27日のジャクソンホールにて、パウエル議長は「雇用」よりも「物価」について、特に強調して講演。米国のインフレは5つの理由から「一時的」との見方を示しました。依然としてバブル的な相場に賭けた方が目先の勝率は高そうです。(『徒然なる古今東西』高梨彰)
日本証券アナリスト協会検定会員。埼玉県立浦和高校・慶応義塾大学経済学部卒業。証券・銀行にて、米国債をはじめ債券・為替トレーディングに従事。投資顧問会社では、ファンドマネージャーとして外債を中心に年金・投信運用を担当。現在は大手銀行グループにて、チーフストラテジスト、ALMにおける経済・金融市場見通し並びに運用戦略立案を担当。講演・セミナー講師多数。
パウエル議長は雇用より「物価」を重視
27日に行われたジャクソンホール会議でのパウエルFRB議長の講演は、ハト派(金融緩和を積極的に支持)と受け止められました。インフレ率上昇が「一時的」と、これまでの主張を繰り返したためです。
これは市場参加者が注目する金融政策に関するFRB議長の講演でして、「雇用と物価」に関する記述が主となります。
しかし、その分量には大きな差がありました。原稿をみると、雇用に費やした文字数は約200。対して、物価のほうは約1,000文字。5倍の差です。
5倍の分量で物価動向を示し、しかも、インフレ率上昇は一時的との見方を示しました。
米国インフレが「一時的」と言える5つの理由
その根拠として、パウエル議長は5つの項目を挙げています。以下、並べます。
1. 広範なインフレ圧力は発生していない
2. 直近、インフレ率が上昇した中古車などの物価は落ち着きつつある
3. 賃金上昇率も想定内
4. 長期(何年か先の将来)のインフレ想定も落ち着いている
5. 今四半世紀に見られた、世界規模なディスインフレ(低めのインフレ率が続く)傾向が拡がっている
特に5つ目の世界的な低インフレ傾向は、日本にいれば納得しやすいところです。事実、パウエル議長が講演に使ったグラフには、日本を含む主要通貨圏(ユーロ圏・カナダ・スウェーデン・スイス)のインフレ率が使用されていました。
「アメリカだけが高インフレってのも可笑しいでしょ」とでも言いたげです。
ただ、新興国、韓国などでは、すでに利上げが始まっています。巷の物価上昇や不動産価格高騰に対抗したものです。
パウエル議長の言う「グローバル」な物価動向の落ち着きは、あくまで米・欧・日限定のもの、とも言えまして、この辺に論の危うさがあります。
まぁ、ユーロ圏や日本の物価上昇率がなかなか上がらないのも事実なんですけど。
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先進国全体の低インフレが続く限り、米株指数最高値挑戦の旅も続く
パウエル議長の原稿も示すように、今後もインフレ動向が世界の中銀にとっても金融市場にとってもカギです。
換言すれば、ユーロ圏や日本等の物価が上がらなければ、アメリカの物価上昇も一時的、金融緩和傾向継続から、年末には米株は再び最高値挑戦の舞台となる、とも。
Fedによる資産買い入れの規模縮小が年内に開始する、ともパウエル議長は述べました。これもインフレ率上昇を抑える要因、かつ、おカネの蛇口は開き方が細くなるだけ。引き締めが始まる訳ではありません。
依然としてバブル的な相場に賭けた方が目先の勝率は高そう。先進各国の低インフレ環境が最後の砦として、十年単位の強固さを誇り続けます。
今回のまとめ
・パウエル議長のジャクソンホール会議講演、物価への言及は雇用の5倍
・インフレ率上昇は一時的との根拠を5つ掲げて解説
・先進国全体の低インフレが続く限り、バブル的相場、米株指数最高値挑戦の旅も続く
『徒然なる古今東西』(2021年8月30日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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