マネーボイス メニュー

岸田氏“二階おろし”で首相就任か。支持率低迷も「野党よりマシ」で自公政権は揺るがない=山崎和邦

いよいよ自民党総裁選に向けて政治が動き始めた。いったい誰の「顔」で秋の総選挙を戦うのか。菅政権の失策、有力候補とされる岸田氏、さらには小池氏の出馬可能性も含めて今後の展開を考えたい。(「週報『投機の流儀』」山崎和邦)

【関連】東京五輪を敢行し玉砕する日本。「反対7割」声届かず、なぜ我が国は現実逃避を好むのか=山崎和邦

※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2021年7月4日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

岸田文雄氏、自民党総裁選に出馬

9月末の任期満了に伴う自民党総裁選に、岸田文雄(前政調会長、外務大臣も経験)が総裁選に出馬する方針を、26日に正式に表明した。岸田文雄氏は、安倍政権時代に外相を務め、党政調会長という要職も務め、ソツなく切り抜けてきた秀才肌のリーダーだった。

元々、外務省というのは、いくつもの派閥に別れていて、非常に複雑な官庁であり、小泉総理の時、田中真紀子氏が外務大臣を務めて「伏魔殿」と言い続け、官庁としての機能停止により、短期間で更迭された。当時の総理大臣・小泉純一郎氏は、自分を総理にしてくれた強い協力者であった田中真紀子氏を、外務官僚の動きが止まってしまったことで、直ちに更迭したのは見事な人事だった。

田中真紀子氏は、前任者の河野洋平(河野太郎の父)を非難し、彼の泊まった部屋にカメラを入れて「こんな贅沢な部屋に泊まっている」などという、劇場型の批判もしてみせた。

岸田元外務大臣は、そのような批判を受けることもなく、米中の間に挟まれた難しい立場の日本の外交を、ソツなくこなしてきたので、おそらく外務官僚も、うまく機能させてきたのであろうと想像できる。昨年9月の総裁選で初めて出馬し、幹事長(注)の二階氏が推す菅氏に大差で敗れたが、石破茂元幹事長を上回って、2位にはなった。

菅と岸田、この両者を並べれば、前職の官房長官をソツなく丁寧にやってみせた菅氏と、最も難しいと言われる外務大臣を、最も難しい時期にやり抜けた岸田氏と、比較すればどう映るだろうか(筆者注:自民党の幹事長職は、企業で言えば人事部と財務経理部との専管部署である。権力を握れる)。

米中の狭間で外務大臣を務めた岸田文雄氏の実力

彼の横顔は、年齢・家族・尊敬する人・座右の銘・派閥・経歴・アルコール・愛読書等はメディアで報じているから本稿では割愛する。

彼の直近の動きを簡単に要約しよう。26日の記者会見で、出馬を正式に表明した彼は「総裁を除く、党役員の任期を3年まで」と提起していたことを確認した。

これは、次のような意味があると思う。

現政権で圧倒的な力を握るのは菅・二階であるが、安倍前首相も麻生副総裁も以前から二階氏との間に距離が生じている。そこで岸田氏は安倍・麻生両氏に秋波を送ってきた。細田・麻生・岸田の三派を合わせれば、党所属議員の半数になり、総裁選で主導権を握れると読んだ。

あからさまに言えば「二階おろし」である。

菅内閣の支持率低下には、経済優先でコロナ失政があると見ている。岸田氏は、大学は早大だが、高校は開成高校卒業の秀才型である。(筆者は大学よりも高校を重視する。13歳から19歳までの少年時代6年間を意味するからである。学歴を高校別で言えば、日比谷高校が圧倒的に多かった。今は学区制が大幅に変わったから、そういうことはなくなっただろうが……。)

そして岸田氏は、最も難しいと言われる外務大臣をソツなく務めた経歴がある。日本は、安全保障は100%米国に頼り、輸出立国の最大顧客が中国である。核を持たずに米中の狭間に立つ極東の大国としての日本は、独裁国家で核保有国の中国・ロシア・北朝鮮に地理的にも近いが、核兵器を使う戦争は、人類の破滅に直結するから今後はないであろう。

したがって筆者の意見では、核兵器は使えないのだから、核は抑止力にならない。が、5000人に限って破滅させるとか、一軍事基地だけを破滅させるというような小型核兵器は抑止力になり、その小型核兵器は弾道距離が短いから、中国・北朝鮮に対しては日本の九州辺りを基地に置きたいというのが当然、米国が考える抑止力になるだろう。

ますます難しくなる外交は、元々難しい問題だった。2~3ヶ月しか務まらなかった外務大臣や3ヶ月で更迭された外務大臣もいた。

また、霞ヶ関に集まる秀才の中で外交官試験を突破してきた者だけが、官僚の幹部になるから、知能指数も高いし、プライドも高いし、英語圏内・中国語圏内・イスラム語圏内・ロシア語圏内という派閥もあるし、すべての情報が外交活動と許認可関係を通して外務省に集まるから、一部はCIA的な情報の集中所にもなり、難しい部門であると筆者も想定していた。これをソツなく務めてきたという経歴は岸田氏の能力を高いと思う。

岸田氏は、例えば、愛読書吉川英治の「宮本武蔵」などというものを堂々と言ったり、書いたりするのだから、人柄の一端をうかがえるような気がする。

筆者が中学時代に感激して読み、その後は、裏から見た宮本武蔵、客観的に見た宮本武蔵、巌流島の後の宮本武蔵、など、あらゆるものを読んできた。宮本武蔵に対しては、世に出ているほとんどのものを、長編短編ともに読んできた。その「吉川英治の宮本武蔵」(表から観た武蔵)を堂々と言うくらいだから、率直大胆な人と見える。

普通、愛読書などは簡単には云いたくないものだ。愛読書は吉川英治とともに、ドストエフスキーの「罪と罰」を挙げている。その他の彼の横顔についてはメディアが多く挙げているから、ここでは割愛する

Next: コロナ無策、横浜市長選惨敗の「自滅」で続投を困難にした菅総理



菅総理のスケジュールを狂わせた横浜市長選

菅総理が自分の地元の横浜で、自分が推薦した候補の前職が誰にでも知られている立場にありながら、18万票もの差をつけられて落選したということは、菅総理に対する不信任感の象徴である。これを自民党幹部が「市長選と国政とは全く関係がない」と強弁しているが、大いに関係しているからこそ、糊塗していることがミエミエである。

菅総理自身の方が「重く受け止める」と言っている。

本来ならば、横浜市長選に菅の推薦した候補が圧勝し、パラリンピック終了後に衆院解散の段取りを考える手はずだったと思う。これがすべて狂った。

そこで、政権支持の不安定国政の不安定という悪材料が、一部分ではあろうが終わったという意味で、先週月曜日の株価は高かったのだと思う。総裁選には出馬すると菅氏自身は言っているが、苦労人が売り物の彼は、実は降りるのかもしれない。

今からそれを言うわけにはいかない。対安倍・対二階氏の関係で言えない。

コロナ無策が響いた菅政権

東京五輪の延期が決まったのは、昨年3月19日の大底から5日目の3月24日だった。株式市場では大底を脱したが、まだ修羅場だった。

この時に、空港での水際対策を徹底的に改善することはできただろう。無論、水際対策は講じられてはいて、すべての入国者に14日間の待機期間を求めたりはしていた。

しかし、昨年五輪の延期が決まった時に、濃厚接触者の確認、PCR検査の徹底、検査陽性者が待機する宿泊施設の確保、それに向けた空港と保健所・医療機関の連携体制、これらを当時から徹底することはできたはずだ。当時はトランプが「コロナなんてたいしたことはない」と発言していたし、そういうポーズもとってきた。

当時は安倍政権ではあったが、安倍政権がトランプに迎合したわけではないだろうが、五輪延期が決まった時に、直ちに徹底的な水際対策をすべきだった。五輪と感染対策は「安心安全」という言葉とともに、二者択一としても問題視されたが、本来は二項対立させる問題ではない。まったく本質の違った項目を並べて二項対立させることは、筆者に言わせれば思考停止状態でしかない。

社会的価値(人権尊重・民主主義・健康など)と、経済的価値(市場でお金で取り引きできる)とを二項対立的に考えるのは、経済学の公理を無視するものである。

Next: 内閣支持率低下のチャンスに野党は迷走、自公政権は揺るがない



内閣支持率低下のチャンスに野党は迷走、自公政権は揺るがない

緊急事態宣言の下で開催された東京五輪の強行開催は、菅政権の支持率を落としたか?

これについては植草一秀氏と、リチャード・クー氏は正反対の見方をしている。植草一秀氏は「菅コロナ大失政」として、東京五輪開催を強行した結果、コロナ感染が爆発したと言い、その根拠は「第一は感染力の強い種が感染の中核に置き換わったこと。第二は五輪開催強行で人々の行動抑制のタガが外れたこと」と言い、菅コロナ大失政による感染爆発であると言っている。
※出典:スリーネイションズリサーチ(8月16日号)

これに対してリチャード・クー氏は、東京五輪関係者で7月1日~8月14日の陽性者数は累計540名で、その内訳で最も多いのは、同大会で業務委託先事業者に従事する293名であり、アスリートの感染者は29名だけだったとしている。東京五輪に関する公式ホームページで調べた結果だそうである。
※出典:マンデー・ミーティング・メモ(8月16日号)

これは、ルールに反した者は、競技へ参加をさせないというIOCの強いスタンスがもたらした成果だと思う。

そこへ行くと、日本の感染対策は、いまだにルールがきちんと決まっていない。約200ヶ国から、約6万人のオリンピック関係者が集まった大会で、感染を(R・クーが言う通りに)コントロールできたにもかかわらず、自国内の感染の抑え込みに失敗したのは、IOCのようなしっかりとしたルールとマニュアルを作っていなかったのであろう。

その意味では、やはり植草氏が言う通り「菅コロナ大失政」と言われても止むを得ないであろう。

もっとも、植草氏は20年以上前から反権威で売ってきた。今回も「五輪開催強行でコロナ感染が爆発した」と前掲誌で述べているが、その真偽は別にしても、内閣支持率30%を割り込んだ内閣は、10ヶ月以内に退陣するのが過去の経験則だから、この経験則は今回も的中する可能性は高いと筆者は思っている。

キングメーカーだった二階氏は、菅の続投を言い、元首相の安倍氏も菅続投を言う。この両者ともに、それを言わなければ自分自身の政治生命を自分で絶つことになるからだ。

だから、少なくとも今のうちは「菅続投」を言わなければいけない立場にある。

その一方で、立憲民主党は迷走を続けているが、薩長同盟という野党連合を成立させた坂本龍馬ような人間が出てこない限り、野党共闘体制を確立することはできない。

野党の迷走は続くであろう。

Next: 女性首相を売り物にするという「奇策」はあるだろうか?



女性首相を売り物にするという「奇策」はあるだろうか?

8月12日に東京都のコロナ感染症モニタリング会議が開かれ、専門家は東京の感染状況を「制御不能」と表現した。「安心安全な五輪」という菅政権のスローガンは虚妄だったと言っているに等しい。8月初旬のいくつかの世論調査では内閣支持率が30%を割った。

小池都知事が200%ないと言っていたはずの国政に復帰して、初の女性首相を売り物にするという「奇策」も噂されているが、小池氏は、嘘つきで、目立ちたがり屋で、権力を持った男にすり寄ることは巧みで、この何十年も嘘と目立ちたがり屋と、男に擦り寄る巧みさ、という特殊な才能でここまで来た女性である。

そこで事実として言えることは、次の2つのことだと思う。

1)7月28日の自宅療養推奨
2)ワクチンを確保していないうちに若者にワクチン接種を呼びかけた

こういう失敗を総括すれば、強弁に強弁を重ねて、政策を正当化するに違いないから、自分の誤りを1度でも認めたら、今までの誤りをすべて認めなければならなくなり、権力が一気に崩壊する。彼女はそれを知っているから、これからも強気姿勢は絶対に崩さない。

また、それを利用しようとする動きもあり、日本国で初の女性首相を産むという奇策を用いて政権支持率を高めようという考えを持つ者も多かろう。そして海外から見れば、初めての女性首相は英国のサッチャーであり、ドイツのメルケルであり、両方ともそれなりの効果を出した名首相であった。

もちろん副作用があるのは当たり前で、効果のある政策には何事にも大きな副作用を伴う。どちらに焦点を当てるかの問題である。両方から見なければならないというのが中庸の道である。

続きはご購読ください。初月無料です

<山崎和邦の投機の流儀 vol.482 8/29号>

■ 第1部;当面の市況
(1)「相場は、相場に聞け」─米の出口戦略表明を「懸念材料の表面化」と見て、「不透明な霧が晴れた」と評価する市況
(2)先週明け23日(月)の大幅高を見て考えること、これも同じだ
(3)2万7,000が当面の下値抵抗線化するか
(4)個人投資家の心理状況を反映するマザーズ指数
(5)海外勢は国債を4週間ぶりに売り越し
(6)自民党総裁選
(7)岸田文雄氏、総裁選
(8)横浜市長選ですべてのスケジュールは狂った
(9)菅政権のコロナ対策の無策
(10)内閣支持率低下でも、野党の迷走は続くから、自公の政権党の座は揺るがない
(11)女性首相を売り物にするという「奇策」はあるか?

■ 第2部:中長期の見方
(1)米国のインフレ懸念→金融緩和の幕引きは近い
(2)FRBの資産買い入れの縮小(「テーパリング」)の影響
(3)年金基金の運営の陰に潜むリスク
(4)スイスとイギリスから見た日本はどう映っているか?
(5)人民元の軽重
(6)「円ドル相場は105円から115円の水準で推移、90円台はもう来ない」
(7)米中冷戦は、米ソ冷戦よりも複雑で解決困難である
(8)「世界の警察は辞めた」と公言したのはオバマ元大統領だったが、バイデンの今の苦境とアフガンの問題を本稿で無視して通る訳には行かず、筆者の友人 嶌信彦氏の文を掲載して替える。嶌信彦通信:2021年8月25日 VOL.285
(9)東電HDの「第4次総合事業特別計画」
※これらの項目は有料メルマガ購読者限定コンテンツです →いますぐ初月無料購読!

<初月無料購読ですぐ読める! 8月配信済みバックナンバー>

※2021年8月中に初月無料の定期購読手続きを完了すると、以下の号がすぐに届きます。

2021年8月配信分
  • 山崎和邦の投機の流儀vol.482(8/29)
  • ★★★ 2021年8月分一覧 週報『投機の流儀』-PDF形式-(8/29)
  • 山崎和邦の投機の流儀vol.481(8/22)
  • ★★★ 2021年8月分一覧 週報『投機の流儀』-PDF形式-(8/22)
  • 山崎和邦の投機の流儀vol.480(8/15)
  • ★★★ 2021年8月分一覧 週報『投機の流儀』-PDF形式-(8/15)
  • 山崎和邦の投機の流儀vol.479(8/8)
  • ★★★ 2021年8月分一覧 週報『投機の流儀』-PDF形式-(8/8)
  • 山崎和邦の投機の流儀vol.478(8/1)
  • ★★★ 2021年8月分一覧 週報『投機の流儀』-PDF形式-(8/1)

いますぐ初月無料購読!


※本記事は有料メルマガ『山崎和邦 週報『投機の流儀』』2021年8月29日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会にバックナンバー含め今月分すべて無料のお試し購読をどうぞ。

【関連】2021年の不動産市況を大予測!マイホームは“買い”か“待ち”か=姫野秀喜

【関連】高額落札が続出。日本はデジタル資産「NFT」革命の大波に乗れるか=鈴木傾城

山崎和邦 週報『投機の流儀』』(2021年8月29日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

初月無料お試し購読OK!有料メルマガ好評配信中

山崎和邦 週報『投機の流儀』

[月額1,500円(税込) 毎週日曜日(年末年始を除く)]
大学院教授(金融論、日本経済特殊講義)は世を忍ぶ仮の姿。その実態は投資歴54年の現役投資家。前半は野村證券で投資家の資金運用。後半は、自己資金で金融資産を構築。さらに、現在は現役投資家、かつ「研究者」として大学院で講義。2007年7月24日「日本株は大天井」、2009年3月14日「買い方にとっては絶好のバーゲンセールになる」と予言。日経平均株価を18000円でピークと予想し、7000円で買い戻せと、見通すことができた秘密は? その答えは、このメルマガ「投機の流儀」を読めば分かります。

シェアランキング

編集部のオススメ記事

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
MONEY VOICEの最新情報をお届けします。