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日本郵政の上場担当者が激白。なぜ6200億円で買収した豪企業を7億円で売る羽目に? M&Aの3大成功法則を無視するお粗末経営=栫井駿介

日本郵政は4月21日、オーストラリアの物流会社を売却し、特損674億円を計上すると発表しました。なぜ6年前に約6,000億円で購入した企業を破格で売却する羽目になったのでしょうか?実は私は、2015年にはまだ大手証券会社の投資銀行部門にいて、なんとこの日本郵政の上場担当として働いていました。したがって、この辺の実情は比較的よくわかっているつもりです。今回はその裏側を解説します。(『バリュー株投資家の見方|つばめ投資顧問』栫井駿介)

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プロフィール:栫井駿介(かこいしゅんすけ)
株式投資アドバイザー、証券アナリスト。1986年、鹿児島県生まれ。県立鶴丸高校、東京大学経済学部卒業。大手証券会社にて投資銀行業務に従事した後、2016年に独立しつばめ投資顧問設立。2011年、証券アナリスト第2次レベル試験合格。2015年、大前研一氏が主宰するBOND-BBTプログラムにてMBA取得。

なぜわずか6年で6,000億円が消えた? 日本郵政の上場担当者が解説

日本郵政は、2015年にオーストラリアの「TOLL」という物流会社を約6,200億円で買収しました。

ところが、この4月にその会社をなんと10億円で売却するという、とんでもない事態となっています。わずか6年で6,000億円が消えてしまったわけです。

実は私は、この2015年にはまだ大手証券会社の投資銀行部門にいて、なんとこの日本郵政の上場担当として働いていました。したがって、この辺の実情は比較的よくわかっているつもりです。

そこで何が起きたのかということをお話ししたいと思います。

予算ありきのお粗末な買収

2015年というと、日本郵政は上場準備をまさに行っていたところです。

日本郵政だけではなく、子会社の「ゆうちょ銀行」や「かんぽ生命」も上場すると決めて、準備を進めていました。

証券会社はその上場の手伝いをして、最終的に上場の主幹事という形で、この場合は財務省に選んでいただくということになるわけです。

私はまさにその証券会社で働いていたのですが、2014年の9月に上場の準備段階で、日本郵政はゆうちょ銀行から1兆3,000億円を吸い上げました。

どういうことかというと、正直、日本郵政としてはあまりお金がなかったのです。このグループで儲かっているのは、ゆうちょ銀行やかんぽ生命などの子会社でした。

お金がない中で、ゆうちょ銀行は、比較的に儲かっている会社でした。

これらが上場してしまうと、他に株主ができてしまい、これまで資金の融通は自由に動かせていたところが、簡単にはできなくなってしまいます。

そうなってはいけませんから、上場前にお金がたんまりとあるゆうちょ銀行からお金を吸い上げていく方法で、1兆3,000億円を動かしたわけです。

そして、そのうちの6,000億円は設備がかなり老朽化している日本郵便への投資に充てられました。

すると単純計算で、1兆3,000億円 − 6,000億円で、7,000億円のお金が残ります。

ここで何を考えるのかというと、上場するからには投資家に株を買ってもらわないといけないわけで、そのためには当然、将来の成長性というものを示さなければなりません。

この成長性のことをエクイティストーリーといいますが、人口が減少してさらにはインターネットの発達によって郵便の減少が進む日本において、日本郵政が成長するというエクイティストーリーは描きにくいですから、何か核となる話題が欲しかったわけです。

その話題のひとつに、この「海外事業の買収」が考えられました。

さらには、1兆3,000億円を吸い上げたうちの7,000億円が手元に残っていて、その7,000億円を使いたくてウズウズしていたわけです。

そこに投資銀行やМ&Aのアドバイザーの会社が売り込みをかけないわけがありません。

しかも、日本郵政はかなり官僚的な動きをします。

予算が7,000億円あって、そしてエクイティストーリーを作り上げるためには、この買収は決定事項だったと見てよいと思います。買収する会社が良いか悪いかは、問題ではありません。

そうするうちに、2015年の2月、担当していた私にとってもポッと出た案件で、「TOLL」というオーストラリアの物流会社を6,200億円で買収するというお話が出たのです。

6,200億円というのは金額としてもかなり大きいのですが、利益などに対する比率もかなり高いものです。

М&Aのときに一般的に用いられるEBITDA倍率は、平均では7倍程度です。それを11倍、さらにTOLLは上場していたため、買収プレミアムを49%も払いました。買収プレミアムは一般的には30%程度と言われていて、競争相手がいたかはどうかはわかりませんが、約50%もの高いプレミアムを払う必要があったのかはかなり疑問です。

しいて言うならば、すでに7,000億円というお金が先にあって、むしろそれに合わせて買収金額が決められたのではないかとすら思えてくる金額です。

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