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丸亀製麺「うどん弁当」爆売れ!他社がマネできぬ味の秘密。“中食”制覇で業績V字回復、韓国スピード撤退の裏に常識破りの経営力=馬渕磨理子

丸亀製麺を運営するトリドールHD<3397>の22年第1四半期(21年4~6月期)決算では、営業利益が47億円の黒字(前年同期35億円の赤字)に浮上。コロナ以前の19年4~6月期の営業利益22億円を大幅に上回るV字回復となりました。コロナ禍による緊急事態宣言が続くなか、どうやって大きく売上を伸ばしたのか。その理由と今後の成長性について解説します。(馬渕磨理子)

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プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi

丸亀製麺、コロナ以前の水準を上回る「V字回復」

8月13日発表のトリドールHDの決算は、22年第1四半期(21年4~6月期)の営業利益が47億円の黒字(前年同期35億円の赤字)に浮上しました。第1四半期の段階で進捗率は営業利益(93.5%)、当期純利益(198.7%)と第1四半期時点の合格点である25%を大きく上回っています。

それだけでなく、コロナ以前の19年4~6月期の営業利益22億円の黒字をも上回っていることになります。

飲食業界はコロナのダメージを最も受けた業界であり、トリドールも例外ではありません。実際、21年3月期の純利益は54億円の赤字(前期19億円の黒字)に転落しています。そこから、22年3月期の第1四半期には47億円の黒字というデータだけ見ても、V字回復の様相を呈しています。

22年3月期の通期の見通しは売上収益が前期比15%増の1,550億円、営業損益が51億円の黒字(前期73億円の赤字)を見込んでいます。

なぜここまで回復できたのか。今回は、トリドールの主力事業である「丸亀製麺」の奮闘についてご紹介します。

出典:トリドールHD決算説明資料より馬渕作成

なぜコロナ禍でも急成長?

営業利益の四半期ベースでの推移を見てみると、緊急事態宣言の影響を色濃く受けていることが分かります。しかし、22年第1四半期の回復が目覚ましいのはなぜでしょうか?また、好調な業績は継続するのでしょうか?

トリドールの主力業態である「丸亀製麺」の取り組みを深掘りしていきます。

本格的な讃岐うどんが食べられる「丸亀製麺」の第1四半期の業績を牽引したのは、4月に発売した「丸亀うどん弁当」(390円税込)の大ヒットにあります。店内飲食の回復もありましたが、持ち帰り需要の拡大が業績の回復をけん引しました。

結論から言えば、コロナによって「外食」と「中食」のボーダレス化が進行しました。「中食」とは調理済みの食品を購入し、自宅や職場などで食べることです。今までは、「外食」しかあり得ないと考えていた分野でも「中食化」が進んだのです。

丸亀製麺はこの動きを早くから予想し、「外食」のイメージの強い「うどん」を「中食」に選んでもらえるように取り組みを行った点が勝因でしょう。

その先見性と努力により、「うどん弁当」はすでに1,200万食以上を販売しています(公式HPより ※10月10日時点)。

8月の決算発表では900万食と報告されており、その売上への貢献度合いも驚きです。売上構成比10%前後に達し、1Q時点で31億円の売上に貢献するという、驚異的な数字をたたき出しています。

8月の決算発表から10月までに、さらに300万食伸ばしていることになり、業績の堅調さは続きそうです。

Next: 爆売れ中の「うどん弁当」は先見の明と企業努力の産物



900万食販売「うどん弁当」は常識破りのヒット商品

いきなり丸亀製麺は「うどん弁当」という大ヒット商品を生み出したのでしょうか? いいえ、ヒットが生まれる土壌を、自ら地道に作っていました。

丸亀製麺は、コロナの感染拡大により、2020年4月より専用容器によるテイクアウトを開始し、順次全国展開しています。それに加えて、20年6月よりモバイルオーダー開始し、ロードサイド店全店に導入を完了しています。

この時点でテイクアウト比率13%台でしたが、引き続き中食ニーズの取り込みを強化し続けていました。その中で、4月に新商品の「うどん弁当」を展開したことで、テイクアウト比率を20%台へ、グッと引き上げることに成功しています。

コロナ禍で、テイクアウトやモバイルオーダーに対応した企業が生き残った話は、すでに他の外食企業でも事例があります。それに加えて、新商品もカギを握っています。

ところで、皆さんは「うどん弁当」のネーミングをサラッと聞き流していませんか。「うどん」+「弁当」です。コシが命のうどんにとって、「弁当」は相性が悪いはずです。

丸亀製麺と言えば、全店舗で国産小麦粉・塩・水で毎日麺をつくり、だしや天ぷらも手づくり・できたてにこだわり続けています。そんな、丸亀製麺にとって、弁当はハードルが高い商品なのです。

売れる土壌を自ら育てた丸亀製麺

実際に、商品開発には試行錯誤を繰り返して、「うどん弁当」に入れるおかずは100品以上試食するなど、努力を続けた結果、できあがった商品なのです。

「うどん弁当」は作り置きするのではなく、注文ごとにつくることで、打ち立て・茹でたてのうどんと、手作りの天ぷらのサクサク感も損なわずに提供することを可能にしました。

「うどん弁当」の発売以前から、早くにテイクアウトをはじめたことや、モバイルオーダーを取り入れたことで、「うどん弁当」の新商品を投入した際に、スムーズに商品を提供できる“インフラ”が丸亀製麺にはできていたのです。

「うどん弁当」は「2時間以内にお召し上がりください」と記載のあるように「生もの」なのです。その思いは「どこで食べても、丸亀食感」であって欲しい。

コロナで店内での飲食が憚られる日々が続き、それでも、できたてのツルっとコシのあるうどんを食べたい人々の胃袋と心を満たすことができたのです。

「うどん弁当」は従来型のテイクアウトの、どれにしようかな?という「選ぶ楽しさ」と「手軽さ」を大事にしたことで、より多くのテイクアウト需要の取り込みに成功しました。

出典:トリドールHD決算説明資料

いまだ、人気が衰えることのない「うどん弁当」。

今後は、テイクアウト専用窓口を設置し、よりスピーディーな提供を続けていく予定を発表しており、貪欲なまでに、改善を続ける姿勢です。

Next: 世界12カ国1,000店舗展開、地域によって分かれる明暗



丸亀製麺、韓国から撤退。ハワイ店は絶好調

丸亀製麺は海外にも店舗を展開しており、昨年までに世界12カ国に進出し、その店舗数は1,000以上にも及びます。

しかし、地域によって明暗が分かれています。

韓国は撤退。2012年にソウルに第1号店をオープンしたのを皮切りに、主要都市を中心に12店舗を展開してましたが、日本製品不買運動の煽りを受け、最後は新型コロナウイルスによる営業制限が追い打ちをかけ、今年の8月15日に韓国から撤退しました。

しかし、日本企業の韓国撤退は、丸亀製麺だけではありません。20年にファーストリテイリングが展開するGUが韓国進出を早々に撤退を表明し、明洞に構えていたユニクロの超大型店舗も閉店させています。そのほか、日産も、インフィニティブランドと共に韓国市場から撤退することを発表していることから、厳しいのは丸亀製麺だけでなかったと言えるでしょう。企業努力だけでは、どうにもならない事情も当然あります。

一方で、丸亀製麺はハワイでの回復が目覚ましいようです。アメリカのワクチン接種は、日本よりも早く進んだこともあり、経済の再開も早かったことで、一気にコロナ以前の水準を超える勢いで稼働しています。決算説明資料によれば7月時点で過去最高月商を記録したと報告しており、いち早く経済再開の恩恵を受けています。

出典:トリドールHD決算説明資料

コロナで、テイクアウトや中食のニーズを捉えることは飲食業界であれば、どの企業も取り組みを強化しています。その中で、一つ頭を抜けるためには「スピード感」と「できない思い込みを取り払う」ことなのでしょう。

当然、地政学的にどうにもならない事情に巻き込まれることもありますが、丸亀製麺のV字回復は通常の経済活動の中であれば、企業努力が無駄にはならない証明でもあります。

「うどん+弁当」という業界人であればあり得ない、「常識を覆す力」こそが企業の原動力なのでしょう。そこに、人々のニーズがあり、喜ぶ顔がイメージできれば突き進む。

経済が再開に向かい、厳しい冬の時代から一筋の光が見えてきたかに感じられる中で、丸亀製麺のさらなる快進撃を見守りたいです。

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image by:Gage Skidmore at Wikimedia Commons [CC BY 3.0], via Wikimedia Commons

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年10月12日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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