私自身はバリュー投資家を自認しているのですが、こうやってバリューにこだわっていると、どうしても低PERの銘柄にばかり注目しがちです。しかし、低PERにこだわるばかりに失敗してきたこともしばしばありました。今回は低PERにこだわらず、グロース株と言われる高成長株を買うには、どういう基準を設ければいいのかについて説明します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
バリュー投資家がよく落ちる「低PER」3つの落とし穴
まず、低PERにこだわる弊害と言いますと、思いつくところで3つ挙げさせていただきます。
<低PERの弊害その1:バリュートラップ>
PERが低いからという理由で買うと、やがてはその低いPERが解消されて株価が上がるということを期待するのですが、いつまで経ってもその低いPERが解消されないということが起こり得ます。下がらないにしても、ずっと上がらないというような状況が続くことがあります。
これがバリュートラップと呼ばれるもので、バリュー投資家が陥ってしまいがちです。
<低PERの弊害その2:金融相場での劣後>
まさに私がここ最近で経験したところでもあるのですが、金融相場すなわち今みたいに金融緩和で金利が引き下がるという局面になると、どちらかというと高成長でPERが比較的高い銘柄の方は株価が上がりやすい傾向があります。
これは金融理論の勉強していれば、自ずとそういう形になってくることがわかるのですが、とにかく低PERばかりの銘柄に寄ってしまうと、今みたいな相場でどうしても儲けられないということが起きてしまいがちです。
<低PERの弊害その3:良い銘柄なのに、PERが高くて買い時を逃す>
私が今回、主に注目したいのはこの3つ目のところなのですが、企業の分析をしていて、この銘柄はすごい成長していると思いながら、一方でPER20倍とか25倍そういったものに出くわすことがしばしばあります。
バリュー投資家の観点から言うと、PER25倍は少し高いという風に思ってしまって、ついつい買いを見送ってしまうということがあります。
しかしそういった銘柄に限って、その後も株価が順調に伸び続けるということがあります。
業績自体は成長しているので本当に悔しい思いをしているわけです。
例を言うならば、直近ではエムスリーはコロナ前に非常に注目していて、経営自体は99点だというようなブログもアップしたのですが、それにも関わらず買っていなくて、その後の大幅な上昇を逃してしまったということがあります。
Next: バリューかグロースか。本当に“良い企業”なら高PERでも問題なし?
本当に“良い企業”なら高PERでも問題なし
バリューが成長に劣後しているというのは、このグラフでも表されていまして、これはフィナンシャルタイムズの引用ですが、赤で示されたものがS&P500バリューと呼ばれるもので、青がS&P500グロースと呼ばれるものです。
これはアメリカの指標ですが、多くは日本でも同じようなことが起きていると考えてください。
ずっとこの「バリュー」と「グロース」というのは、上に行ったり下に行ったり、どちらかが良くてどちらかが悪いという期間が続きました。
特に顕著なのが、例えば2000年前後のITバブルにおいては、グロース株みたいなのは、一時はバリューを上回るのですが、その後、今度はITバブルの崩壊、あるいはリーマンショックの時などには、このグロース株というのは逆に大きく下がりやすい傾向があります。
したがってこの2000年前後では、グロース株は一旦大きく上がったのですが、その後、下がって、さらには2008年リーマンショックがありましたから、比較的堅調だったバリュー株に比べて、このグロース株というのは後塵を拝していました。
ところがリーマンショック後に、金融緩和が進んでいる状況でもあったので、特にこのグロース株が強くなってきました。
ましてこの足元のコロナ禍では、金融緩和の継続によって、さらにグロース株が伸びるという展開になりました。
また単に金融緩和の話だけではなくて、グロースというと、特に素晴らしい企業に関してはその成長が継続するというところがあるんです。
バリュー株はどうやって株価が上がるのかというと、基本的にはPERが上がることによって株価が上がるということを期待します。
これを「割安感の解消」とも言います。
今、PER10倍で取引されている銘柄が、この銘柄悪くないのではないかということで15倍で取引されるようになったとしたら、50%の上昇ということになります。
その中で、一方で多くは利益成長を見込んでいないのではないかと思います。
グロース株についてはPERがすでに25倍、30倍というような高値で取引されていることもありますから、さらに上がるというのはファンダメンタルズ的には期待しないということになります。
もっとも、短期的なトレーダーの話では、20倍、30倍、40倍であろうが、さらに上がるという風に考えて取引する人もいるのですが、長期投資やファンダメンタルズの観点からは期待してはいけないというところになります。
ただ一方で、PERが上がらなくても利益が成長することによって、PER30倍のまま利益成長にしたがって、株価が上がっていくとこういったことを考えるわけです。
先ほどのバリューとグロースのチャートを示しましたけれども、バリューは実はこの上昇というのが一瞬で過ぎてしまうという可能性があります。
PERの上昇というのは1回ですから、10倍が15倍になって、基本的にはそれで終わりです。
Next: ウォーレン・バフェットの金言に高成長株を買うヒント
素晴らしい企業をそこそこの価格で買う
一方でグロース株というのは成長がどこまで続くかわからないのですが、これが続く限りは株価が伸びやすいということになります。
強い企業がどんどん強くなるという傾向が最近続いています。
例えばGoogleとかマイクロソフト、それからアマゾンなどです。
そういったところは、もともと強いのですが、それが世界に拡大するということで、どんどん利益を伸ばし、時価総額を伸ばして、世界の時価総額ので大部分を占めるようなことになってきました。
つまりグロースは、さらにグロースを生む、というそういった展開もあり得るわけです。
これに関してあのウォーレン・バフェットが言った金言があるのですが、バフェットというと、もともとバリュー投資をやると認識されていますし、特に昔はそういった動きをしていました。
実際にITバブルの時も下手なIT銘柄に手を出さずに、バリュー株に徹底することによって、損失を逃れたと言われています。
しかし、そのバフェットは『そこそこの企業を素晴らしい価格で買うよりも、素晴らしい企業を、そこそこの価格で買う方が良い』と言っています。
すなわち、ずっと強くて成長が続く銘柄を、PER20倍とか25倍とかの安くない水準でも、買った方が良いということを、あのバフェットが言っています。
これはどういうことかと、実はずっと私の中でもモヤモヤしていました。
ただ金言を1つ理解できたのがGoogleへの投資です。
私は投資顧問サービスやっているのですが、このAlphabet(Google)を2017年の8月に推奨しました。
株価が930ドルでPERが23倍でした。
このPER23倍というのは、当時私が扱っていた銘柄の中でもかなり高いPERだったと思います。
しかし、なぜこの銘柄を推奨したのかというと、このウォーレン・バフェットの金言に従ったからです。
素晴らしい企業というのは間違いないと思っていましたので、PER23倍で割安とは言えないけれども、これぐらいなら買いではないかと思いました。
その後、ずっと2019年の後半までそんなに上がらなくて、1000円前後をウロウロする展開が続いていたのですが、このコロナショックがありまして、2021年の8月には2800ドル、そしてPERは30倍とそんなに上がっていないのですが、利益の成長によって、株価がなんと3倍にも成長しました。
ここからわかることは、しっかりした銘柄を持っていれば、別に割安な銘柄を買わなくても、十分に成長できるということです。
特に、Googleに関してはもう非の打ち所がないくらいのビジネスモデルを持っています。
私は一度推奨した銘柄はフォローし続け、何かあった時にはすぐに分析を入れるとか、それをお客さんに発信することを行っていますが、Googleに関しては、そういったことをする必要はほぼありませんでした。
もう、1回買っただけで放っておく状態でした。
そのように放っておいたにも関わらず、何もせずに4年で3倍ものを利益を上げることができているので、私としてはこういった投資を目指したいなと思っています。
Next: ピーター・リンチの考え方を応用。高PERの割安銘柄をどう見つけるか
PEGレシオの妥当性は?
ただ難しいのが「PER23倍でも買い」と言いましたが、なかなかPER23倍で割安と見出すのは容易ではないです。
そこで、一般的に使われる投資の指標としてPEGレシオというものがあります。
PEGレシオ、すなわち成長性を加味して、株価の割安感を探るという指標です。
このPEGレシオとは、PERを年間の利益成長率で割ったものです。
これが1以下ならば成長性に対して十分に割安であると言えます。
この考え方をもとに伝説的な投資信託の利益を上げたのが、アメリカのファンドマネージャーであるピーター・リンチという人です。
例えば実際の数字を当てはめるならば、PERが15倍で成長率が10%ならPEGは1.5ということになります。
ただ少し気になったのが、PERと利益成長の数学的な関係がまったく無いのです。
感覚的な数字でしかなくて、それに疑問を抱いていました。
例えばPERが10倍だとしたら、成長率10%なのですが、成長率を10%もあるのに、PERが10倍の銘柄ってそうそう存在しません。
PEGレシオが1を下回るような銘柄は見つからないのではないかと思っていました。
そこで私が考えたのが、5年で2倍という投資の1つの目標と立てたらどうなるかということです。
5年で2倍だったら、年率は15パーセントの成長になります。
これを達成するためにはどうしたらいいかという観点で、PERとEPS成長を見直してみました。
5年で2倍を達成するための前提です。
株価はEPSとPERによって算出されます。
そして5年後のPERは15倍に収束するというような仮定を置きました。
これはどんなに良い成長する企業でも、どこかでその成長が止まるということも考えて、成長が止まるのだとしたら、どれぐらいのPERに落ち着くべきか、保守的に通常平均である15倍に収束すると考えて計算してみました。
また成長率は複利での年率平均ということになるので、例えば5年で2倍なんですけれども、4年間は100でいって、5年後に200になった場合も年率平均15倍という数字になります。
この前提をもとに計算したのがこのグラフです。
これはPER10倍の時に、利益成長が何パーセントあれば、5年で2倍が達成できるかというものです。
このグラフで言うならば、青線よりも上にあれば5年で2倍以上が期待できます。
具体的な数字を当てはめますと、例えばPER10倍の場合に、5.9%以上の年間成長率があれば、5年で2倍を達成する可能性が高いと言えます。
さらに、15倍の場合14.9%、20倍の場合21.7%、25倍の場合27.2%ということになります。
こうやって計算してみると、実は先ほど説明したPEGレシオというのは、案外、的を得ています。
例えば15倍で14.9%ですから、PEG1というのはほぼ当てはまるわけです。
それが20倍も25倍もかなり近い数字になっているわけです。
ただ一点、気をつけなければならないのが、PERが下がってくるとかなり違ってくるというところです。
10倍の場合、すなわち6%の成長ぐらいで十分に倍を達成し得るということです。
ここから分かることは、確かにこの15倍以上だったら、だいたいPEGレシオ1以下というのが当てはまってくるですが、割安株になればなるほど、そこまで大きな成長しなくても十分に成長率に対して割安と取れるということです。
もっとも、ここで前提としているのがPER10倍から最終的に5年後には15倍になる、すなわちその間も成長しているので、成長性が見直されて、高い評価をむしろ受けたというところになってくるので、その点に関しては注意が必要です。
ただ可能性としては、割安株のところにもありますし、一方でPERが高くなっても全く買えないかというと、そうではなくて、それなりにハードルは上がっているのですが、そのハードルを越えるような銘柄があれば、十分に利益を上げられる可能性があります。
むしろPERが高い銘柄というのは、先ほどのGoogleで説明したように、非常に良い銘柄である可能性が高いです。
そういった銘柄は、本当に何もしなくて放っておいても大丈夫な場合があります。
ぜひ私はそういった銘柄を探したいと思います。
Next: 素晴らしい企業を少しでも割安な価格で買うこと。例えばどんな企業?
「5年で2倍」を達成した企業は?
この5年の平均のEPS成長率というところですが、具体的にこの年間5.9%、それから14.9、21.7、27.2と、どういう企業が達成しているのかというのを知っているとイメージが湧くと思います。
これは福利ですから、毎年平均で25%以上成長し続けるというのは容易ではありません。
ただそういった企業も中にはあるので、ぜひ次の例て見ていただきたいのですが、6%に関しては、多くの企業が達成しているのです。
だからこそPER10倍とかの中で、成長率はそこそこの銘柄を見つけ出すのは、それほど難しくないです。
これがバリュー投資が人気を集めている1つの要因でもあります。
その中で、過去5年間に関して年率6%以上というのを達成しているわけです。
ヤクルトも地道な会社のイメージがあります。ヤクルトとか綜合警備保障、ツルハドラッグ、それからHOYA、そして日本電産も、この辺に収まってきます。
その前が結構伸びてたのですが、実は最近は6%程度ということです。
さらに15%ととなりますと、これはPER15倍だったら、2倍以上達成できそうかなというところなのですが、それでもいわゆる高成長企業といわれるところが入ってきます。
信越化学工業や、リクルート、そしてニトリと、この辺が年率15%ということなので、将来PERが15倍に戻るならという前提なんですが、5年で2倍というリターンを達成したければ、15倍よりも安い価格では買いたいというところであります。
さらに22%では、ワークマン、ライオン、エステートと、似たような会社になってしまいました。
けれども例えば20%以上となると、ワークマンはかなりの成長株ですよね。
ここまでにならないと、年率20%の成長は達成できないことは、1つ肝に銘じていただいた方が良いと思います。
このEPSがずっと伸び続けるというのはそんな簡単ではない、一方で、もし見つけたらかなり銘柄の選択肢が広がると言えるかもしれません。
27%以上では、神戸物産とかIRジャパンというところもあります。
1つ異質なのが、ソニーです。
かなりの大型株ですが、ソニーはずっと伸び続けたというよりは、色々試行錯誤してきたことによって、まさに復活銘柄としてここに来ているわけです。
こういった企業だったら、仮にPERが今現時点で30倍で同じような成長が続くのだったら、現在のPER30倍ぐらいであっても、十分、5年で2倍とというリターンが期待できると言えます。
結論として言えることは、とにかく割安な成長株を買えということです。
一番大切なのは冒頭でも言いましたが、長くなればなるほど利益の成長がどれだけ続くかが大切になってきます。
そういったしっかりした素晴らしい企業を、少しでも割安な価格で買いたいとのです。
もちろん割安株がダメではなくて、成長株が割安で置かれているなら、これ以上に良いことはありません。
ただその割安な成長株を見つける基準として単純にPERが安いというだけでは、見つからないので、このPEGレシオや、先ほどのグラフみたいな5年で2倍を達成できるかどうかを一つ目安にしていただければ良いと思います。
これをやっていただくことによって、単純な割安株だけではなくて、割安で成長する株をきっと見つけ出せることになってきます。
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
※上記は企業業績等一般的な情報提供を目的とするものであり、金融商品への投資や金融サービスの購入を勧誘するものではありません。上記に基づく行動により発生したいかなる損失についても、当社は一切の責任を負いかねます。内容には正確性を期しておりますが、それを保証するものではありませんので、取扱いには十分留意してください。
『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年8月29日号)より
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。