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日本郵政株は今すぐ手放せ。政府の大量売却で株価上昇は望み薄、配当にも期待できぬ理由=栫井駿介

日本郵政<6178>について解説します。直近で政府の株式の売り出しがありましたが、この売り出しで買われた方も多いのではないかと思います。果たして、買った方はこのまま持っていていいのか?長期投資家の目線で分析します。結論を先に言いますと、すぐに手放すべきだと考えます。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

日本郵政の現状の厳しさ

まず、これが日本郵政の現在の状況です。

日本郵政<6178>(SBI証券提供)

上場から見た時の株価というのは右肩下がりになっていて、コロナ禍で大きく下がったところからは一時回復しましたが、この売り出しを受けてまた下がっているというところです。

売り出しというと政府が株を市場に売るわけですから、市場の株式需給が悪化して基本的にはやはり下落しやすい環境になります。

一方で、これだけ下がってきたがゆえにバリエーション指標が非常に低い数値となっていて、10倍を切ったら即割安というように見えるPERが9.32倍、純資産と比べて1倍を下回れば割安とされるPBRはなんと0.25倍と純資産の4分の1でしか評価されていないという数字になっています。

さらには配当利回りは5%を超えて5.94%と、それだけ見ると超高利回り商品のようにも見えます。いま割安で配当もあるので、株価が伸びるのであれば長期で持てるという考え方もできます。

日本郵政の主力事業は「銀行業」

日本郵政がどんな事業をやっているのかというと、持ち株会社になっていて、日本郵政、ゆうちょ銀行、かんぽ生命の3社から成ります。

このグループのメインの収益源は何なのかを見るために経常利益の部分を確認します。

これを見れば分かるように、収益の大部分は郵便ではなくて銀行などからもたらされているものなのです。

つまり、日本郵政グループは郵便の会社だと思われがちですが、金融事業によって支えられているというところがあります。

事業の損益の見通しを考えるためには、ゆうちょ銀行とかんぽ銀行を見ていくことが有効だと考えられます。

まず、ゆうちょ銀行です。

ゆうちょ銀行<7182> 業績(SBI証券提供)

経常利益が右肩下がりになっています。

1つの要因としては金利が低いことが挙げられます。 銀行ですからどうしても金利がつかないといくら預金を預かってそれを運用しても利益が上がらないという状況があります。

一方で預金残高自体は増えているのですがやはり金利の低下には抗えていません。 利益がどんどん目減りしています。

かんぽ生命に関しても同じような状況が続いていて、ましてつい最近にはかんぽ生命の保険商品を売るのにかなり強引な営業とか不正な営業というのがあり、そういった不祥事も相まってどんどん収益が落ちていっている状況です。

かんぽ生命保険<7181> 業績(SBI証券提供)

直近で利益が少し上がっていますが、これがなんと不祥事によって営業活動を自粛したことにより、コストが下がり利益が上がったといういびつな状況になっています。

要するに、長期で見ればジリ貧ということです。

Next: 日本郵政株は手放すが吉?郵便の取扱数量は減少、配送業も競争が激しい



郵便の取扱数量は減少、配送業も競争が激しい

さらには、皆さん分かっていると思いますが、連絡手段として郵便を積極的に使おうとは思いませんよね。 無くなることもないですが、郵便の取扱数量は減少しています。

一方で伸びているのは「ゆうパック」なのですけれども、ゆうパックはヤマトや佐川との競争もあって大変な業界でもあります。

また、ゆうちょ銀行とかんぽ生命の窓口手数料も、ネットバンキングもあり窓口を使う人が減り、収益が落ちてきています。

オーストラリアのトールの一部を買収した国際物流事業もありますが、これも赤字だったりギリギリ黒字だったりというかなり厳しい状況です。

トータルで見ると、業績はどこをとっても落ちてきていて、株価も同じように下がってきているということです。

外部環境・内部統制ともに問題が多い

以前も言及したように、実は私自身が証券会社に所属していた時に日本郵政の担当をしていました。

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なので会社のことをよく調べるわけですが、知れば知るほどこの会社はどうも厳しいなというような状況が見て取れたわけです。

外部環境として郵便が厳しいのは明らかですけれども、それ以上にですね、内部の経営というのが統制が取れたものになっていないのです。

経営陣は役所や銀行からの天下りだったりしますし、職員に関しても、これまでは公的機関だったので身を守りがちで、頑張って業績を伸ばしていこうというような人たちの集まりではないのです。

そんな中でかんぽ生命の不祥事にあった通り、民営化してノルマだけは追加されることになり、その結果不正がはびこってしまう、明らかになったのは最近ですが、上場を準備していた頃から問題になったりしていました。

それほどこの会社は厳しいと言わざるを得ないところがあるわけです。

おすすめは、やはり「手放す」ことだと思います

Next: 日本郵政のポジティブ面とネガティブ面を整理。



郵政のポジティブ面

あまり良いところが無い日本郵政ですが、上向く要因も少なからずあります。

ポジティブ要因として、1つは金利の上昇があります。

収益の大部分を占めるのはゆうちょ銀行とかんぽ生命なので金利が上がれば必然的に収益が上がってきます。 これはゆうちょ銀行に限らず他の銀行についても言えることです。

ゆうパックは好調というところもありますから、単純にやっていてはなかなか利益を出すのは難しいと思いますが、うまく効率化できればプラスに働き得ると思います。

また、日本郵政が新たな中期計画の中で盛んに言っていることが、DXによるコスト削減です。

これは一方で人を減らすことになるのでリストラにも繋がりますが、利益を伸ばすためには必要なことでもあります。

郵政のネガティブ面

ネガティブ要因はこれまでいくつも挙げてきましたが、まずデジタル化によって郵便自体が減少しています。 DXを利用してプラスになる部分もありますが、やはりマイナスの部分が非常に大きいです。

それから人件費です。 人は減らそうとしていますが一方で人手不足にもなっていますし、最近では岸田政権の政策にもなっている非正規雇用の人も社会保障に入れるということになると、会社も一部を負担しなければならないのでその分人件費も上がることになります。

不祥事によってもはや死に体となっている「かんぽ生命」をどうするのかという問題もあります。

これらのことから、単純にこれまでの流れだけでは良くなくて、リストラを含む抜本的な外科手術が必要になると私は考えています。

簡単なことでは立ち直るのは難しいです。

今は元岩手県知事の増田さんが社長となって改革を行おうとしていますが、この方は民間経験があるわけではありませんから、まだまだ前途多難だと思います。

Next: 配当金は高いが、長期安定して出し続けられるかは疑問



配当金は長期安定するのか?

こういった、成長があまり見込めなくて一方で規模だけはあるから安心できるというような企業を見るときに大切なのは、配当です。

株価の上昇はどうしても見込みにくいところがありますから、一方で安定した配当を出し続けてくれれば、それくらいのリターンは得られるという見方をしなければなりません。

日本郵政の配当は毎年50円というのを基本としています。 2025年度まではこの50円を維持するというふうに言っています。

ところが、今回の政府の売り出しによって政府の売却が終了したのです。

政府が売却を計画しているうちは、政府もなるべく高い価格で売却したいので、なんとか配当は維持させて、株価を少しでも高く留まらせようと考えるのではないかと思います。

しかし、売却が終了してしまいましたから、もう日本郵政の株価を高く留めておくべき理由が無くなってしまいました。

従ってこの配当が2025年以降どうなるかということも分かりませんし、もしかしたら2025年を待たずに減配してもおかしくないです。

利益が減っていて、50円の配当を維持するといっても配当性向50%超という利益の半分以上を配当に出すという状況が続いています。

正直、先の見込みもあまりありませんから、いつ減配してもおかしくないという状況ではないかと思います。

政府が売ったのは、さらに下がる可能性があるから?

そもそも、国有財産である日本郵政株をPBR0.25倍という本来あるべきところの4分の1で売ったのは、復興財源に充てるという名目があるので、2027年度までに売らなければならないということもありますが、今以上に下がる可能性があるからではないかと考えられます。

ここで言えることは、政府が株価を下支えする思惑もなくなりつつあるというところではないかと思います。

では、そんな時に投資家としてどうするのか、特に今回の売り出しで820円で購入した人はどうするのか。

11月10日水曜日の終値であるが842円で売却するとしたら、22円、購入金額に対して3%の利益が出ます。しかも売却するので、以降の株価変動リスクはありません。

一方で配当を見込んで保有を継続した場合、3月末まで保有したら50円ですから、6.1%の配当を得られ、これで考えるとほぼトントンという風にも見えます。

ただし、持ち続けて配当を受ける権利を獲得した後というのは、株価が維持されるかというとそうではなくて、多くの場合、高配当株であればあるほど、その後この配当分くらいは株価が下がりやすいのです。

「配当落ち」という現象です。

これは2021年の3月末のものですが、3月29日から翌営業日にかけて終値ベースで68円下落しました。

配当の50円をもらって売ってしまうことが多く、その直前にある程度上がることもありますが、結局それまでの株価推移がものを言いますから配当をもらおうと思っていてもなかなか厳しい部分もあります。

Next: 長期で見ると、日本郵政の株を持っておく理由は乏しい



配当落ちで株価が下がり、減配の可能性もある

さらには株を持ち続ける限りは、保有期間における株価変動リスクを負うことになります。

長期で見た時に、金利の上昇を除いてはそうそう株価は上がりにくく、確かに割安ではありますが、一方で業績がかなり厳しいですから、買いたい投資家はそう多くないのではないかと思います。

見どころといえばやはり配当だけというところになってきて、万が一業績悪化などによって減配があるとしたら、さらなる株価の下落というのをを想定しておかなければならないかと思います。

このように、日本郵政の株は持っていてもあまり良いことはないというのが私の結論です。 もし売り出しで買われた方がいらっしゃいましたら、速やかに売却することをおすすめします。

そして、もっと成長性の見込める良い企業に投資するというのが、確立の高い方法だと思います。

(※編注:今回の記事は動画でも解説されています。ご興味をお持ちの方は、ぜひチャンネル登録してほかの解説動画もご視聴ください。)


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image by:Osugi / Shutterstock.com

バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』(2021年11月1日号)より
※記事タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による

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【毎日少し賢くなる投資情報】長期投資の王道であるバリュー株投資家の視点から、ニュースの解説や銘柄分析、投資情報を発信します。<筆者紹介>栫井駿介(かこいしゅんすけ)。東京大学経済学部卒業、海外MBA修了。大手証券会社に勤務した後、つばめ投資顧問を設立。

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