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富士急ハイランドに客足戻るか?ドドンパ事故・県有地裁判に経営陣絶叫も成長回復が期待できるワケ=馬渕磨理子

コロナ感染者数の減少に伴い、テーマパークや遊園地に客足が戻ることが予想されます。絶叫マシンで有名な富士急ハイランドもその1つですが、現在は大きな問題を2つも抱えていて、上昇していた株価は失速が見られます。富士急ハイランドを運営する富士急行<9010>の成長は続くのか?今後の見通しについて解説します。(馬渕磨理子)

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プロフィール:馬渕 磨理子(まぶち まりこ)
京都大学公共政策大学院、修士過程を修了。フィスコ企業リサーチレポーターとして、個別銘柄の分析を行う。認定テクニカルアナリスト(CMTA®)。全国各地で登壇、日経CNBC出演、プレジデント、SPA!など多数メディア掲載の実績を持つ。また、ベンチャー企業でマーケティング・未上場企業のアナリスト業務を担当するパラレルキャリア。大学時代は国際政治学を専攻し、ミス同志社を受賞。
Twitter:https://twitter.com/marikomabuchi

富士急ハイランドが抱える2つの問題

コロナで休業や営業時間の短縮などを余儀なくされてきたテーマパークや遊園地ですが、感染者数が減ってきたことで「リベンジ消費」が見込まれています。

数々の絶叫マシンを抱えるテーマパーク「富士急ハイランド」も例外ではありません。いよいよ経済再開に向かい、客足が戻ることが期待されています。

しかし、淡い期待を抱けるほど、状況は簡単ではありません。富士急ハイランドを運営する富士急行<9010>は、2つの大きな問題を抱えています。

1つ目は「格安賃料の訴訟」。
2つ目は、ジェットコースター「ド・ドドンパの負傷報告」です。

コロナとはまったく関係のないネガティブな問題を抱えているのが、現在の富士急行です。それらを踏まえて、今後の企業としての立ち上がり、株価の見通しを解説します。

富士急行の売上構成比率は?

2つの懸念材料について解説する前に、富士急行の売上構成比率を確認しましょう。

売上高構成比率はレジャー・サービス業(45%)、運輸事業(35%)、不動産(5%)、その他(15%)であり、富士急ハイランドやホテル事業であるレジャー・サービス業が売上の大半を占めています。

コロナ後のデータでは売上高が全体的に減少したこともあり、運輸事業が(26%)に減少する一方で、レジャー・サービス業は(49%)の割合が増加しています。

コロナ前・コロナ後でも、富士急行の屋台骨であるレジャー・サービス業の業績動向が同社の未来を占うのは間違いないでしょう。

Next: 山梨県有地を不当に安く借りていた?住民訴訟が業績に影を落とす



山梨県有地「格安賃貸」の訴訟

まず「訴訟」について。これは売上高比率5%の不動産事業に関わる話です。

富士急行では、90年前から山中湖畔に別荘地の経営を行っており、富士急行の「祖業」のひとつだとも言われています。

当初、別荘地の開発構想は山梨県が打ち出し、富士急行が富士北麓に鉄道を敷して地域を開発する共同事業のようなものとして、お互いに信頼し合って二人三脚で長年進めてきた歴史があります。

しかし、どうやら、その関係性がねじれてしまったようです。

そもそもの発端は、山梨県が富士急行に貸している県有地について、南アルプス市の男性が「賃料が不当に安い」として、県に対し歴代知事や富士急行に支払いを求める訴訟を起こしたこと。

裁判では当初、県は訴訟に対して争う姿勢でしたが、長崎知事に変わってから「賃料の算定に重大な誤りがあった」と方針を転換し、富士急行に対し適切な対価を求めるとしました。

これを受けて、南アルプス市の男性は、歴代知事への損害賠償請求を取り下げ、富士急行に対しては、損害賠償請求の時効になっていない2001年まで遡った金額である、約364億円を請求する内容に変更しました。

これに伴って、山梨県は富士急行に対して「反訴」をしています。それまでは、富士急行と一緒に住民に訴訟される側だったのですが、住民からの歴代知事への訴訟が取り下げられた段階で、山梨県が富士急行を訴えることになったのです。

県の主張では、県がこれまで被った損害は総額約364億円ですが、そのうち、時効が成立しない金額である約93億を遅延損害金として富士急行に請求しています。

これに対し、富士急行は「山梨県の主張は根拠のないものであり、当社が損害賠償義務を負う理由はないものと考えております」また、「裁判において当社の正当性を主張して争っていく方針です」と発表。

山梨県と富士急行は90年以上前から、未開の富士北麓エリアを景観や自然の保護を図りつつ開発してきた歴史があります。

山梨県の突然の方針転換や反訴によって両社が長年築き上げてきた信頼関係にひびが入ったことになります。

今後の展開次第では、富士急行の経営にも大きな影響を及ぼしかねないと考えられますが、株式市場の反応は今のところ、限定的です。

富士急行<9010> 週足(SBI証券提供)

株式市場でのダメージが大きいのは、来場者数に影響を及ぼす「ド・ドドンパ」での負傷事故の方でしょう。

Next: 「ド・ドドンパ」ほか人気アトラクションで負傷事故が続出、影響は?



「ド・ドドンパ」で負傷者続出、株価への影響は

ド・ドドンパと言えば、富士急ハイランドの名物ジェットコースターで、発射1.56秒で時速180kmに達し、世界No.1の加速と世界最大級のループを誇るアトラクションです。

大人気アトラクション「ド・ドドンパ」での負傷者は、ここまで計12人となったことを報告しています。そして、9月21日には、別のアトラクション「FUJIYAMA」と「ええじゃないか」でも2人の負傷が判明。負傷者は計14人となりました。

株価は、一時はコロナ以前ピークの水準(19年9月4,830円)を上回っていましたが、今年の8月以降には再度19年9月の水準を下回り株価4,225円まで下落しています。

背景には、前述のジェットコースター「ド・ドドンパ」の利用客が負傷したことですが。それだけでなく、負傷があったことを、原因は乗客側にあるとして2021年8月まで山梨県へ報告していなかったのです。

その後、富士急ハイランドは2021年8月12日から施設を運休し、事故があったことを8月17日に山梨県へ通知、山梨県が建築基準法に基づいて21日から立ち入り調査を始めていました。

これらが明らかになり、富士急行ハイランドへ客足が遠のき、業績へも悪影響が出るのではないかとの懸念から株価が下落しています。

新型コロナウイルスの感染拡大や訪日外国人客の消滅で厳しい収益環境に置かれていることは間違いないですが、ここからさらに一段安となるには、さらなる悪材料が出ない限り下値を模索する動きは出ないと見られます。

今期は「黒字浮上」の見通し

このように大きな問題を2つ抱えている富士急行ですが、業績そのものは「黒字浮上」の見通しです。

コロナのダメージで、21年3月期の営業利益は30億円の赤字に転落しましたが、22年3月期は25億円の黒字に回復する見通しです。

また、コロナでも前向きな取り組みを行ってきました。

富士急行は、7月1日~8月末まで、富士急ハイランドを含めて約30施設では、ワクチン接種者に対して入場料金の割引や特典などを用意してきました。

また、富士急ハイランドでは、7月下旬に新設する『FUJIYAMAタワー』の入場料大人1人1,400円が無料になるなどの、取り組みを行っています。

Next: ジェットコースターのような急回復は望めない?今後の成長性



ジェットコースターのような急回復は望めないが、緩やかに成長へ向かう

さらに、非接触化を実現するために『富士急ハイランド公式アプリ』の導入を行い、チケットの購入から顔認証登録を事前に行うことで入園時の非接触化に成功しています。アプリによって、各アトラクションの待ち時間をリアルタイムで表示でき、待ち時間を短縮する絶叫優先券の購入など、快適に園内で過ごせる工夫や、デジタルマップ上でのルート案内機能等の様々なサービスがスマートフォン1つで利用可能となっています。

その他、富士急ハイランドでは大人気忍者アニメ「NARUTO-ナルト-」の世界観を楽しめるライド型VRアトラクション「幻影劇場」をオープン。

また、混雑を避けながら4大コースター(FUJIYAMA、高飛車、ド・ドドンパ、ええじゃないか)を自由に乗車できる優先入園特典付きのフリーパスの販売を行うなど、話題の獲得と集客に努めています。

キャンプブランド「PICA」を展開するアウトドア事業では、10代〜20代女性を中心に絶大な人気を誇る恋愛番組『恋とオオカミには騙されない』とのコラボレーション企画を実施するなど、若年層を取り込むためのキャンペーンを行っています。

さらに、富士急ハイランドに隣接する「ふじやま温泉」では、サウナをフルリニューアルし、心地よい温度・湿度を楽しめる「IKIストーブ」や富士山の天然水を噴射する「自動ロウリュ」を導入して「FUJIYAMA SAUNA」としてオープンするなど、ユーザーを飽きさせない努力を継続しています。

「ド・ドドンパ」の負傷報告はネガティブな報道ですが、富士急ハイランドが愛されていることには変わりはなさそうです。

また、「格安賃料の訴訟」もまだ決着が着くには時間を要することを考えれば、この先は、やはり経済再開に伴う、レジャー・サービス業、ホテル事業の立ち上がりの期待の方が大きいでしょう。

ジェットコースターのような急発進ではなく、緩やかな立ち上がりが期待できそうです。

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image by:Blanscape / Shutterstock.com

本記事は『マネーボイス』のための書き下ろしです(2021年10月20日)
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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