロ専用の店ではなく、まさに、「一般のお客様 大歓迎」と日常生活で利用しても良いということが、広く認知されました。
しかし、タピオカのバカ売れだけではない、並々ならぬ企業努力があるのです。一般の消費者に愛される理由は「品質が良く、美味しいものを、安く購入できる」点です。
その強みを発揮できる独自の取り組みが、以下の3つです。
1. 独自商品の開発に力を入れる体制
2. FC展開により、高利益率を保つ
3. 「食の製販一体体制」を掲げる製造小売(SPA)企業
それぞれ、解説していきましょう。
Next: 戦略は型破り?なぜ個性ある商品を生み出し続けられるのか
なぜ個性ある商品を生み出し続けることができるのか
「業務スーパー」と言えば、ユニークなプライベートブランド(PB)商品の展開でも有名です。
「牛乳パックデザート」と言われる、牛乳パックに「水ようかん」「杏仁豆腐」「珈琲ゼリー」などを入れて冷やし固める面白さからファンも多く、SNSではアレンジレシピなども紹介されています。
実は、この「牛乳パックデザート」のような、PB商品は「業務スーパー」の柱となっています。
2020年10月期を初年度とする、3カ年の中期経営計画の基本方針では、「PB商品を強化し、基幹事業である業務スーパー事業の拡大を目指す」を1番に掲げていることから、PB商品の強化は、同社のカギだと言えます。
神戸物産では現在、季節限定商品を含めて約300アイテムのPBを展開しており、PB比率は33.01%で、その数は増え続けています。
神戸物産は、PB商品を製造するために、ノウハウを持つ工場を次々と買収しています。これによって、本部で開発した商品を、傘下に置いた工場で製造するサイクルを生み出しています。
今後、このサイクルをさらに拡充することで、競合との差別化を図り、業務スーパー事業を拡大させていく考えです。
「工場を手に入れる」。これが、個性あるPB商品力の生命線となっています。
小売りチェーンは「工場を持たない経営」が理想とされてきた中で、神戸物産は経営不振の工場を買収して再生し、大容量で低価格の独自商品を生産する道を選び、成功を収めています。
業界のあたりまえを覆す「非常識力」がむしろ強みとも言えます。
特に、同社のM&Aは、基本的には取引先で経営不振になった企業の工場などを救済する形が多く、そのため、元手がかからず、業務スーパーのことを理解している工場と直接取引ができるというメリットがあるようです。
直近でも、続々と工場を買収しています。
2020年4月に岡山県のスイーツ工場を取得、7月に神奈川県で食肉加工工場、2021年1月に宮城県で食品製造工場を稼働させたことにより、国内のグループ工場数は24工場に。食品スーパーとして、その所有数は日本最大級です。
それらの工場で、業務スーパーにしかない「オリジナル商品」が生み出されています。
Next: フランチャイズ展開も“非常識”、ロイヤリティは仕入額のたった1%
フランチャイズ展開も“非常識”、ロイヤリティは仕入額のたった1%
業務スーパーは、フランチャイズ店舗展開(926店舗FC・2店舗直営)をビジネスモデルとしています。
しかし、神戸物産のロイヤリティは、仕入れ額のたったの1%ですが、営業利益率は8.2%と他の商品スーパーに比べて高利益率を誇る。
成長の本質は「業務スーパーの仲間を増やす」こと。
仲間を短時間でたくさん集めるために、FCロイヤリティーを低くし、FCオーナーに裁量の幅を持たせて自由に経営させる。
そして、店舗の利益が上がるように、効率化をしたほうがいいところは、本部のやり方を取り入れてもらう。そんな方針です。
業務スーパーは、最初の頃は「お酒」を扱っている店舗が多かったです。実際、酒販店が業務スーパーに業態転換したケースが多く、もともと店舗運営しているところが「業務スーパー」の仲間になっていきました。その場合、すでに仕入先が決まっていたり、もともとの商売の繋がりがあります。その繋がりをFCに加盟したことで、一掃するのではなく、むしろ強みとして続けてくださいという姿勢です。
業務スーパーの加盟店は、本部に申請すれば加盟店で独自の仕入れができるようになっており、業務スーパー商品を扱いながらも、もともとの酒販を続けることができる仕組みになっています。
業務スーパーがどんどん増える仕組み
そして、さらに、ここから「仲間を増やす仕組み」があります。FC加盟店がフランチャイザーになれるのです。フランチャイザーとは、加盟店を募集する企業であり、本部機能を持つ立ち位置です。神戸物産から見れば、FC店舗の下に、さらにFC構造は広がる形となっています。
FCが自前のFCの仕入れや物流を担うため、業務スーパーの店舗拡大をさらに加速する仕組みとなっています。こんな、驚きの“ゆるい”構造が認められているのです。
一方で、神戸物産は商品供給と店舗の運営を徹底してサポートをしています。例えば、物流センターからの流通は「段ボール」で運ぶことを決まりとして、バラバラと袋単位では運ばない決まりです。
店舗の冷凍ケースや棚のケースも「業務スーパー」オリジナル設計となっていて、陳列労働を効率化させています。いったんバックヤードから出したものは棚に出し切る「ワンウェイ方式」を徹底しています。
店舗内の陳列の効率化が徹底することで、品質の良いものを安く提供できるのです。ここは、“ゆるく”ない。効率化を徹底することが、FC店舗の為にもなるわけです。
Next: まるで食品業界の「ユニクロ」。製造小売(SPA)で高成長が期待できる
業務スーパーも取り入れていた!製造小売(SPA)企業
ユニクロが取り入れていることで認知度が高い「製造小売(SPA)」ですが、「業務スーパー」も企画から製造・販売までを垂直統合させるSPAを取り入れています。
ここまで述べてきたとおり、ノウハウを持った工場を手に入れ、ユニークなPB商品を製造し、仲間であるFC展開に商品を提供するまさに食のSPA化です。
この先の成長性は、中期経営計画の目標値は2022年10月期の目標は、売上高3,580億円、営業利益260億円としています。
デルタ株によるコロナ感染拡大で再度首都圏などに緊急事態宣言が発出される中で、改めて巣ごもり需要などが意識されていますが、特需という一過性要因によらない、中長期的な成長が見込める企業として注目度が高まっています。
AIを活用する新しい取り組みも
そして、神戸物産は新しいステージに入ってきています。ソフトバンクと業務提携を行い、AI活用による次世代型スーパー「業務スーパー天下茶屋駅前店」(大阪市西成区)を実験店舗としています。
そこでは、具体的な取り組みとして3つを挙げています。
1. AIカメラで品切れを自動検知
2. 消費者が選んだ商品に応じてオススメ商品やレシピを提案する「レコメンドカート」導入
3. AIを活用してレジの待機人数を予測
(1)については、陳列棚の映像をAIカメラで解析し、品切れを自動で検知してスタッフに知らせるシステムを導入することで、消費者はスムーズに買い物を楽しるとしています。店舗側は、スタッフの業務量や人件費を削減することが可能で、業務スーパーの強みである「ローコストオペレーション」のさらなる強化を実現できることになります。
テクノロジーの力を取り入れることで、次のスケールのステージに入ってきている神戸物産。消費者のニーズをより一段と取り入れることで、さらなる成長が期待できます。
本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年8月26日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による