一般的に、退職金は老後の生活資金であって、ローン返済に使うのは老後破綻のリスクを高めると言われています。それでも「借金は早く返したい」という方が多いでしょう。そこで今回は、本当に退職金は住宅ローンの返済に使っていけないのか、実際に計算して検証します。(『【人生の添乗員(R)】からのワンポイントメッセージ』牧野寿和)
ファイナンシャルプランナー、牧野FP事務所代表。「人生の添乗員(R)」を名乗り、住宅取得計画やローンプラン、相続などの相談業務のほか、不動産投資、賃貸経営のアドバイスなども行う。著書に『銀行も不動産屋も絶対教えてくれない! 頭金ゼロでムリなく家を買う方法』(河出書房新社)など。
「退職金はローン返済に使ってはいけない」は本当か?
「退職金は老後の生活資金」と位置づけられていて、住宅ローンの返済資金に使ってはいけない。と言われています。
しかし、「少しでも早く借金を返したい」との思いから、退職金の一部また全額を、住宅ローンの繰り上げ返済資金に使うことを計画している方もいます。
そこで今回は、「ローン返済表」を使って、本当に退職金は住宅ローンの返済に使っていけないのか?実際に計算して検証いたします。
なお、今回記事の中で使用する「ローン返済表」は、当メルマガ2021年6月9日発行の第449号「住宅ローン返済表の活用方法〜繰り上げ返済編〜」と同じものです。本稿は、この「ローン返済表」がなくても内容が理解できるように記述しています。記事の中で使っている「ローン返済表」をご覧になりたい方は、牧野FP事務所のホームページから、「週刊メルマガ」をクリックしてご覧ください。
住宅ローン返済に使うと危険なワケ
退職金を住宅ローンの返済に使えない理由として、以下の2つが挙げられます。
1)ローンの返済に使うと、その分、手元に現金がなくなり、急にお金が必要なときに困る。また、お金を借りると高額な利息になる
2)ローン返済期間の末期に繰り上げ返済して完済しても、利息支払いの低減効果は少ない
(2)については、本年6月9日発行の当メルマガ第449号「住宅ローン返済表の活用方法〜繰り上げ返済編〜」で、実証いたしました。
そこで、今回は(1)について検証いたします。
Aさんの事例:35歳で借りた「35年ローン」を62歳で完済して大失敗
使用している「ローン返済表」は、サラリーマンのAさんが35歳の時、自宅を購入するのに、○○銀行から70歳までの35年返済で、住宅購入資金の融資を受け、返済に住宅ローンを契約したとします。
その住宅ローンの以下について、返済回数420回分を記述した表です。
・完済まで毎月の返済額
・返済額のうち元本返済分と利息分の内訳
・毎月の返済後の残債
Aさんの住宅ローン契約内容は、以下とします。
・借入額:3,000万円
・返済期間35年間(420回)
・全期間固定金利
・金利:年1.0
・毎月の返済額:84,686円
・ボーナス返済はなし
まず、Aさんのことを知りましょう。
Aさんは現在62歳のサラリーマンです。60歳の時に長年勤めていた会社を一旦定年退職して、その時退職金を受け取りました。その後、今までの勤務先に再雇用されていました。
62歳になったとき、かねてよりお付き合いのあった取引先に、顧問として勤務することになり、この際、返済がまだ8年間残っている、住宅ローンを繰り上げ返済して完済し、すっきりした気持ちで新しい職場にいこうと考えていました。
Next: 繰り上げ返済した場合、「利息軽減効果」はいくらになる?
繰り上げ返済した場合、「利息軽減効果」はいくらになる?
Aさんが考えている住宅ローンの繰り上げ返済の内容は、以下の通りです。
<現在の住宅ローンの状況>
・住宅ローンの完済予定年齢:70歳
・現在の住宅ローンの残債:8年(96回)分
・毎月の返済額(利息分も込):8万4,686円
従って、今後の返済総額は、8万4,686円 × 96回=814万7,328円となります。
この814万7,328円を一度に繰り上げて返済する。つまり、完済することです。
<繰り上げ返済する効果>
繰り上げ返済することで、予定より8年早く、62歳で完済することができます。
利息の軽減額は、「ローン返済表」の「利息」の欄の記載額6,573円以降325回から420回71円まで足していくと、「31万9,814円分の利息」の支払いが、軽減されることになります。
ほかに、完済後に、抵当権を抹消登記といった費用が必要になります。詳細は、住宅ローンを契約した契約書や担当者に、確認した方が良いでしょう。
完済したあと、手持ちの現金はどうなる
住宅ローンを完済すれば、借金の返済が終了して、気持ちは楽になるでしょう。またご自宅は、自分のものになります。負債もなくなり、不動産資産を所有していることになるのです。
ただし、手持ちの現金が無くなります。
今回のAさんの場合は、繰り上げ返済に使った約815万円の現金が、なくなったことになります。
ちなみに、Aさんが毎月20万円の家計支出で、生活をしていたのなら、815万円 ÷ 20万円 = 40.75。約3年4カ月分の家計支出額を、一度に住宅ローン返済に使うことになります。
完済後、急に現金が必要になったら?
Aさんが、住宅ローンを完済後、急にまとまった現金が必要になったら、住宅ローン返済後でも、その分の現金を持っていればよいのですが、なければ、用立てする方法として、クレジットカードのキャッシングや、カードローンで借りることになるでしょう。
あるカードローンで、上記の住宅ローンの返済額と関連付けるため、借りる金融機関などで返済の条件は異なりますが、下記のように、62歳から8年間の返済で、800万円を借りることができたとします。
・金利:年3.0%
・返済期間:96回(8年)
の条件でローンを組んだとします。
・毎月の返済額:93,837円(84,686円)
・返済総額:9,008,311円(8,147,328円)
・その内利息分:1,008,311円(319,814円)
※括弧内は、上記の住宅ローンを完済したときの内容です。
つまり、住宅ローンを繰り上げ返済しないで、当初の予定通り35年間で完済した場合と、完済後、急に現金が必要になり、繰り上げ返済に使った金額とほぼ同額をカードローンで借りた場合の比較をしてみた結果です。
住宅ローンよりカードローンの方が、利息が高いため、毎月の返済額が高くなること。住宅ローンの返済末期は、利息より元本分を返済する割合が大きいことから、このような比較になります。
Aさんは、この比較した数値を確認して、住宅ローンを62歳で完済するのか、決めても遅くはありません。
念のために、住宅ローンは住宅に関連する費用に使うためのローンです。従って、この場合は借りることはできません。
Next: 定年後まで返済が続くローンは危険。借り始めの計画が最重要
借り始めの計画が大切
ここまでシミュレーションをすると、お気づきの方もいるでしょう。
住宅ローンを現役中に完済するには、借りるときに遅くても60歳までの現役中に、また繰り上げ返済をするのであれば、計画的に現役中から実行することです。
つまり、住宅ローンの返済は、現役中に終えるように計画して、借りることが大切なことなのです。
『【人生の添乗員(R)】からのワンポイントメッセージ』(2021年9月1日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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