原油価格の高騰を受けて、日本の大手石油開発企業INPEX<1605>が関連銘柄として注目されています。果たして「買い」なのでしょうか?長期投資としてアリかナシかを解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。
原油関連銘柄インペックスは1年で株価が80%上昇
直近で原油価格が大きく上昇し、その関連銘柄としてインペックスに注目が集まっています。
WTI原油先物価格が1バレル80ドルを超えて7年ぶりの高値となっています。皆さんもガソリンスタンド等で実感していると思います。
この背景にあるのは、コロナ禍の終焉に伴う経済活動の再開の一方で、原油価格がOPEC等によって抑えられており、供給が減って需要が増えれば当然、価格が上がる…といった状況でこうなっているわけです。
インペックスはまさに原油関連銘柄で、この1年で株価が約80%上昇しています。
原油関連というと、長期的にはESG(環境・社会・ガバナンス)、環境によくないということで脱炭素の取り組みが広がっていますし、コロナショックの時にはいよいよ需要がなくて先物価格が一時マイナスになるという危機的な状況でしたから、そこからするとだいぶ持ち直してきたなという感覚があるわけです。
「国策銘柄」としての意味合いが色濃く残る
インペックスは実は国策銘柄でもあり、経済産業大臣が株式の18%保有する上に東京証券取引所では唯一の”黄金株”(株を持っていれば株主総会での拒否権を持つ、経済産業大臣が所有)というものです。
元々、国の機関として設立されたものですから、国策銘柄としての意味合いが色濃く残っているわけです。
これは経済安全保障というところでして、もし何かあった時に日本が自らの力で石油を調達できないと大変なことになりますから、このインペックスがその役割を担って世界中に原油の採掘を行っているわけです。
ビジネスモデルとしては、石油天然ガスの探鉱になります。
これはいわゆるオイルメジャーと言われるもので、世界にはもっと大きなオイルメジャーがたくさんあります。
そんな中でインペックス(国際石油開発帝石)は22位ということで中堅どころです。
ここからわかることは、必ずしも世界的に強い力を持っているわけではないけれども、日本の国策企業として粛々と行っているという会社です。
Next: 割安?割高?「有価証券報告書」を見れば一目瞭然
有価報告書を見れば現在価値がわかる
オイルメジャーの価値判断は、非常にシンプルなものになっています。
なぜなら、売っているものが石油ですから、その価格というのは持っている油田の埋蔵量と原油価格で企業の価値が判断できるからです。
したがって、価値をベースとした我々長期投資家としては非常に分かりやすいものです。
正確に言うと、いま埋まっている石油の量というだけではなくて、石油を一気に全部取り出すことはできないので、順々に取り出すことになりますが、それを時系列の中で掘って、そしてその時にかかるコストを割り引いて、さらに将来に取れるものは今の価値に割り引くという作業を金融の世界ではやります。
割引現在価値というところで計算されています。
これを企業価値評価で言うならば「ディスカウントキャッシュフロー法」という最も基礎となる評価方法と同じやり方をしていますから、これが分かることでインペックスに関しては企業価値の答えが出てしまっているわけです。
しかも、その答えを自分で計算する必要もなく、有価証券報告書にぜんぶ書いてあります。
では、今の価格の想定ですが、原油価格が80ドルぐらいに上がっています。
ここから計算すると、2020年と単純に比較して、原油価格が43ドルから80ドルと1.86倍になっていて、埋蔵価値も1.86倍して約2.2兆円というところです。
ここから有利子負債の1.2兆円を引いて「1兆円」、これがインペックスの企業価値となります。
現在の株価は割安ではない
現在の時価総額は1.4兆円と少し多くなっていますが、これは原油価格の上昇余地や新たな油田の開発による成長が加味されているものと思われます。
基本的にはインペックスの価値は原油価格と連動するものだと考えてください。
そう考えると、株価の割高割安というものは、有価証券報告書に答えが書いてあることになります。
少なくとももう現在時価総額の方が埋蔵価値よりも高いですから、今の原油価格を考えると割安ということは、なかなかないわけです。
もちろん、今から原油価格がさらに上がってくれば価値自体の上昇余地もありますが、「割安だから」という理由で投資をする銘柄ではありません。
Next: 長期投資には不向きか。石油関連を買うなら他の銘柄を
長期投資には不向きか
業績を見てみますと、正直あまり冴えない展開が続いています。
原油価格と連動するということも確かですが、世界においても必ずしも強い力を持っている会社でもありませんし、さらには脱炭素の流れも続いていますから、このように業績にはあまり芳しくありません。
キャッシュフローを見ても、一方では採掘を続けなければならないので緑の投資キャッシュローはどうしてもマイナスが大きくなってしまいます。
その結果、フリーキャッシュフロー(営業CF-投資CF)はマイナスの年が多いというところになっています。
フリーキャッシュフローがマイナスの年が多い会社というのは、どんどん会社からお金が無くなっていくので、価値を増やしていくのは容易ではありません。
したがって、価値を継続的に増やすの難しいでしょうし、原油価格が上がり続けるという想定もなかなかできないので、長期投資向きの銘柄とは言えません。
配当銘柄としても難アリ
一方で、株価が原油価格に連動するとしたら、株を持っている間は配当がもらえますから、配当が高ければ良いのではないかと見えるかもしれません。
今期の予想のインペックスの配当利回りは4%を超えています。
インペックスの配当方針は、固定配当が24円で、業績が良い時はトータルで配当性向が30%を超えるような配当も出すと言っています。
今期は原油価格の高騰によって業績が良いと想定されますので、配当が40円という予想を出しています。 これを踏まえた時の配当利回りが4.15%となります。
それなら良いのではないかと思うかもしれませんが、インペックスの業績は原油価格に連動するので、原油価格が下落した時には当然、業績も下がります。 そうなると、24円の下限にまで達してしまう可能性もあるわけです。 その時の利回りは2.49%というところになってきますから、配当銘柄にもなりにくいかと思います。
同時に株価も下がるということになりますので、ダブルのマイナスを食らうというところになってきます。
石油関連で長期で持つなら、以前解説したエネオスなどの銘柄をおすすめします
(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)
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『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年10月24日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。