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なぜ日本は高圧送電線が多いのか?「電力会社を殺すか殺されるか」の段階に入った地球温暖化の現実=田中優

日本の地球温暖化対策はどこまで遅れているのだろう。政策決定者と電力会社が利権となれ合いの中で談合している間に、世界は日本から見えないほど遠くなってしまった。日本は今すぐエネルギー政策を転換すべきだろう。私たちは「電力会社に滅ぼされるか、電力会社を滅ぼすか」の二者択一を迫られている。(『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』)

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※本記事は有料メルマガ『田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』2021年9月15日号の一部抜粋です。ご興味をお持ちの方はぜひこの機会に初月すべて無料のお試し購読をどうぞ。

プロフィール:田中優(たなか ゆう)
「未来バンク事業組合」理事長、「日本国際ボランティアセンター」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表。横浜市立大学、恵泉女学園大学の非常勤講師。著書(共著含む)に『未来のあたりまえシリーズ1ー電気は自給があたりまえ オフグリッドで原発のいらない暮らしへー』(合同出版)『放射能下の日本で暮らすには?』(筑摩書房)『子どもたちの未来を創るエネルギー』『地宝論』(子どもの未来社)ほか多数。

「パリ協定」の約束まであと4年、日本のCO2削減は間に合うか?

地球温暖化/電気の話と、私たちにできること』(刊:扶桑社)という新書を書いた。今回、重点的に書いたのは解決策の方だった。

というのは、残念ながらパリ議定書に書かれた約束期限までにあと4年ほどしかないのに、まともな対策がないままだからだ。

そこで本書では実効性ある解決策を述べた。1つは二酸化炭素の発生源対策だ。日本で、そして世界各国でも最も大きな発生源となっているのは「エネルギー転換部門」、要するに石炭・石油・天然ガスなどのエネルギー燃料を使って「電気」に転換する部門だ。

要は簡単に言えば発電所だ。この「エネルギー転換部門」からの二酸化炭素の排出が、日本では40.1%を占める。これを大幅に減らさずに解決することなどできないからだ。

高圧送電線はもう必要ない。古い電力ビジネスに反旗を翻すべき

解決策としては、これまでの大規模発電所から高圧配線を使って、全国各地へと電気を配っていく仕組みを止めようと主張している。

当然、それは無理だという反論が出るだろう。これまでの電気の中央集権の仕組みに慣らされた人にとっては、それは無理で無茶な話だと思うわけだ。

だが、世界はそうでもない。アメリカの大手エネルギー会社の「ビストラ社」を見てみよう。全米最多クラスの36基の天然ガス発電所を有するビストラ社が、「これ以上は発電所を買収または建設する予定はない」と述べたのだ。

代わりに、テキサス州とカリフォルニア州で太陽光発電所と蓄電池に10億ドル以上を投資し、変貌する電力業界で生き残りを賭けたのだ。

信じられないほど抜本的に事業の転換を図る意向だ。「私はこのレガシービジネスが衰退していくのを、黙って見守るつもりはない」と述べ、古いしきたりの電力ビジネスモデルに反旗を翻したのだ。

どういうことか。ちゃんと考えている人なら簡単に分かることだ。

Next: 送電ロスの大きい高圧送電線は日本に合わない



送電ロスの大きい高圧送電線は日本に合わない

要は小さな電気から集めて電気を届けるのに、高圧送電線の仕組みは合わないのだ。ちょっと以下の図を見てほしい。

これは日本で最初にオフグリッド(高圧送電線網=グリッドから離れること)を提唱した慧通信技術工業の粟田さんが、同社の開発したエコワンソーラーのホームページに示したグラフだ。

左の円グラフは家庭の用途別のエネルギー消費量を示し、給湯のエネルギー消費だけで30%を占めることを示している。エネルギーというと電気ばかり考えがちだが、実は熱として使う部分も少なからずあるのだ。特に風呂が好きな日本人にとっては。

熱を電気で作るのは効率が悪いが例外がある。それがヒートポンプを利用した場合だ。そのヒートポンプを使って熱を自給する試みがエコワンソーラーの仕組みであるのだ。

そして図の右側を見てほしい。電気にした場合の家庭に届くまでの熱効率が描かれている。実に化石燃料の63%が排熱や送電ロスに消えてしまい、37%しか届いていない。発電時のロスは特に原子力に大きく、熱の内の3割程度しか電気になっていない。放射能と隔離しなければならないため、発電ロスが大きくならざるを得ないのだ。

そして負けず劣らず送電ロスも大きい。高圧で送電すればロスも少なくなるのだが、家庭のような小さな電気を供給するには低圧にせざるを得ない。特に自然エネルギーの電気では、低圧の電気で拾い集めるため、ロスは極めて大きくなる。各地で作られる自然エネルギーの電気は、ロスとして消えてしまうのだ。

するとそうしたグリッドシステムに頼るガス火力発電所に投資しても、資金回収が終わる20年間に取り戻すことができるだろうか。自然エネルギーは低圧のため、送電線でロスが大きい。

上図に示したように、100Vの低圧線に送られた電気は、50万Vの高圧線と比べて、実に2億倍もロスするのだ。「超」がつくほどの高圧線で電気を送るのは、この送電ロスで消えてしまうのを恐れるためだ。逆に家庭で作ったつもりの自然エネルギーの電気は、高圧線に入って送られる前にほとんど消えている。

「再生可能エネルギー促進賦課金」は自然エネルギー設備を設置した人を喜ばせるための高額買取制度で、その実自然エネルギー設備の普及にはほとんど役立っていないのだ。

せいぜいが、設備を設置した人の家の近隣に電気が届くだけのことだが、むしろその電気の電流・電圧が電力会社からの送電より不安定であるため、家庭の電化製品などに悪影響を及ぼす可能性がある。

それを安定した電気にして送電するためには、バッテリーなどに蓄電して整えてから送電した方がいい。大規模に自然エネルギーの電気で電気を供給するなど、グリッドを前提にしたならできない相談なのだ。

Next: 日本のエネルギー政策は周回遅れ。発電所はすぐに「座礁資産」となる



日本のエネルギー政策は周回遅れ。発電所はすぐに「座礁資産」となる

そんな中、アメリカの大手電力会社の「ビストラ社」は、「今後のことを見越すと天然ガスの発電所など資金回収のできない「座礁資産」となる」と懸念したのだ。

そして燃料費の要らない自然エネルギーの電気とバッテリーでの蓄電に投資した。

新設した投資費用を回収できなければ、投資は浅瀬に乗り上げて座礁したタンカーのように、どうにもならない無様な姿をさらすだろう。

このようになってしまうことを例えて、「座礁資産」と呼ぶ。先日まで投資する最も安くて効率が良いはずの「天然ガス」火力発電所ですら、「座礁資産となるだろう」と見ているのだ。

日本はいったい、どこまで遅れているのだろう。日本の政策決定者と電力会社が利権となれ合いの中で談合している間に、世界は日本から見えないほど遠くなってしまった。何周もの周回遅れのランナーとなっていたのだ。

地球温暖化問題は「電力会社に滅ぼされるか、電力会社を滅ぼすか」の二者択一

だからシンプルに言うと、今や地球温暖化問題は、「電力会社に滅ぼされるか、電力会社を滅ぼすか」の二者択一を迫られているのだ。

私はこんな事態にした電力会社を免責する気にはならない。こんな会社にしないためのチャンスは何度もあった。しかしその度に電力会社はまともに取り合わず、利益と利権のために頬かむりしたのだ。

では、電気はどうしたら効率良く届けられるだろうか。

どうしたら効率よく電気を届けられるのか?

ここまで書いてきて、送電ロスの怖さが際立っていると思う。低圧の電気を送電すると、どんどんロスしてしまうのだ。

自然エネルギーとグリッドとはつくづく相性が悪いと思う。送電ロスが大きすぎて、ほとんど発電して無駄なのだ。その送電ロスとの対比で言えば、バッテリーの自然放電ロスも「Yahoo知恵袋」によれば、以下のようになっている。

ベストアンサー:jun********さん(2011/8/26 16:06)

充電効率という指標で表されます。充電エネルギーを100とした場合に、取り出せるエネルギーを示したもので、電池によって異なります。

<充電効率>
リチウムイオン電池:95~99%
ニッケル水素電池:62.5~90%
鉛蓄電池:50~92%
NaS電池:90%

この数字に加えて、直流から交流への変換ロス(80~90%程度)も加わることになるのでしょう。

現在、普及させようとしている家庭用蓄電池システムはリチウムイオン電池を利用したもので、上記の通り、効率は高くなっています。ただ、保存特性の悪さをどのように解決しているのかは不明です。

現状、安価で構築できるのは、鉛蓄電池を利用するものですが、エネルギー密度が小さく、重量が大きくなります。

※参考:蓄電池の充放電のロスは、行きと帰りでどれくらいになるのですか? – Yahoo!知恵袋

つまり、直流で取り出す時点の「充電効率」でいえば、1%~5%のロスしかないことになる。しかし、その後に直流を交流に戻すインバーターの時点で、10~20%ロスすることになる。そうだとしても従来の発送電ロスと比べると、桁違いに効率が良いのだ。

すると小さな電気の扱い方は、送電するとロスが大きくなるので送電せずに、なるべく発電した近くで蓄電した方がいいことになる。可能なら直流のまま使い、インバーターを経由しない方がいい。

そうすると小さな電気を生み出す小規模な太陽光発電パネルやピコ水力発電の場合には、その場で蓄電して使うのが良いことになる。

Next: 電力会社の利権が邪魔をする。地球温暖化はどうすれば解決するか?



解決策は、小さく作った電気をその地域で消費すること

「再生可能エネルギー促進賦課金」は、わざわざ自然エネルギーの電気の電気を使わせないための障害となっている。だからFIT(自然エネルギーの電気の固定買取制度)では、わざわざ蓄電池を備えた場合は買取価格が下がるように設定されているのだ。

このような電力会社の利権のための制度には乗らない方がいい。

地域で小さく作った電気は、地域で消費した方が良いのだ。これは画期的に大きな変化だ。

今までは巨大送電線のグリッドに支配されていたのが、各地域での電力自給システムにつながる。しかも二酸化炭素の排出量は自然エネルギーの電気を使う限りゼロになる。日本で最大の二酸化炭素排出源の「エネルギー転換部門」からの二酸化炭素の排出を防げるのだ。

しかし、おそらく一番大きい影響は、家庭が買い支えてきた電気料金の収入を電力会社に与えなくなることだろう。そうしたらこれまで野放図に与えられてきた資金が途絶えることになる。

そうすると原子力発電はもとより、勝手に支出してきた仕組みが許されなくなる。

電力イノベーションは次の段階へ

それではこれで電力のイノベーションは終わりだろうか。いや、次の段階に入るだろう。

その1つはバッテリーシステムの改革だ。こんな記事が掲載された。 リチウムイオンの10%のコストで電力を保存する という「鉄空気電池システム」だ。
※参考:リチウムイオンの10%のコストで電力を保存する「鉄空気電池システム」 – fabcross for エンジニア(2021年9月6日配信)

これは鉄空気電池は、以下のような仕組みだ。

「鉄の可逆的酸化」を介して機能する。放電時には、何千もの小さな鉄のペレットを空気に晒し、酸化反応させることによって電力を発生する。充電時にはシステムに電流を流すと酸化鉄から酸素が除去される還元反応が起こる。Form Energyの鉄空気電池は最大100時間電力供給でき、コストはリチウムイオン電池の10分の1未満だという。

何度も同じ可逆反応できる鉄の性質を利用し、酸化させたり還元させたりして電気を貯蔵する。そのすごさは、まず「価格」だ。従来のリチウムイオンバッテリーの10分の一だと言う。しかも鉄の可逆反応を用いるのだから、永遠とは言わないがかなり長く使える。

こんなものが普通に使えるようになったら、間違いなく世界は変わる。そしてその変化は不可逆的なものになるだろう。もう元には戻らなくなるのだ。

Next: 地球温暖化の加害者はごく少数の営利企業。打倒する手段はある



地球温暖化の加害者はごく少数の営利企業

世界の地球温暖化問題は待ったなしの事態になった。しかしその二酸化炭素を排出する加害者は、ごくわずかの営利企業なのだ。

世界の中で、化石燃料の出す二酸化炭素の73%を排出しているのは、わずか5%の電力会社だという。その世界第10位には、中部電力の碧南石炭火力発電所が存在する。同じく日本での二酸化炭素の排出源でも碧南火力発電所が第1位だ。
※参考:CO2排出量ランキング!日本で一番たくさんのCO2を出しているのはどこのだれ? – 気候ネットワーク・ブログ(2021年8月31日配信)

「みんなのライフスタイル」なんかではない。明らかな加害者がいるのにみんなの問題にすり替えるのは責任転嫁だ。

これを問題にして、電力会社から電気を買うのを止めよう。そして未来にも人々が生存できる環境を残そう。

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田中優の‘持続する志’(有料・活動支援版)』(2021年9月15日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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