日本の民主主義は破壊されつつあります。国会での虚偽答弁の多さ、資料の改ざん、黒塗りされた資料、「モリ・カケ・桜」ほかチェック体制が機能していません。このままでは中国にも劣る民主主義の後退が懸念されます。(『マンさんの経済あらかると』斎藤満)
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プロフィール:斎藤満(さいとうみつる)
1951年、東京生まれ。グローバル・エコノミスト。一橋大学卒業後、三和銀行に入行。資金為替部時代にニューヨークへ赴任、シニアエコノミストとしてワシントンの動き、とくにFRBの金融政策を探る。その後、三和銀行資金為替部チーフエコノミスト、三和証券調査部長、UFJつばさ証券投資調査部長・チーフエコノミスト、東海東京証券チーフエコノミストを経て2014年6月より独立して現職。為替や金利が動く裏で何が起こっているかを分析している。
後退した日本の「民主主義」
中国の民主化を進めたい米国。その米国に対し中国は、「自国の問題を棚に上げて手前勝手な民主主義を押し付けるな、民主主義は国ごとに異なる」と反発しています。
今や世界中で民主主義が脅かされていますが、日本も例外ではありません。
自民党が圧倒的多数を占める国会の言動を見ていると、この10年で、特に日本の民主主義が大きく後退した印象を強く受けます。
選挙は民主化の象徴か
民主主義の象徴と言われる「選挙」についても考えさせられます。
中国では今月5日に、北京市で5年に1度の地方の人民代表大会(議会)選挙が行われました。選挙といっても、共産党から認められた人間しか立候補できず、民主化を進めようとした候補者はみな排除されています。
香港でもそうでしたが、中国では選挙で民主化を進める道が閉ざされています。
民主主義のリーダーをうたう米国でも、選挙ではもめています。前回の大統領選挙でもトランプ陣営は自分らの票が盗まれたと主張、調査と数えなおしを繰り返し、結果の判明に何日もかかったばかりか、負けたトランプ陣営がホワイトハウスを占拠しようと、暴挙に出ました。
それに比べて静かに執り行われたように見える日本の今回の衆議院選挙でも、不思議なことがいくつかありました。
衆議院選で起きた不思議なこと
期日前投票がいつになく多かったとメディアは報じていましたが、結果は前回選挙時よりも少なかったといいます。
また私自身、今回は朝早めに投票に行きましたが、すでに投票所には多くの人が来ていて、並んで待つことになりました。
明らかに投票への関心が高まり、若い人の間でも投票に行こうとのSNSでの動きが高まっていました。
ところが、最終的には戦後3番目に低い投票率となりました。現場での感覚と大きくかけ離れています。
そして出口調査の結果と、最終的な結果の数字が今回は大きくかけ離れました。投票締め切り直後の票読み段階で、自民党は単独過半数を維持する見込みとされましたが、それでも大きく議席を減らす予想でした。
しかし夜中から接戦区で連続して自民が勝ち、260議席を超えて圧勝となりました。逆に立件民主は出口調査から100から145議席獲得と報じられましたが、結局96議席まで減らしました。
米国ではトランプ陣営が選挙監視に出て、チェックを重ねましたが、集計の段階で業者の手が入り、そこでの「不正」は解明できなかったものの、トランプ票が盗まれたと主張し、選挙においても、投票、集計のいずれかの段階で不正が働いたと主張しています。
この手の選挙「不正」「操作」は以前から指摘され、民主国家米国でさえ、選挙には不正の余地が大きいとされました。
日本では厳格な選挙管理監視体制がとられていますが、これだけ出口調査と結果の乖離が大きくなると、何か起きた可能性はゼロとは言えません。集計の結果について、接戦区でも米国のようなチェック、再集計の声は上がりませんでした。
集計業者の独占を廃し、複数業者で集計、チェックする体制を提言する人が出てきてもおかしくないのですが。
Next: 多すぎる国会の虚偽答弁。“アベ疑惑”を風化させていいのか?
多すぎる国会の虚偽答弁
日本の民主主義破壊の象徴となったのが、国会での虚偽答弁と資料の改ざん、黒塗りされた資料、情報の隠蔽でした。
特に安倍政権の後半以降、これが目立ちました。
安倍元総理の発言について、その虚実を調べた部署もあり、虚偽答弁の多さも指摘されています。これらに対して、罰則もなく、許された国会はいったい何だったのでしょうか。
これらの疑惑に対して、国民は大きな不信感を持ち、「モリ・カケ・桜」などの再調査を求める声が高まっています。
岸田総理も当初は再調査の姿勢を見せていましたが、どこからかの圧力に屈し、これを取り下げました。
これは民主主義を自ら否定するものです。自殺した財務省近畿財務局職員のファイルについても、夫人の公開請求でようやく開示がなされるようですが、これまで「ない」と言い張っていました。
そして国会答弁での「記憶にございません」発言はいただけません。裁判では自分に不利になる問題について黙秘権が与えられますが、国会の場は裁判ではなく、主権者国民への説明の場ですから、答えられる人が発言し、事実を国民に明かす必要があります。
大臣がわからなければ、担当部署の「答えられる人」が代わりに答弁すればよいのです。官僚の「記憶にない」発言は、不誠実で反民主的な象徴です。
公開されない国家決算
もう1つ、国としての民主主義を否定しているのが、予算の議論はしながら、実際にどう使われたかの「決算」については何ら報告も公開されていないことです。
昨年度の予算も、何度も追加補正をやりましたが、結果的に30兆円近い使い残しがあったといいます。予算以上に「決算」で実際の支出の内訳を国民に明かすのが筋です。
最近でも、オリンピックに関して、特定企業に多くの支出をし、コロナ支援に際しても特定企業に「外部委託費」の形で大金が支払われ、問題視されています。
国民の税金を使うからには、「官房機密費」も含めて、どこにどのように使ったのか、予算と決算を突き合わせて細部まで説明するのが筋です。
Next: 入国管理局で起きていた人権問題の隠蔽
人権問題の隠蔽
政府は人権問題担当の首相補佐官として新たに中谷元・元防衛相を任命。中国の人権問題を担当させる意向のようです。
しかし、欧米が中国の人権問題に対して経済制裁を決議する中で、日本はこの対中国制裁のみならず、ミャンマー、ロシアのプーチン大統領などへの制裁決議にも参加していません。
それだけでなく、国内でも入国管理の不手際でスリランカの女性が亡くなる事件がありましたが、その情報をなかなか公開せず、難民問題への消極姿勢、在日韓国人などへの差別、ジェンダー問題などで、国際的な批判を浴びています。
日本の歴史でも多くの疑問が提示されながら、それら議論さえ封じ込まれる言論統制が指摘されています。
空洞化した三権分立
こうした情報の隠蔽、虚偽答弁、操作によって国民の利益が損なわれる場合、それが権力の集中、乱用によるものならば、それを許さない体制づくりが必要になります。
その1つが憲法による政治権力の抑制であり、「三権分立」の体制です。政治権力が自ら行動の制約になっている憲法を改正して。権力行使を容易にすることは許されません。
内閣法務局は大臣答弁の虚偽をチェック公開し、官僚の人事権を官邸が握る体制を元に戻すことも必要です。
メディアのチェック機能も重要です。幹部が政府に飲食に誘われ、攻撃の刃が鈍っている状況は由々しき事態です。
このままでは中国にも劣る民主主義の後退が懸念されます。
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- 習近平政権を脅かす「一人っ子政策」のつけ(11/5)
- 不可思議なインフレ進行の波紋(11/1)
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- 中国8%成長予想に立ちはだかる3つの壁(1/20)
- バイデン政権で変わる北東アジア情勢(1/18)
- 菅政権、失敗の本質(1/15)
- FRBがトランプの呪縛から解放されると(1/13)
- インフレのステージが変わる(1/8)
- 新年の日銀金融政策を読む(1/6)
- 新年の「ブラックスワン」(1/4)
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- 鬼の居ぬ間の地政学リスク(10/5)
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『マンさんの経済あらかると』(2021年11月15日号)より一部抜粋
※タイトル・見出しはMONEY VOICE編集部による
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